***Sweet Angel vol.10***




 -tsukushi-

 「で、結局式はいつ挙げるんですか?」
 大学のカフェテリアで、久しぶりに会った桜子をおしゃべりをしていた。
「うん。6月ごろがちょうど良いかなと思ってるんだけど・・・・・」
「ジューンブライド!素敵!」
「でも急に決まったから準備が大変だよ」
「何贅沢言ってるんですか。あー、いいなあ、結婚!しかも花沢さんと!あたしも道明寺さんと結婚したいなあ」
 そこまで言って、桜子は急に思い出したようにあたしを見た。
「そう言えば結婚式って道明寺さんも来るんですよね?」
「どうかな。招待状は出すけど、あいつも忙しいし・・・・・」
「来ますよ、絶対。花沢さんと先輩の結婚式に来ないわけないです」
 自信たっぷりに頷く桜子を見て苦笑する。

 例のごとく電話は繋がらない道明寺。
 メールで結婚式のことと妊娠したことを報告したんだけれど、返事はまだ来ていなかった。
 妊娠のこと、あいつはどう思うだろう・・・・・。


 ふと、桜子があたしの後ろ側へ目をやり、顔をしかめた。
「あいつら・・・・・」
 怒気を含んだその声に、あたしは後ろを振り返る。

 少し離れたところでこっちをじっと見ていたのは、3人の女の子たち。
 睨みつけていたのはあたしの方。
 あたしと目が合うと、ギクリとした様子で目を反らし、どこかへ行ってしまった・・・・・。

 「何?あれ」
 桜子の方を見ると、不機嫌そうな顔で肩をすくめた。
「F4のファンですよ。大学からの編入組。単なるミーハーですから、気にしないでいいですよ」
 そう言って飲み物に口をつける桜子。
 それ以上は話したくない様子なので、あたしも聞くのをやめておいた。

 ちょうどその時美作さんたちがカフェテリアに入って来るのが見えて、桜子が2人に手を振る。

 それきり、あたしの頭の中からはあの女の子たちのことは消えてしまっていたのだった・・・・・


 その2日後、あたしと類は2人で役所に婚姻届けを出しに出かけた。

 事務手続きは、人にやらせたらとお義父様に言われたけれど、夫婦になる2人の最初の共同作業だから。

 やっぱり2人でやりたかった。

 役所につき、必要書類に記入をして窓口に2人で提出する。

 その場で待たされること数分。

 窓口の女性が戸惑った様子であたし達を呼んだ。

 「何か問題でも?」
 類が尋ねると、女性は黙って頷きあたしの方を見た。
「あの、牧野つくしさんは、すでに婚姻されているようですが・・・・・」
 思いもしなかった言葉に、あたしたちは言葉を失い、顔を見合わせた。
「あの、何かの間違いですよ、それ。あたし、結婚なんてしたことないです」
 あたしの言葉に、女性は頑に首を振った。
「いえ、確かに婚姻されてます。それも出されたのは昨日なんですが」
「昨日!?」
「まさか!」
 昨日は西門さんの家に行っていた日だ。
 家に帰ったのは夜の8時過ぎ。西門さんの車で送り迎えしてもらっているのだから、1人で届けを出しに行くなんて不可能だ。

 「どういうこと・・・・・?」


 「牧野が結婚してたって!?」
「どういうことだ!!」
 美作さんの家に着くなり、美作さんと西門さんがすごい剣幕で迫ってきた。

 入籍をするはずだった今日、例のごとく皆で集まってパーティーをしようということになっていた為、ここ美作邸にやってきたのだけれど・・・・・
 ここへ着く前に事情を調べるべく手を回していた類。
 そしてその情報を知った美作さんと西門さんがキレた・・・・・というわけだった。
 そこには滋さん、桜子、優紀とその彼氏も来ていて・・・・・皆一様に戸惑った表情をしていた。

 「今、調べさせてるよ」
 類の答えにも、2人は納得できないようで
「おい、類、お前何暢気に構えてるんだよ!よくそんなに平気な顔してられるな」
 イライラと言葉を投げつける西門さんに、類は静かに視線を送った。
「暢気?俺が?・・・・・・そう見える・・・・・?」
 怒りを抑えた低い声に、西門さんがはっとして口をつぐんだ。

 そう。
 全然平気なんかじゃない。
 あたしが結婚していたと知った類が、周りも凍りつくほどのピリピリとしたオーラを放ち、一体誰があたしとの婚姻届を出したのか調べさせた時の、あの窓口の女の人の怯えた表情。
 それほど類が怒ったのを、あたしでさえ見たことがなかった・・・・・。

 「しかし、なんだって・・・・・。そいつの名前、なんつったっけ?」
 美作さんが少し落ち着いてあたしを見る。
「・・・・・北條裕一」
「聞いたことねえな。お前、心当たりは?」
 美作さんの言葉に、あたしは首を振った。
「全然・・・・・何がなんだか、さっぱりわかんないよ」

 そのとき、類の携帯の着信音が鳴り響いた。
「―――はい」
 類が話す様子を、あたしたちは固唾を呑んで見守った。
「―――英徳の・・・・・?それで・・・・・いや、牧野は知らないって言ってる。―――わかった。引き続き、そいつのこと調べて」
 電話を切った類が、ひとつ溜息をついた。
「類・・・・・」
 あたしが類を見つめていると、類があたしを見てちょっと微笑んだ。
 優しく、髪を撫でる類の手。
 その手のぬくもりから、類があたしを安心させようとしているのが伝わってくる。
「・・・・・大丈夫。今、調べてるから・・・・・」
「英徳の学生なのか?」
 西門さんの言葉に、類が小さく頷く。
「・・・・・牧野と同じ学科にいるやつで、学年も同じ。牧野、名前聞いたことない?」
 類の言葉に、あたしは首を振った。
 全然・・・・・。でも、何でその人が・・・・・・」
「今、調べさせてる。・・・・・大丈夫。このままにしたりしないよ」
 そう言って類は、あたしの体を抱き寄せた。
「絶対・・・・・他のやつとの結婚なんて、認めない・・・・・」
 そう言って、あたしを抱きしめる手に力をこめた類の声は・・・・・・・

 周りの空気をも凍りつかせるほど、冷たく、低いものだった・・・・・。









  

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