*このお話はあきつくっぽい展開になっています。このシリーズでは総二郎、あきらともこういった展開が出て来ますので予めご了承ください。今後の展開に必要なお話だと思っていますが、抵抗のある方は読まれるのをお止めください。読まれる場合は全て自己責任においてお願いいたします。クレームには応じられませんのでご承知おきを・・・・・。
-akira-
「今日はここまで」 俺の言葉に、牧野が首を傾げた。 「早くない?」 「いいんだよ。俺の部屋でお茶しよう」 そう言ってにやりと笑うと、牧野はギクリとした表情になる。 いつもは気付かずにいそうなところだけど・・・・・ 妊娠して、ちょっと敏感になったか?
「レッスン、きつくないか?」 「うん、全然」 「そっか。ならいいけど。具合悪くなったらすぐ言えよ。今は普通の状態じゃないんだし、レッスンなんて休んだっていいんだから」 そう言うと、牧野がふと俺を見上げた。 「ん?どうした?」 俺が聞いても、牧野は何も言わず俺をじっと見つめているばかり。 「牧野・・・・・?」 何故か、泣きそうな顔に見える。 俺、なんか言ったっけか? 「おい、どうした?」 俺の声にはっとしたように牧野が目を瞬かせ、すぐにうつむいてしまった。 「な、なんでもない」 そう言う声は微かに震えているような気がした。 「・・・・・昨日、総二郎のとこで何があった?」 牧野の肩が一瞬ピクリと震える。 「今日のお前ら見てれば、何かあったってことはすぐわかる。ちゃんと言ってくれよ」 牧野の瞳が戸惑ったように揺れる。 「俺には言えない?」 じっと牧野を見つめる。 「総二郎には言えて、俺には言えないわけ?」 「そ、そうじゃなくて!」 「じゃ、なに?」 段々イライラしてくるのがわかる。 明らかに昨日、総二郎と何かあっただろう牧野の様子。 それが、俺には言えないのかと思うと悔しくてたまらなかった。 ガキみたいに嫉妬して、らしくもねえって思うけど・・・・・ 自分でもどうしようもない思いが、溢れてた。 「・・・・・言いたくないなら言わなくてもいい。今日はもう終わりだから、帰っていいぜ」 そう言って牧野に背を向ける。 嫉妬してみっともない顔を、見られたくなかった。 だけど・・・・・
ふいに、牧野が息を吸い込む気配を感じ、振り向く。 そこに立つ牧野の目には、涙が溢れていた。 「・・・・・牧野?お前・・・・・」 俺の声に牧野ははっとして、はじかれたようにくるりと向きを変え、部屋を出て行こうとした。 「待てよ!」 とっさに牧野を追いかけ、その手首を捕まえる。 「や・・・・!離して」 「待てって!何で・・・・・なんで何も言ってくれない!?」 手首を乱暴に引っ張り、その体を抱きすくめる。 暴れる牧野の体を抱きこみ、その肩に顔を埋めるようにして呟く。 「・・・・・なんで・・・・・俺には言えないんだよ・・・・・」 牧野が暴れるのを止め、戸惑っているのがわかる。 「言ったらきっと・・・・・あたしを軽蔑するよ・・・・・」 「は?」 思わず素っ頓狂な声を上げる。 俺が牧野を軽蔑?ありえねえだろ、それ。 「そんなわけねえだろ。何言ってんだよ、お前」 「だって・・・・・・」 俺の腕の中でおとなしくなった牧野。 そっと体を離して見つめると、拗ねたような瞳が俺を見上げる。 「・・・・・言ってみろよ。ちゃんと聞いてやるから」 そう言って髪を撫でると、牧野の瞳が切なげに揺れた。 そんな顔見ちまうと・・・・・つい、錯覚しそうになる俺がいる。 「・・・・・何から言っていいかわからない・・・・・」 「全部言え。何でも聞いてやるよ。お前の気持ち全部・・・・・受け止めてやるから」 俺の言葉に、牧野の瞳にはまた涙が浮かんでいた。 「じゃ、何で・・・・・何で帰っていいなんて言うの?何でレッスン休めばなんて言うの?あたしは楽しみにしてるのに。美作さんにとってはその程度のこと?そうやって、あたしと会えなくなっても美作さんは平気なんだ!会えなくなったら寂しいって思うのは、あたしだけ―――!」 気付くと、俺はまた牧野を抱きしめていた。 全身から溢れ出た牧野の思いが・・・・・・ 俺に伝わってきて、体を熱くしていた・・・・・。 「・・・・・お前、それ、反則・・・・・・」 「なによ・・・・・」 「平気なわけ、ねえだろ?俺にとってお前は何よりも大切な存在。だからこそ、大事な今の時期、無理させたくないって思ったのに・・・・・俺がお前に会えなくて平気?何言ってんだよ」 「だって・・・・・」 「帰っていいなんて、本心なわけねえだろ?ちょっと・・・・・総二郎に嫉妬しただけだよ。お前が俺に何もいわねえから・・・・・本当はこのまま帰したくないくらいだ。だけど・・・・・それじゃあきっと、お前は幸せにはなれない」 「美作さん・・・・・」 「俺が望んでるのは、お前の幸せだよ。それを与えるのが俺じゃなくても・・・・・お前が幸せなら、それでいい。俺は、それを傍で見ていたいんだ」 牧野が俺を見上げる。 「傍に・・・・・いてくれるの・・・・・?」 「当たり前だろ?俺が、お前から離れられるわけない。これから何があったって、俺はお前の傍にいるよ。ずっと傍にいて・・・・・お前の笑顔を見せてくれ。それが、俺にとっての幸せなんだ・・・・・」 「・・・・・美作さん・・・・・」 「お前も・・・・・そう思ってくれてるってことだろ?俺に傍にいて欲しいって。ずっと、傍にいて欲しいって・・・・・」 そう言って笑って見せると、牧野の頬が微かに染まる。 「うん・・・・・。あたし・・・・・類との子ができて、嬉しいのに・・・・・すごく嬉しいのに、なんだか寂しくて・・・・・。西門さんや、美作さんが、あたしから遠くなっちゃうような気がして・・・・・・でも、それは言っちゃいけないような気がしてたの。あたしの勝手な思いだから・・・・・・。だけどやっぱり寂しくて・・・・・抑えられなかった・・・・・」 俺は、牧野の頬にそっと手を添えた。 「抑えなくていい。何でも言えばいい。我侭でも何でも、俺は聞いてやるから・・・・・。お前の望むことなら、何でもしてやるよ。俺はお前にとって、必要な人間でありたいって思ってる。だからいつでも会いたくなったら会いに来ればいいし、呼べばいい。お前の一番傍にいるのは類だ。それもちゃんとわかってる。類の傍にいて、お前が幸せならそれでいい。そんな気持ちに俺がなるなんて、考えたこともなかったけど・・・・・。でも、それが俺の本心だから。いつでも傍にいて、お前を助けられる立場でいたいんだ」 「美作さん・・・・・・」 涙が、牧野の頬を濡らし、俺の指を掠めていく。 俺はそっと、牧野の唇に触れるだけのキスをした。 「離れねえよ、どんなことがあっても・・・・・・」
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