-tsukushi- 「・・・・ちょっと待ってください。道明寺?これ、どういうこと!?」 あたしは横で相変わらずニヤニヤしている道明寺を睨みつけて言った。 「んな怖い顔するな」 「だって―――!」 「ツクシさん?」 レイがあたしに、優しく笑いかける。 「あ、はい・・・・」 「ちょっと、ツカサと話したい。いいですか?」 「あ・・・・・ええ、どうぞ」 そう言ってあたしは下がろうとしたが――― 「いや、あなたにもいてほしい」 「え・・・・・」 「ツカサ・・・・私の記憶が正しければ・・・・彼女は、花沢物産のご子息のフィアンセでは?先日、日本の週刊誌で写真を見たよ。名前は・・・・そう、確かマキノツクシ・・・・」 にこやかに微笑むレイ。 あたしは呆気にとられ・・・・ ふと、隣の道明寺を見ると、意外なことに道明寺は驚きもせず、ただ穏やかにレイを見ていた・・・・。 「やはりご存知でしたか」 「花沢物産とは父の代からの付き合いだ。もちろん子息のことも知っているよ。会ったことはないがね。君の親友だということも・・・・・。その親友のフィアンセを、どうして自分のフィアンセだと?」 「彼女は・・・・9ヶ月前までは俺の婚約者だった。俺は彼女を愛してた。心の底から。だけど・・・・彼女を手放した」 淡々と話し始める道明寺。 あたしはなんと言っていいかわからず、なぜ道明寺が突然レイにそんなことを話すのかわからずにうろたえていた。 「でも、俺にとって彼女は今も変わらず愛するただ1人の女性なんです。だから・・・彼女を、あなたに紹介したかった」 「道明寺・・・・・」 「そして、彼女の婚約者である花沢類も、俺にとって大切な友人です。あいつを選んだ彼女を、彼女を選んだ類を、俺は誇りに思うし、2人に対する想いはきっと永遠に変わらないと思う」 「・・・・・なるほど。それが君の答えか」 「はい」 「・・・・・ツクシさん」 「は、はい?」 「あなたは・・・・・自分のフィアンセを、愛してますか?」 レイが、あたしの目を見ながら聞く。 深いグリーンの瞳が、あたしを真っ直ぐに見つめていた。 「・・・はい」 「司は何でも持っているし、このとおり素晴らしい男だ。それなのに、君は司を選ばなかった。それほど、素晴らしい男なのかな?後悔はしないと?」 「・・・・・道明寺を・・・・・・彼を愛してました。私も・・・・。でも今は、いつもあたしの傍であたしを守ってくれた人を、あたしを愛し続けてくれた人を、あたしも愛してるんです。道明寺と一緒になったら、きっと大切にしてくれたと思います。いつも真っ直ぐで、たくさんの愛をくれる、そんな人ですから。でもやっぱり・・・・・あたしには、類が・・・・・花沢類が、必要なんです。類がいなかったら、今のあたしはいない。類がいなければ、生きていけない。類は、あたしそのものなんです」 あたしの言葉を、ただ黙って、目を逸らさずに聞いていたレイ。 しばらくあたしを見つめたまま黙っていたが・・・・・・ 「・・・・・よく、わかりました。ツクシ、君はすばらしい女性だ。そしてツカサ、君も・・・・きっとルイも、素晴らしい男なのだろう。あなたたちの愛には、真実がある・・・・。ツカサ」 「はい」 「私は明日、国に帰るよ」 「・・・・・そうですか」 「君はいつN.Y.へ?」 「俺は、あなたに会いにここへ来ただけだ。あなたが帰るなら、俺も帰る。やらなくちゃいけないことがたくさんある」 「そうか・・・・・では、今度は私が君に会いに行こう」 穏やかに微笑むレイさん。 その言葉に、道明寺は驚いたように目を見開く。 「レイ・・・・・」 「いい話を聞かせてくれて、感謝してるよ。ツカサ・・・・君には期待してる。これからも頼むよ」 「・・・・・・レイ。ありがとう」 2人はどちらからともなく手を差し出し、固い握手を交わした。
あたしは、その光景をただ呆然と見つめていたのだった・・・・・。
-rui- 「類様!わかりました!」 もう日付も変わろうというとき、静まり返った部屋のドアが勢いよく開かれた。 それまで、それぞれの伝からの連絡を待っていた俺たちは勢い込んで飛び込んできた田村の登場に、一斉に立ち上がった。 「いたのか!?」 「どこに!?」 「伊豆の、『Une
perle』です」 その言葉に、俺は一瞬絶句した。 「おい・・・・『Une
perle』って・・・・・確か花沢物産と道明寺が共同出資したホテルじゃなかったか?海外のセレブ向けに作られたっていう、コテージ風の部屋が売りだとか言って・・・・・」 あきらが言えば、総二郎も頷き 「ああ。けど、あそこはまだオープンしてないだろ?プレオープンだって来年の春だって聞いたぜ」 2人の言葉に、田村が頷く。 「ええ、確かにまだ建築途中です。ただしホテル内のパーティー会場となるホールは既に出来上がってまして、花沢と道明寺が特に親しくしている客だけを招待した極秘のパーティーが今夜、開かれているんです」 「今夜?俺、そんな話聞いてないよ」 俺が驚いて聞くと、田村は言いづらそうに俺を見た。 「いえ・・・・・本当なら類様にもご出席いただこうと思っていたらしいのですが・・・道明寺様のほうから、類様には秘密に、というお話があったそうで・・・・先ほど社長から連絡がありまして、もう言ってもいいだろうと・・・・」 「・・・・・・そのパーティーの主催者は・・・・・」 「はい。道明寺司様でございます」 田村の言葉に、俺たち3人は愕然とし・・・・・・・溜息とともにその場に座り込んだ。 「あのやろう・・・・・ってことは最初からこうするつもりで・・・・・」 総二郎が苦々しげに呟いた。 「ああ。計画通りだったってわけだ・・・・・。類、どうする?」 あきらの言葉に、俺は黙って立ち上がった。 「・・・・・・迎えに行く」 一言、呟くと、あきらと総二郎も顔を見合わせ立ち上がり、にやりと笑った。 「よし、敵陣に乗り込むか」 と総二郎が言えば 「姫君を救いに、な」 とあきらも頷く。 「田村さん、車を―――」 と俺が言いかけると、田村はにっこりと微笑み 「用意してございます。どうぞお気をつけて」 と一礼した。
-tsukushi- さっきから、道明寺とレイは2人でずっと話し込んでいて、あたしは入り込めないでいた。だってフランス語で話してたし・・・・。 仕方なくあたしはボーイに渡されたワイン片手に立食形式の食事が並んだテーブルへ行き、オードブルなんかをつまんでいた。 ―――こんなとこで何してるんだか・・・・・。 早く帰りたい。 類に会いたい。 だけど、ホールの入口にはどこかの国のSPみたいな屈強そうな外人が2人ずつ立っていて、出入りする人間をいちいちチェックするように見ている。 『1人でどっかに行ったりするなよ』 そう道明寺にも釘を刺されていたから、黙って出て行くのはなんだか悪い気もする。 せめて、連絡だけでもしたいけど・・・・携帯がどこにあるのかさえ、わからない。 「コンバンハ。ダンスデモ・・・・」 「ごめんなさい」 さっきから何度となく声をかけてくる人たちに、いちいち謝るのも面倒くさくなってくる。そんなにあたし暇そうに見えるのかな。
「おい、大丈夫か?」 いつの間にか、隣に道明寺が立っていた。 なぜか心配そうにあたしを見ている。 「いたの?大丈夫って、何が?」 「だいぶ、飲んでるだろ。顔が赤い。悪かったな、1人にして」 「・・・・・そう思うんだったら、早く帰してよ。いつまでここにいるの」 むっとして言うと、道明寺は苦笑した。 「まあ待てよ。まだここを離れるわけにいかねえんだ。ちゃんと送り届けてやっから」 「たくもう、相変わらず勝手なんだから。大体あんたは・・・・わっ」 一瞬よろけ、テーブルにぶつかりそうになる。 寸でのところで道明寺に支えられ、ほっと息をつく。 「・・・・・ちょっと、外に出るか」 「出れるの?」 「ああ、おれがいりゃあな」 そう言って道明寺が先に立って歩き出す。 あたしは慌ててその後をついて行った。
道明寺の言うとおり、入口に立っていたSPは道明寺のことはちらりと見るだけで、すんなり通してしまう。 あたしたちは中庭のようになった場所へ出ると、大理石で出来た階段に腰を下ろし、夜空を見上げた。 「・・・・・星がきれいだね」 「ああ」 「・・・・・ちゃんと、説明してくれる?」 あたしは隣に座る道明寺を見上げた。 道明寺はそんなあたしの視線を受け止め、ちょっと笑うと、頷いた。 「ああ。本当のことを話すよ」 そう言った道明寺の顔は、なぜかとてもすっきりとしていた・・・・・。
|