***X'mas Panic!! vol.12***



 -rui-
 俺の車に3人で乗り込み、伊豆に向かう。
 道中はほとんど無言で、とにかくはやる気持ちを抑えるように俺は運転に集中していた。
 2人もそれをわかってくれているのか、ほとんど口を開くことがなかった。

 そのホテルの周りには民家はほとんどなく、目の前には海が、後ろには山が広がる静かな場所で、まだ建設途中のそのホテルだけが、まるで空中都市のように闇の中に浮かんでいるように見えた。

 「すげぇな・・・・さすがって言うかなんていうか・・・・・さっきまで山の中走ってたのに、突然オアシスが現れたって感じだな」
 総二郎が感心したように言う。
「感心してる場合かよ。早く牧野を・・・・おい、類、待てよ!!」
 さっさとホテルの敷地に足を踏み入れた俺を、2人が慌てて追いかけてくる。

 敷地に足を踏み入れてすぐ、フロントにあたる大きめのコテージの入口に、1人の男が現れる。
 俺は、その男を見て足をぴたりと止めた。
「西田さん・・・・・」
「お久しぶりです。お待ちしておりました」
「・・・・・司と牧野は?」
「ホールの方にいらっしゃいます」
 俺たちは西田さんの横を通り抜け、ホールの場所へと向かった。

 「西田さんのあの言い方・・・・俺たちが来るってわかってたんだな」
 あきらの言葉に、総二郎も頷く。
「ああ。全ては計算済みだったってわけか。馬鹿にしやがって」
「・・・・・・・・・・・・・」


 しばらく歩くと、
 漸く目的のホールが見えてきた。円形の、コンサート会場を思わせる大きな建物がそれだ。
「よし、入ろうぜ」
 あきらが言って、入ろうとする。
「・・・・・ちょっと待って」
「どうした?類」
 総二郎の問いには答えず、俺はホールの建物の奥のほう、広場のようになっている場所を目を凝らして見た。
 まだ出来上がっていない噴水の前、扇状の階段が見えた。
 その階段の下、見えたのは寄り添う2つの影・・・・・
 ―――あれは・・・・・

 頭で考えるよりも先に、俺は走り出していた。

 「おい!!」
「類、待てよ!!」


 「牧野!!」
 月明かりの下、寄り添っていた2つの影がびくりと揺れ、離れる。
「類・・・・・?」
 牧野が、まるで幽霊でも見るように俺を見る。
「牧野!?」
「司!てめえ!」
 後から走ってきたあきらと総二郎も2人に気付き、総二郎はそのまま司に掴みかかる。
「よお、遅かったな」
 司は驚きもせずに、そう言って俺たちを見回した。
「司・・・・・どういうつもり?こんなことして・・・・牧野に何した?」
 じっと睨みつけながら言う俺に、司は肩をすくめて答えた。
「パートナーになってもらっただけだ。このパーティーに出るためにな」
「けっ、自分が主催したパーティーだろうが!何のためにこんなことしたか、きっちり説明しろよ!」
 今にも殴りそうな勢いの総二郎を、あきらが止める。
「止めろ、総二郎。・・・・・司。俺たちが納得できるような理由なんだろうな」
「・・・・・さあな、それは話してみねえとわからねえな」
「おい・・・・・」
「とりあえず、ここじゃさみいから中に入ろうぜ。―――牧野」
 司は、牧野のほうを振り返ると手に持っていた何かを牧野の方へ放り投げた。
「へ?わっ」
 牧野が慌ててそれをキャッチする。
「あの部屋の鍵だ。中にお前の着替えもバッグも置いてあるから。あそこで類と話しな。俺はこいつら連れてくから」
 そう言ってスタスタと歩き出す司を、あきらと総二郎が慌てて追いかける。
 途中、2人が不本意そうにこちらを振り返ったが、俺はそんなことを気にしている余裕はなかった。

 「牧野・・・・・」
「あ、あの、類、ごめんね、心配かけて」
 慌てたように言う牧野。
 声が少し震えている。
 少し落ち着いて見てみれば、牧野はカクテルドレスの上に薄いストールをかけているだけで、その体は寒さに震えていた。
「・・・・部屋、どこ?そのかっこでいつまでもここにいたんじゃ風邪ひく」
 俺の言葉に、牧野は自分の格好を見下ろし、今気づいたというように目を瞬かせた・・・・・。


 「・・・気付いたら、この部屋にいたの。このドレスを着せられて」
 部屋に入り、置いてあったポットのお湯でコーヒーを入れる牧野。
 部屋は暖かく、牧野はほっとしたように微笑んだ。
「もう何がなんだかわからなくて・・・・・道明寺に引っ張られてパーティー会場まで連れてかれて、取り引き先の相手って人に紹介されて、なんだかよくわからないうちに道明寺の仕事はうまくいっちゃってて・・・・漸くここまで連れてこられたわけを聞いたのが、ついさっきだよ。ほんと、嫌になっちゃうよね、道明寺ってば。勝手すぎるんだから・・・・・」
 ちっとも嫌だと思っていない口調でそう言われても、俺が納得できるわけがない。
「・・・・・・わけを聞いて、それで抱き合ってたの?」
「え?」
「さっき、抱き合ってた。何で?どうして司と抱き合ってるの?俺、全然納得できないんだけど」
「だ、抱き合ってたわけじゃ・・・・・」
「じゃ、何してたの?」
「何って、その・・・・は、話をしてたら急に道明寺が・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「あ、あのさ、とりあえずあたしが話せること全部話すから、聞いてくれる・・・・かな?」
 遠慮がちに、上目遣いで俺を見る牧野。
 俺はイライラしながらも、仕方なく頷いた。
「全部話して。隠し事はなしだよ」
「ん、わかった」
 牧野がほっとしたように息をつき、テーブルにコーヒーを置いてからソファに座ると、話し始めたのだった・・・・・。


 -akira-
 「お前の話はわかったけど・・・・・類のやつがそれで納得するかどうか」
 俺と総二郎はホテル内のコテージの1室で、司の話を聞いていた。
「かなりどたまに来てたぜ。お前も知ってるだろ、類が牧野のことになると感情がむき出しになること」
 総二郎も漸く少し落ち着いた様子で言った。
「ああ。でも、その姿も見たかったんだ。あいつが本気で牧野を想ってるってことがわかるから・・・・安心出来る」
 あくまでも冷静に話す司を、俺たちはちょっと驚いて見ていた。
「・・・・・この先、俺がどんな女と恋愛しても、誰と結婚しても、きっと牧野に対する気持ちは一生かわらねえ。ずっと、好きだ。だから・・・あいつには絶対に幸せになってもらわないと困る」
「司・・・・・」
「前に言ったよな。俺と牧野の距離が変わらないなら、牧野の相手が誰でもかまわねえって。それはあいつを幸せに出来るならってことだ。お前らが自分のためだけに牧野を類から奪って、牧野を不幸にするようなことがあったら、俺はお前たちをゆるさねえ」
 ぎろりと鋭い目で睨まれ、その目で司の真剣さを感じた。
「・・・・お前こそ、覚えてるか?」
 総二郎がその目を見返して言う。
「俺たちだって、牧野に惚れてんだ。牧野の幸せを願ってるのは俺らも同じだよ。あいつが不幸になるようなこと、するわけねえだろ」
 その言葉に、司はにやりと笑った。
「それ聞いて安心した。お前らのことは俺もちゃんと信用してるよ。虫除けにもなるしな」
「俺たちは殺虫剤かよ」
 総二郎の言葉に、司はちょっと笑って、言った。
「あいつ・・・・しばらく会わないうちに、きれいになった。自分では気付いてないだろうけどな。お前ら以外の男があいつに近づくことだってありえる。どっかのくだらねえやつにあいつ取られたりするなよ?」
「当たり前だろうが」
 俺が答えると、総二郎も顔をしかめ、
「んなことになってたまるか。その辺のやつらに俺らがあいつ、渡すわけねえだろ」
 と当たり前のように言う。
 F4にとっての牧野は、絶対に欠かすことの出来ない存在だ。
 司の言うとおり、きっとそれはこれからもずっと変わらない。
 俺たちが他の女と結婚することになっても、きっと牧野だけは特別。
 好きな女は、牧野だけだ。
 だから、牧野が幸せになるためなら、どんなことだってする。
 

 俺たちは無言で目を見交わすと、お互いの拳をつき合わせたのだった・・・・・。





  

お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪