***Sweet Angel vol.11***




 -rui-

 冗談じゃない。

 せっかく結婚までこぎつけることが出来たって言うのに、こんなところで正体のわからない男に邪魔されるなんて。

 北條裕一

 そいつが誰かなんて興味はないけれど。
 とにかく、牧野と入籍しているという事実には変わりないのだから、それをどうにかしなければいけない。

 その男が英徳の学生で、牧野と同じ学科にいることはわかった。
 だけど、やっぱり牧野は知らないという。
 何でそんな、知りもしない男がそんなことをするのだろう?
 何かがあるんだ・・・・・・。

 「考えられるのは、牧野に対する嫌がらせ・・・・・。類と結婚させたくないと思ったやつが、関係ない男の名前を使って勝手に婚姻届を出したってこと」
 あきらが冷静に話し始める。
「そんなこと、できるの?」
 大河原の声に、あきらが頷く。
「意外と簡単なんだよ、入籍なんて。必要な書類と印鑑さえ持ってりゃ誰でもできる。それがたとえ本人じゃなくても・・・・・」
「そんな!」
 三条も怒りの声を洩らす。
「それから・・・・勝手に牧野に熱を上げたその北條ってやつが勝手にやった可能性もある。だけど・・・・・だとしたら牧野がまったく知らないってのが引っかかるんだけど・・・・・」
「知らないよ、ほんとに」
 牧野は、溜息とともに言った。
「さっきから、大学でよく同じ講義取ってる人たちのこと考えてるけど・・・・・。北條なんて人、まったく覚えてないんだよ。普段話したり、会ったりする人たちの名前は大体知ってるけど・・・・・」
 戸惑ったように首を振る牧野。
 牧野は嘘をついたりしていないだろう。
 
 2人で籍を入れに行きたいと言い出したのは、牧野のほう。
 この日を、本当に楽しみにしていたのだから・・・・・。

 「じゃあやっぱり嫌がらせ?けど、いくらなんでもそこまでするか?」
 総二郎の言葉に、皆が黙り込む。

 だけど、考えられないことじゃない。
 高校生のころから、牧野に対する嫌がらせの数々を見てきた俺たちは、やっぱりその可能性が一番高いと考えざるを得なかった・・・・・。

 だけど誰が?

 「どうするんですか?これから・・・・・」
 三条の言葉に、総二郎が口を開いた。
「こんなもの、無効だろ。確か強制的に籍を入れられた場合は無効に出来るはずだろ?」
「待てよ。もちろんこんなもの無効に決まってる。だけど、その前に誰がこんなことを仕組んだのか知る必要があるだろ」
 そう言ったのはあきら。
 さっきからずっと冷静に話をしているあきらだけど・・・・・
 そのあきらから感じるオーラからは、激しい怒りを感じられた。

 そのとき、再び俺の携帯が着信を告げた。
「はい―――そう、わかった。じゃ、ここへ連れて来て」
 簡単に電話を終え、携帯を閉じると、牧野の顔を見た。
「・・・・・北條を、ここへ連れて来てもらう」
「え・・・・・」
「さっきの電話で言ってた。本人から、事情を聞こう」
 俺の言葉に、その場にいた人間は皆、顔を見合わせ頷きあったのだった・・・・・。


 北條裕一が、ここ、美作邸に連れてこられ部屋に入ってきたとき・・・・・俺たちは一様に首をかしげた。
 同じ大学に籍を置いているというその男の顔に、まったく見覚えがなかったのだ。
 
 小柄で痩せ細った北條は顔色が悪く、銀縁のメガネの奥に光る瞳はぎょろりと血走っていた。
 おどおどした様子はどこか同情したくなるほど弱々しく・・・・・・
 この男が、1人でこんなことをしたとは思えなかった・・・・・。

 「あの・・・・・北條君?」
 牧野が声をかけると、北條は体をビクリと震わせ、その大きな瞳を牧野に向けた。
「は、はい!!」
 興奮したような声。
 牧野に向ける視線はたじろぐほど熱く、顔も紅潮していた
「えと・・・・・なんでこんなことしたの?」
 その牧野の問いに、北條は大きな目をさらに見開き、体を乗り出してこう言った。
「だって、結婚したいって言ったじゃないですか!」
「・・・・・・は!?」
 牧野がその言葉に驚き・・・・・・
 そして何か言うよりも先に、総二郎がつかつかと北條に近づき、北條の胸倉を掴んだ。
「お前、ふざけんなよ。牧野がてめえにそんなこと言うわけねえだろうが」
「だ、だって、そう聞いたんですから!」
「聞いた?」
 総二郎が顔を顰める。
「聞いたって・・・・・何を誰に聞いたんだよ?ちゃんと話せ。ことと次第によっちゃあてめえ、ここからただで帰れると思うなよ!」
 総二郎の迫力に、北條の顔がさっと青ざめる。
 いや、もともと青白いんだけど・・・・・
「わ、わかりましたよ・・・・・でも、嘘なんか・・・・・・」
 ぶつくさ言いながらも、北條は話し始めた。
 しどろもどろになって、途中何度も聞きなおしながら・・・・・・

 漸くその話を聞き終えるころ、誰がこんなことを企んだのかが見えてきたのだった・・・・・。








  

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