***Sweet Angel vol.7***



 -rui-

 牧野がいつものように総二郎に送られて帰ってきた。
 帰ってくる前に、いつものように牧野から電話があって。
 玄関先まで迎えに出ると、いつものように牧野が車から降りてきて。
 いつものように運転席の窓から総二郎が顔を出して、軽く手を振る。

 そう、いつものことなのに。
 何かが引っかかった。
 牧野に関しては、きっと特別なアンテナがはってるんだと思う。
 我ながらそう思うほど、誰にもわからないことでも、牧野のことならわかる気がした。

 「総二郎と、何があったの?」
「は?」
 目を瞬かせる牧野。
 でも、その頬が微かに染まったのを俺は見逃さない。
「隠し事は、しない約束だよ?」
 その言葉に、案の定、困ったように瞳を泳がす牧野。
「つくし」
 手を引き、腕の中に閉じ込めてじっと見つめる。
「・・・・・言って?」
 耳元に囁けば、観念したように1つ息をつき・・・・・ぽつぽつと話し始めたのだった・・・・・。


 話を全部聞き終わり、俺は溜息をつく。
 いろんなことが渦巻く。
 牧野が総二郎やあきらのことを特別に思っているのはわかってる。
 だから、俺と結婚して子供が生まれることで、2人との仲が疎遠になってしまうことを寂しく思っていたとしても仕方がないことだとは思ってる。
 だけど・・・・・
 だからって、総二郎とキスしたなんてことを簡単に笑って許せるわけじゃない。

 それでも、これだけは俺ではどうしようもないことだって。
 その寂しさを埋められるのは、総二郎たちしかいないってこと。
 ちゃんとわかってて、認めてしまってる俺がどこかにいて・・・・・。

 怒るに怒れなくなってしまうんだ。
 このもやもやとした気持ちをどうすればいいか・・・・・
 その解決方法も、俺は知ってる・・・・・。

 俺は、牧野を抱きしめる腕に力をこめた。
「牧野の気持ちは、わかってるよ」
「類・・・・・」
「ちゃんとあいつらのこと認めてるつもりだし・・・・・あいつらと何があったって、牧野の気持ちはちゃんと信じてる・・・・・」
「・・・・・ありがとう」
「だけど・・・・・理屈ではわかってても、そうじゃないとこではやっぱり納得しきれない・・・・・」
「え・・・・・」
 牧野が不安気に俺を見上げる。
 その唇を、塞ぐように自分のを重ねる。
 長い口付けの後、その潤んだ瞳を見つめて。
「キスくらい、どうってことない・・・・・って思えるように・・・・・。俺の心も、満たしてくれる・・・・・?」
 耳元に、息がかかるほどの距離で囁くと、牧野の体がピクリと震えた。
「つくし・・・・・愛してる・・・・・」
「類・・・・・あたし、も・・・・・愛してるよ・・・・・」
 震える声で、紡がれる言葉が愛しくて。
 俺はそのまま、牧野に溺れていった・・・・・・


 -akira-

 「・・・・・何してんの?お前ら」
 大学のカフェテリアで。
 俺は目の前のテーブルにいる3人を見て言った。
 そこにいたのは類、牧野、総二郎の3人で。
 まあそれはいつものことなんだけど。
 何が違うって、類は牧野の体をぎゅっと抱き寄せてぴったりくっついたまま離さないし、総二郎は牧野のことをじっと見つめてニヤニヤしてる。総二郎に見つめられ、類に抱きしめられている牧野は真っ赤になってるし、類は総二郎のことをじろりと睨みつけてる・・・・・。

 ・・・・・何かあったな。

 そうとしか思えない光景に、俺はちょっと顔を顰める。
 基本、個人主義の俺たちだけど。
 こと牧野に関してはそうも行かない。
 俺の知らないところで牧野に何かあったのかと思うと、面白くない。

 「―――牧野、体調はどう?」
 俺の言葉に、牧野はちょっとほっとしたように微笑むと類から少し離れた。
「うん、大丈夫。つわりもそんなにきつくないの」
「そっか。じゃあ、今日俺んち来るの、大丈夫だな」
「うん」
 そう言って牧野が微笑むと・・・・・
 なぜか類と総二郎が顔を見合わせて微妙な表情。
「・・・・・なあ、あきら。今日は俺も・・・・・」
「却下」
 総二郎が言いかけるのを、即答で遮る。
 と、総二郎が顔を顰めて俺を睨みつける。
「レッスンの邪魔なんだよ。来ていいのは牧野だけ」
 そう言ってにやりと笑ってやれば、総二郎はおもしろくなさそうにそっぽを向き、類は何か言いたげに俺を見ていたのだった・・・・・。


 「お前と関わるようになって、類も総二郎も素直になったよな」
 家に向かう車の中でそう言ってやると、牧野が目を瞬かせた。
「え・・・・・そう?」
「ああ。類は感情をあんなに表に出すやつじゃなかったし、総二郎だってあんなふうに不機嫌なのをそのまま顔に出すやつじゃなかった。特に女の子相手ならなおさら、本心はオブラートに包んでポーズ作ってるやつだったのに」
「へえ・・・・・そうだったかな、そういえば。美作さんて、F4全員のこと、よくわかってるよね」
 感心したようにそう言う牧野。
 そう、俺はあいつらのことをよく知ってる。
 それこそ、あいつらのしそうなことなんて大体予想がついてたんだけど・・・・・。

 牧野に関わるようになってから、どいつもこいつも、予想外の行動をとりやがるから、始末が悪い。

 昨日、総二郎の家で何があったのか・・・・・・
 しっかりと問い詰めなきゃいけねえな・・・・・・









  

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