-tsukushi-
美作さんのあったかい腕に包まれて、あたしはだんだん自分が落ち着いてくるのを感じていた。 優しいぬくもり。
美作さんの傍にいると、安心出来る・・・・・。
「・・・・・ひょっとして、総二郎とも同じようなことがあった?」 美作さんの言葉に、はっとして顔を上げる。 「やっぱり・・・・・」 呆れたような美作さんの顔。 「だ、だって、どうしても気になっちゃって!2人ともジュニアだし、これから先、きっとずっと一緒なんてことはないんだろうって思ったら・・・・・・寂しくって・・・・・」 「で?総二郎はなんて?あいつも、俺とおんなじ様なこと言ってたんじゃねえ?」 「・・・・・うん。ずっと・・・・・傍にいてくれるって・・・・・」 「それで、何で俺もそうなんだってことがわかんねえの?」 珍しく拗ねたような美作さんの声に、あたしは素直に白状せざるをえない。 「だ、だって・・・・・。レッスン休んでもいいってことは、会えなくてもいいってことなんだって・・・・・美作さんは、あたしと会えなくなっても平気なのかなって思ったら・・・・・・」
自分勝手な思いだってわかってる。 美作さんや西門さんと一緒になることはできないのに、傍にいて欲しいと望んでしまう。 類とずっと一緒にいたい。 でも、2人とも、離れたくない・・・・・・。 そんな勝手な思いを受け止めて、包んでくれる2人に、あたしは甘えてしまってる・・・・・。
「レッスン休んだって、会えるだろ?少なくとも俺は、お前に会いに行くよ。お前に会えなくなったら、耐えられないのは俺のほうだぜ。忘れるなよ。俺は、お前に惚れてるんだ、心底。だから、お前から離れていったとしても、俺はどこまでも追いかけていく。覚悟しとけ」 にやりと笑う美作さん。 嬉しくて、でも照れくさくて、どんな顔をしていいかわからない。 恥ずかしくって俯いても、その体は美作さんに捕まったままで。 「牧野、こっち向いて」 「・・・・・ダメ。今、顔赤いし」 「・・・・・総二郎と、キスしたろ」 美作さんの言葉に、驚いて顔を上げる。 至近距離に、美作さんの笑顔。 「な・・・・・」 「大体、想像つくんだよ。お前らがどんなやり取りしてたかなんて。お前のあんな泣きそうな顔見て・・・・・総二郎が平気でいられるとは思えねえ」 「そ、それは、でも、美作さんだってさっき・・・・・・」 その先を言うのは恥ずかしくてまた俯こうとしたあたしの顎に、美作さんのきれいな手が添えられる。 「あんなの、ただの挨拶」 「あ、挨拶って・・・・・・」 「お前にしか、しねえけどな」 その言葉に目を見開いた瞬間、美作さんの唇があたしの唇を塞ぐ。 今度は深く、熱い口付けを送られて・・・・・ 眩暈がして、瞼を伏せた。 蕩けそうなキスに、体の力が抜けるころ、漸く開放される。
「不安なことがあるんだったら、ちゃんと話せよ。内に溜め込むのはお前の悪いくせ。お前にはすげえ味方が3人もいるんだから・・・・ちゃんと頼れ。それで・・・・・元気な子を産んでくれ」 その言葉に、思わず噴出す。 「・・・・あのなあ」 「だって・・・・・やっぱり美作さんだなあと思って、そういう気遣い・・・・・。ありがとう。ちゃんと、頼りにしてるよ。これからもずっと・・・・・・」 あたしの言葉に、美作さんが嬉しそうに微笑む。
ごめんね。ありがとう。 きっとどれだけ言っても足りない。 あたしと類の幸せは、この人たちのおかげだって、そう思えるよ・・・・・。
「で、あきらともキスしてきたわけ」 家に帰ったあたしを迎えたのは、ふてくされ気味の類。 こうなることを予想していたみたいで・・・・・・ まんまと白状させられたあたしは、ベッドの上でちんまりと正座をしていた。 「や、あの・・・・・挨拶、だって・・・・・」 「挨拶?じゃ、相手があきらじゃなくてもキスするの?」 「ま、まさか!」 「・・・・・てことはあきらは特別ってことでしょ?」 「あ・・・・・」 類のまっすぐな眼差しに、何も言えなくなってしまうあたし。 「類・・・・・・あたしは、類が好きだよ」 「うん。わかってる」 「あの2人は・・・・・あたしにとって特別なの・・・・・・なんて言っていいかわからないけど・・・・・・ずっと、一緒にいたい人たち・・・・・。傍にいて欲しいって、思える人たちなの」 あたしの言葉に類はちょっと横を向き、大きな溜息をついた。 「・・・・・もう、いいよ」 低い声に、どきりとする。 ―――怒った?呆れた? 心臓が、嫌な音を立てる。 類がふとあたしを見て、苦笑した。 「そんな不安そうな顔しないで。怒ってるんじゃないよ」 そう言ってあたしの頬に手を添えると、そっと額にキスを落とした。 「俺が、あんたを手放すなんて考えられない。わかってるでしょ?」 「・・・・・・・うん」 「俺にとってもあいつらは特別だよ。同じ想いを共有する親友でもあり、ライバルでもある。牧野は譲れない。それは絶対、変わらない。だけど・・・・・牧野の幸せのためには、あいつらが必要だってことも・・・・・わかってるんだ」 「類・・・・・」 そっと類を見上げると、困ったように微笑んでいる類の顔。 「キスくらいは、目を瞑らないといけないかなって思ってる自分がいるのが、信じられないんだ。牧野を誰にも触れさせたくないって思ってるのに、あの2人は仕方ないって。きっと・・・・・俺が牧野の一部だったように、あの2人も牧野の一部になってるんだ。だから、切り離せない。認めたくはないけど・・・・・俺はきっと、あいつらも含めて、牧野が好きなんだ」 そう言って笑う類は、少し照れたような表情。
―――ああ、そうか。
類自身にも、きっとあの2人が必要なんだ。 切り離せないのは、あたしからだけじゃなくって・・・・・・ 自分と同じ想いを共有している2人は、きっと親友以上・・・・・・類にとって、家族のような存在なのかもしれない・・・・・
「わかってると思うけど・・・・・それ以上のことは、許さないからね」 耳元で囁く声は、それでもやっぱり不機嫌で。 「わ、わかってるよ」 「・・・・・それから、俺の見てるとこではキスしないでね」 そう言うと、あたしが何か言うより先に、唇を塞がれる。 焦がれる様な情熱的なキスに、類の想いを感じ取る。 いつまでも続く口づけにあたしの息が上がるころ・・・・・
耳元に、甘い声が響いてきた。
「牧野も、牧野が大切にしてるものも全部・・・・・・まとめて愛してる・・・・・」
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