-tsukushi-
「どこに向かってるの?」 「さあ」 「さあって・・・・・」 あたしはちょっと呆れて隣に座った類を見た。 あたし達はリムジンに乗ってどこかに向かっていた。 12月24日。クリスマスイブだ。 本当なら今日は美作さんの家でクリスマスパーティーをする予定で、面倒くさがってた類をなんとか説得したところだったのに。 なぜか今日になって急に美作さんから連絡があり、場所が変わったと言ってきたのだ。 電話に出た類も詳しいことは聞いていないらしく、行き先は運転手に直接伝えてあるということだった。 が、運転手に聞いても『口止されておりますので』と言って教えてくれない。 どうして秘密にする必要があるのかと、あたしは首を捻るしかなかった。
車は1時間ほど走り続け、たどり着いた先は港だった。 そこで目にした光景に、あたしは目を見張った。 目の前にあるのは、巨大な船だった。
「なな、なんで?」 「・・・・・・もしかして、船上パーティーするのかな」 と、横で類が冷静に呟く。 「せ、船上パーティー!?どういうこと!?」 「さあ。俺だって知らないよ。でも、こんな船用意できるってことは・・・・・・」 類の表情が微妙に変わる。 そのときだった。
「よお、遅かったな」 と言って甲板に顔を出したのは・・・・・ 「ど、道明寺!?」 見上げると、道明寺があたしたちを見下ろし、満足気に微笑んでいたのだった・・・・・。
「美作さん!これどういうこと!?」 あたしは船の中に入り、中で美作さんを見つけると早速詰め寄った。 美作さんはあたしの反応を予想していたかのように苦笑した。 「そう怒るなって。お前らにはここへ来るまで内緒にして驚かそうって言われてたんだよ」 「・・・・・って、道明寺に?」 「そういうこと。あいつ、お前らの婚約祝いに何もしてないからって」 どこにいたのか、いつの間にか傍に来ていた西門さんが笑いながら言った。 「婚約祝いって・・・・・・確か道明寺からはお祝いもらってたと思うけど・・・・」 「それは道明寺財閥として、だろ?そうじゃなくて友達として、道明寺個人から何かしたかったってことじゃねえの?」 西門さんの言葉に、あたしはすぐに言葉が出てこなかった。 ―――道明寺・・・・・
「悪かったな、驚かせて」 そこへ、道明寺が現れた。 「司」 「お前らにはずいぶん迷惑かけたからな。この間の侘びと、婚約祝いも兼ねて、この場所と料理を提供させてくれ―――って言っても、この船は俺んちのじゃねえけどな」 「え・・・・・じゃあ」 誰の?と聞こうとして、後ろの扉が開く音にあたしは振り向いた。 「あ・・・・・!」 思わず目を見開く。 そこに立っていたのは、あの伊豆のホテルで会ったレイさんだった。 「やあ、ツクシ、ルイ。ようこそ」 そう言ってにっこりと微笑むレイさん。 「あ、じゃあこの船・・・・・」 「ああ、これはレイの船だよ。レイのとことは、おかげで契約もうまくいったし仕事も順調だ。で、そのお礼にってこの船上パーティーを企画してもらったんだ」 「お礼って・・・・・あたしは別に何も・・・・・」 あたしが言うと、レイさんも道明寺も、無言でにっこりと笑った。 隣の類を見ると、類は相変わらず興味なさげにただ肩を竦めただけだった・・・・・。
「あ、せんぱ〜い、お久しぶりです!」 甲板へ出ると、先に来ていたらしい滋さんと桜子が駆け寄ってきた。 「久しぶり。優紀たちは?」 あたしの言葉に、桜子はにやりと笑い、顎で船の先端のほうを指し示した。 そっちを見ると、そこには仲良く寄り添い海を眺める優紀とその彼の後姿が。 「すっかり2人の世界。さっきからあてられっぱなしですよ」 不満気な桜子に、上機嫌な滋さんがその肩をぽんぽんと叩く。 「まあまあ、また合コンでもしようよ♪」 相変わらずの滋さんに、あたしは苦笑する。 「ところで先輩、ドレス持って来ました?」 「へ?ドレス?」 「やっぱり持って来てないんですね」 桜子が溜め息をつく。 「だってそんな話聞いてないよ」 あたしが文句を言うと、桜子があたしをちらりと横目で見る。 「パーティーですよ?そのくらいの準備、当たり前じゃないですか」 その言葉にぐっと詰る。 「ま、そんなことだろうと思って先輩に合いそうなドレス持って来ましたから」 なんだか悔しい気もしたが、ここは桜子に頼るしかない。 「あたしも持って来たよ?」 と、楽しそうに言う滋さん。 「いや・・・・・遠慮しとく・・・・・」 「何でえ?かわいいのにい、あかずきんちゃんとシンデレラ、どっちもあるのよ?」 「まあまあ、それはそのうち花沢さんに売りつけてみたらどうですか?コスプレプレイとか、有りかも」 「ちょっと桜子!変なこと言わないでよ!」 「あ、それおもしろいかも〜」 「滋さん!」 「ほら、先輩こっち。あたしの部屋にドレス置いてありますから、選びに行きましょ」 あたしがカッカするのにも構わず、桜子に手を引っ張っていかれる。
「こっちの黒いのと、このべビーピンク。どっちもちょっとセクシー系で素敵でしょ?」 「げ・・・・・」 N.Y.に行ったときにも桜子にはドレスを借りたけど・・・・・。 あのときの黒いドレスはシンプルだけどかわいくて、つくしにも何の抵抗もなく着れた。 だけど今日のは・・・・・ 黒いベルベット地のドレスはタイトなロングドレスだけど、チャイナドレス風に太ももから裾にかけて大きなスリットが入っていた。そして背中は大きく開いていて、とてもゴージャスでセクシーなデザインだった。 そしてベビーピンクの方は胸元が大きく開いたデザインで、オーガンジーでふわっとさせた袖、ふわりと広がったたっぷりフレアーのスカートは前が超ミニ、後ろが足首ほどまである少し変わったデザインのドレスで、前から見るとかわいくてセクシー。後ろから見るとまるでお姫様のようなロマンティックなデザインになっていた。 「あの・・・・どっちもなんていうか、派手で・・・・着るの恥ずかしい気が・・・・・」 「なーに言ってるんですか!クリスマスですよ!?今日おしゃれしなくって、いつするんですか!」 「いや、けど・・・・・」 桜子の迫力に押されながらも、あたしは弱々しく抵抗してみる。 「もう、花沢さんと婚約したからって女磨くのサボっちゃ駄目ですよ!これからも花沢さんに浮気されないように、ちゃ〜んとこういうところでは決めておかなくちゃ!」 「わ・・・・・わかったわよ・・・・・・じゃ、そっちのピンクの、貸して」 と、仕方なくあたしが言うと、桜子は満足そうにそのきれいな顔で微笑んだ。 「そう来なくっちゃ!メイクも任せてくださいね!」 「はは・・・・・もう好きにして・・・・・」 夜開かれるというクリスマスパーティーを前に、早くも疲れきっているあたしだった・・・・・・
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