-soujirou-
「おい、まだ準備できねえのかよ?みんな待ってるぜ」 と言ってドアを叩くと、中から桜子の声。 「あ、西門さんですか?ちょっと待ってくださいね」 と、ほどなくドアが開いた。 顔を出したのは滋だった。 「お待たせ!じゃ、あとは頼むね」 そう言って、さっさと部屋を出て行こうとする。 「は?おい―――」 「ホールまでのエスコート、お願いしますね」 滋のあとから桜子も出て来る。 2人してにんまりといやらしい笑みを浮かべると、呆気にとられている俺を残して行ってしまった。 「なんだあれ」 首を傾げながら部屋の中に視線を移す。 と・・・・・ 不覚にも、その姿に見惚れてしまった俺。 「あ、西門さん、遅くなってごめんね」 そう言って振り返ったのは、もちろん牧野。 ベビーピンクの、ちょっと変わったデザインのドレスに身を包み、髪はアップにしてドレスと同色のサテンのリボンで飾っていた。 ドレスのかわいらしい雰囲気に合わせたメイクもされいていて、いつになく女の子らしい姿の牧野に、言葉をなくす。 「西門さん?どうかした?」 「―――ああ、わりい、その・・・・・ドレス」 「ああ、これ、桜子に借りたの。やっぱりちょっと派手かなあ?」 「いや、そんなことねえと思うけど」 「そう?」 「ん・・・・・・すげぇ、似合ってるよ。かわいい」 「え・・・・・」
-tsukushi- 『―――かわいい』 照れくさそうに呟かれた言葉に驚いて顔を上げれば、そこには耳まで真っ赤になった西門さん。 普段見たことのない西門さんの表情に、こっちまで照れくさくなってしまう。 「あ、ありがと・・・・・・。えーと・・・・もうみんな集まってる?」 「あ、ああ。本当は類のやつが迎えにいくって言ってたんだけど、レイさんに掴まっちまって、今話してるから、俺が代りに来た」 「そうなんだ」 「・・・・・・よかったな」 「え?」 西門さんの言葉に、あたしは顔を上げる。 「何が?」 「クリスマスプレゼント、間に合って。無事に渡せそうじゃん」 「ああ、うん。西門さんたちのおかげだよ、ありがとう」 「俺は何もしてねえよ。あきらのおかげだろ?」 「うん、でも西門さんも協力してくれたから。お茶のお稽古の時間まで使わせてもらって、漸く完成したんだもん。ほんとギリギリ・・・・・。感謝してるんだよ、これでも」 そう言って笑って見せると、西門さんの頬がまた微かに染まる。 「―――西門さんのそんな顔、初めて見たかも」 「へ?」 「赤くなって・・・・・もしかして、照れてる?」 くすっと笑って言うと、西門さんがちょっと慌てたようにそっぽを向いてしまう。 「バ、バーカ、そんなんじゃねえよ、これは、この部屋が暑いから・・・・・・」 その言い方も、なんだか言い訳っぽくて、普段の余裕たっぷりな西門さんとは別人みたいで、おかしくなってしまう。 ついにはお腹を抱えて笑い出したあたしを、西門さんが恨めしそうな顔で睨む。 「・・・・・お前、笑いすぎ」 「だって・・・・・・なんか、かわいいよ、西門さん」 たぶん、この言葉がいけなかったんだと思う。
突然、西門さんの腕が腰に回されたかと思うとぐいっと体を引き寄せられ・・・・・ 「きゃっ?」 驚いて顔を上げた瞬間―――― 瞳を伏せた、西門さんのきれいな顔が目の前に迫り、気付いた時には口付けられていた・・・・・。
類とは違う、コロンの香がする。 力強い腕にしっかりと支えられ、柔らかい唇の感触に思わず酔いそうになる。
あたしは目を瞑るのも忘れ、目の前にある西門さんの長い睫を見つめていた・・・・・。
暫くして、漸く唇を開放され・・・・・ 固まっているあたしを見て、西門さんがにやりと笑った。 「・・・・・クリスマスプレゼント、だと思えよ」 「・・・・・は?クリ・・・・・・・って、なにっ・・・・!?」 「お前からのな。大丈夫、類には黙っといてやるし」 そう言ってさっさと部屋を出て行く西門さんは、やっぱりいつもの西門さんで・・・・・ 「ちょ、ちょっと待ってよ!勝手なこと言わないでってば!西門さん!!」 慌てて西門さんの後を追い、勢い余って転びそうになるのを、西門さんの腕が素早く捕えていた。 「―――っと、気をつけろって」 「ごめ・・・・って、じゃなくて!」 「ん?」 余裕の笑みを浮かべ、あたしを見る西門さん。 「あ、あんなの、だめだよ!」 「なんで?」 「なんでって・・・・・」 「嫌だったか?」 「―――は?」 「俺にキスされて。・・・・・嫌だった?」 からかうわけでもなく、怒るわけでもなく・・・・・真剣な顔をして聞くから、その眼差しに、胸が高鳴る。 「―――いや、じゃ・・・・ないけど・・・・・」 思わずそう言ってしまう。 いやとか、そういうんじゃなく、ただびっくりして。 でも別に、嫌悪感とかはなくて。 なんて言ったらいいんだろう、この感情を・・・・・
いつだったか・・・・・N.Y.まで道明寺を追いかけて行ったときのことを、思い出した。 突然類にキスされて、ただ驚いて・・・・・ でも、ちっとも嫌じゃなかった。 そのときの感じに、ちょっと似てるのかもしれない・・・・・・
そんなことを、頭の片隅で考えていた・・・・・
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