***あなたのとなりで vol.1 〜総つく〜*** |
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*このお話は「まどろみ」の続きになります。 「婚約解消?」 美作さんが目を丸くした。 「どういうこと?」 花沢類も驚いたようにあたしの顔を見た。 「あたしだって、知らないよ!結局あたしなんかとは結婚できないってことじゃないの?」 あたしはソファーに座ると、目の前に出された熱い紅茶をぐっと飲み込み、その熱さに目を白黒させた。 「落ちつけよ。一体何があったんだ?もう来週だったろ?祝言は。いまさら婚約解消ってなんだよ」 「―――本当に、あたしにもわからないの。今朝西門さんの家に行ったら、家の前でお義母さんが待ってて・・・・・この結婚はなかったことにしてほしいって、そう言われて・・・・・」 「総二郎には?会ってないの?」 類の言葉に、あたしは頷いた。 「お義母さんにそう言われて、家の中に入ることもできなくて。とにかく、わけわかんないの」 大学を卒業して、西門さんと付き合い始めてから5年。 ようやく向こうの両親にも認めてもらい、来週には結婚するはずだった。 また、あたしが何か怒らせるようなことをしてしまったのかとも思ったけれど。 いくら考えても思い当たる節がないのだ。 いったいどうして――― その時、あたしのバッグの中から携帯の着信音が鳴り響いた。 「総二郎じゃねえのか?」 美作さんが取り出した携帯を覗き込んでくる。 「あ・・・・・そうみたい」 「ここに呼べば?」 「え・・・・・」 「そうだな。俺たちも総二郎の話を聞きたいし」 2人に促され、あたしは電話に出た。 「―――もしもし」 『牧野か?今どこにいる?』 「・・・・・美作さんの家。花沢類もいる・・・・・」 『わかった、今から行くから、動くなよ』 そう言ったかと思うと、あたしの返事も待たずに電話は切れてしまった・・・・・。 「勘違いなんだよ」 来るなり、西門さんはソファーにどっかりと身を沈め、そう切り出した。 「勘違い?」 「ああ。勘違いっつーか・・・・・丈三のやつが」 丈三(たけみ)、というのは西門さんの4つ年下の弟のことだ。 西門さんに似て、というか、西門家の血筋なのか、とにかくとんでもない遊び人で会うたびに違う彼女を連れているのだから、まるで昔の西門さんを見ているようだといつも思っていたけれど。 「丈三君がどうかした?」 「夕べ、彼女を家に泊めたらしいんだ。おれも気づかなかったけど、こっそり自分の部屋に上げてた」 その言葉に美作さんが「やるな」と口笛を吹いた。 「で、その彼女が夜中にトイレに起きて―――何を寝ぼけたのか間違えて俺の部屋に入ってきたんだ」 「部屋に―――って」 と、西門さんが慌てたように手を振る。 「言っとくけど俺は何もしてねえからな!大体、丈三のやつが俺をたたき起こすまで部屋にいたことも気づかなかったんだから」 「本当に気付かなかったの?」 類が聞くと、西門さんは肩をすくめた。 「熟睡してたんだよ。ここのところ結婚準備で忙しかったし」 そう言って溜め息をつく西門さんを、さすがに責める気にはなれなかった。 「で・・・・・気付いたらおれの隣でその彼女が熟睡してて。丈三のやつは呆れてただけだけど、問題はお袋だ。祝言のことで話があったとかで朝っぱらから勝手に俺の部屋に入ってきて、その彼女と俺がベッドにいるとこ見つけちまって」 その時の光景が目に浮かび、思わずあたしたちは顔を見合わせた。 「早合点したお袋がおれの女遊びが再発したっつって、これじゃあお前と結婚させるわけにいかねえって、勝手にお前に婚約解消だなんて言ったんだよ」 「なるほどね。で、その誤解は解けたわけ?」 美作さんの言葉に西門さんが頷いた。 「その彼女が、部屋間違えたって。丈三も正直に白状したし。お前に謝りたいって」 「別に、そういう間違いだったならいいけど・・・・・」 まさか結婚する1週間前に浮気なんかするわけない。 いくらあの西門さんだって・・・・・ そうは思っても、どこか釈然としなかった。 そんな気持ちが顔に出てたのかもしれない。 「おい―――まさかお前、俺のこと疑ってるんじゃねえだろうな」 西門さんが眉を顰める。 「そうじゃないけど・・・・・。なんで一緒に寝てるのに気づかないの?」 部屋に入ってきたのに気づかなかった。 それは納得したけれど。 ベッドに入ってきたのに、気づかないことなんてある? ついつい疑いの目を向けてしまうのも、いたしかたない気がするのはあたしだけだろうか・・・・・ |
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