***Sweet Angel vol.49***




 -rui-

 交互に赤ん坊を抱いた後、看護婦たちに赤ん坊を預け、つくしはその後の処置をしながら先生の話を聞いた。
「双子ちゃんだし、普通よりは小さめなのは仕方のないことなんだけれど、今回は予定日より一ヶ月早かったせいもあってやっぱりちょっと小さいわ。1850gと1790gよ。これから細かい検査をしてみて、特に異常がなければここで入院してもらうけど、少しでも異常があった場合は念のため大きな病院に移った方が良いと思うわ」
 先生の言葉に、俺達は顔を見合わせた。
「異常って言うと・・・・・」
「そうね、いろいろなパターンがあるけれど、小さく生まれて来た分、代謝異常なんかは疑って診なくちゃいけないところだけど・・・・・。でも、小さくても何の問題もなく育つ子だってたくさんいますからね。まずはお母さんの身体を元の状態に戻さなくちゃいけないし。赤ちゃんは、私たちがちゃんとみますから、今はゆっくり休んでちょうだい」

 処置を終えたつくしは個室に移り、処方された薬を飲むと、そのまま横になった。

 俺はその間に、電話をかける為に一旦外へ出た。

 まずは両親に連絡し、それからつくしの家族に。
 そして総二郎、あきら、司の順に知らせた。

 俺の両親は必ず1週間以内に帰国すると断言し、つくしの両親はすぐに行くと言って慌てて電話を切ってしまった。
 総二郎とあきらもすぐに行くと言っていたが、それは遠慮してもらうことにした。
 司には直接話すことはできなかったが西田さんに伝言を頼んだので、おそらくすぐに伝わるだろうと思った。

 一通りの連絡を終え、俺は再び病院に戻り新生児室を覗いた。

 保育器に入った双子をガラス張りの壁越しに見つめる。
 小さな胸が上下し、穏やかに呼吸しているのがわかった。
 2人並んだその姿は面白いほどそっくりで、親でも間違えそうだと思った。

 不思議な気持ちだった。
 つくしと2人でいるときとも、お腹の中にいる双子を撫でているときとも違う、なんとも言えない幸せな気持ち。
 生まれてきてくれたことが嬉しい。
 つくしが無事でいてくれたことが嬉しい。
 
 今までに感じたことのない喜びが、俺を自然に笑顔にしていたようだった。


 「気分どう?」
 部屋へ行くと、つくしはベッドに横になったまま窓の外を見ていた。
「あ、類・・・・・。うん、大丈夫。産後痛っていうの?薬で軽くなってて助かった。陣痛と同じくらい痛いんだもん、びっくり」
「そうなんだ。その辺の痛み、男にはわからないよね。今、新生児室覗いてきたよ。外からだけど」
「ほんと?どうだった?」
「うん、かわいい。すげえ小さくて・・・・・つくしに似てる」
 俺の言葉に、つくしが柔らかく微笑んだ。
「そう・・・・・。早くまた抱っこしたいな。楽しみ・・・・・・」
「検査が、全部済んでからだって?つくしの体もまだ無理だし。明日は起きられるようになるのかな」
「うん、たぶん・・・・・。類、うちに・・・・・」
「連絡しといたよ。つくしの両親はすぐ来るって。うちの両親も来週には帰国するってさ」
「喜んでくれるかな」
「当たり前。もう、すぐにでも帰りたいって言ってたよ。仕事なんかしてる場合じゃないって、あの父親からそんな言葉が聞けると思わなかった。さすがに周りがそうはさせないだろうけど・・・・・。よっぽど嬉しいんだよ」
 くすくす笑って言うと、つくしも嬉しそうに笑った。
「よかった・・・・・。ところで、あの子たちの名前なんだけど・・・・・」
 つくしの言葉に、俺は頷いた。
「うん、この間2人で考えた名前で良いと思うけど・・・・・」
 その言葉に、つくしも頷いた。
「じゃあ、決まりだね。お義母さんたちも、喜んでくれるかな」
「うん、大丈夫」
 おれはベッドから出ていたつくしの手を握ると、そっと唇にキスを落とした。
「・・・・・唇、荒れてる」
「思い切りいきんでたから、乾燥しちゃったみたい。あ、身の回りのもの・・・・・」
「持ってこさせるよ。他に何か欲しいものは?食べ物とか・・・・・・。おなか空かない?」
「なんだか、胸がいっぱいで・・・・・。でものどは乾いたかな」
「スポーツ飲料でも買ってこようか。ちょっと待ってて」
 そう言って俺が席を立ったとき、ちょうど病室のドアが開いた。
「つくし!!」
「つくし!赤ちゃんは!」
 飛び込んできたのは、つくしの両親だった。
「パパ、ママ。ここ病院なんだから静かにしてよ」
「そんなこと言ったってお前・・・・・」
「それで、赤ちゃんはどこ?」
「新生児室よ。今日はまだ抱けないから・・・・・」
 と、つくしが言い終わるよりも早く、2人はまた病室を飛び出して行ってしまった・・・・・。

 「まったくもう、慌しい・・・・・」
 呆れたようにつくしが言うのに、俺は笑った。
「仕方ないよ。じゃ、俺はちょっと行ってくるね」
「ん、ありがとう」

 新生児室の前の廊下をちらりと覗くと、つくしの両親がガラスに顔をべったりとくっつけるようにして食い入るように赤ちゃんを見ているのが見えた。
 2人の目には涙が光っていて、初孫の誕生を心から喜んでいることがその姿から伝わってきて、思わずこっちの胸も熱くなる。

 どうか、つくしも赤ちゃんも無事に退院できますようにと、そう願わずにはいられなかった・・・・・。







  

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