-tsukushi-
写真はちゃんと2枚ずつあって、それぞれ自分の写真を受け取り、花火大会が終わるとすぐにまたヘリに乗ってどこかへ行ってしまった道明寺を見送り、あたしたちも解散した。
車の中で、3人との写真を改めて2人で眺め。 「ま、いい記念になったんじゃない?」 類の、半ば諦めたような言い方にちょっと笑う。 「うん。ごめんね、ずっと隠してて。類にはちゃんと言っておきたかったんだけど・・・・・」 「もう良いよ。なんとなくだけど、気付いてたし・・・・・。本当に結婚したわけじゃないしね。あいつらも、これで満足でしょ」 「ん・・・・・」
後部座席にもたれ、2人で寄り添う。 「・・・・・疲れた?」 そっと目を閉じたあたしに、類が聞く。 「ううん、大丈夫。ちょっと眠くなっちゃっただけ」 「そっか。今日は昼間も総二郎と散歩したんだっけ。あんまり無理しないで・・・・・。ちゃんと休みなよ」 「もちろん、休んでるよ。大丈夫。普段寝てばっかりいるから、たまにこんな日があるとすぐ眠くなっちゃうのかな」 あたしの言葉に、くすりと笑う類。 「きっと、お腹の子達が眠いって言ってるんだよ」 「じゃ、きっと類似だ」 「つくし似でしょ?」 言い合いながら、くすくすと笑う。 幸せで、平和な時間。 あたしがずっと望んでいた幸せ。 こんな日が、ずっと続けば良いのに・・・・・。
唇に、柔らかい感触を感じた。 類の手が、あたしの髪を優しく撫でる。 軽く触れ合うだけのキスが、心地いい。
「・・・・・あと2ヶ月か・・・・・。2人きりをちゃんと堪能しておかなきゃ」 「そうだね。生まれたら、きっと忙しいよね。やったことないから想像つかないけど・・・・・。知り合いに双子ちゃんとかもいないし。あ、でもたまに街中で双子ちゃん用のベビーカー、見るよね。あれ、どうなんだろう。横並びのと縦並びのとあるけど、どっちが使いやすいのかな」 うーんと悩むあたしを、おかしそうに眺める類。 「さあ。どっちにしろ大きくて大変そうだけど・・・・・。でも、2人並んでる方が顔も一緒に見れるしお互いの存在も近くて良さそうな気がする」 「そうかな。どっちかが泣き出したら伝染するのも早そうだけど・・・・・。あーでも2人並んでるって良いよね。絶対かわいいもん。じゃ、横並びにしようかな」 「・・・・・ベビー用品のお店、見に行こうか。そろそろ揃えておいてもいい時期だし」 「うん!」 本当は、花沢の両親がいろいろ用意はしてくれているのだけれど、やっぱり自分たちでも選びたい。 そう思っていたあたしの気持ちを察して、類が両親に『頼みたいときは言うから』と言っておいてくれた様だった。 それでも、ベビー服やおもちゃなど、外国製のかわいらしいものがよく送られてくる。 『かわいいのがあったから、つい買っちゃったわ』と義母に言われれば、それをつき返すわけにも行かないし、本当にかわいいものが多くてあたし自身気に入ってしまうのだから仕方がない。 そんな感じで、我が家にもたくさんのベビー用品が溜りつつあったのだ・・・・・・。
-rui- 9月に入り、いよいよつくしのお腹もはちきれんばかりの大きさになり、さすがに動くのが大変そうだ。 それでも毎日料理を作ったり散歩に出たりと、体を動かしていないと落ち着かないというあたり、つくしらしいといえばつくしらしいのだけれど・・・・・。
「つくし、あんまり派手に動くなよ。安定期って言ったって、転んだりしたら危ないんだから」 俺の言葉にも、つくしは軽く笑うだけ。 「大丈夫だよ。昨日も白井先生、問題ないって言ってくれてたし。双子ちゃんは相変わらず元気に動いてるって」 そう言ってうふふと嬉しそうに笑う。 歩くのも大変そうなのに、毎日つくしは幸せそうに笑う。 やっぱり母性というものなんだろう。 そんなつくしを見ているとこっちまで嬉しくなるし、幸せな気分になる。 『癒されに来た』と言っては、総二郎やあきらも毎日のように顔を出す。 花沢家は今までにないほど、毎日が活気に溢れていた。
そんなある日、俺とつくしはベビー用品を買いに行こうと車で出かけた。 つくしが最近ネットにはまっていて、ネット検索で見つけた店があるのだと言う。 「通販で全部揃えちゃってもいいんだけど、どうせなら自分の目でいろいろ見たいじゃない?」 と言うつくしらしい理由で、2人で見に行くことに。
駐車場に車を止め、エレベーターに乗るべく歩いていると―――
「ママー!」 子供の声に振り返ると、2歳くらいの小さな女の子がこちらに向かってかけてくるのが見えた。 あれ?と不思議に思って見ていると、その後ろの車から、お腹の大きな女性が降りてくる。 「まどか!ママこっちよ!」 どうやら似たようなマタニティを着たつくしを見て、母親と勘違いしたらしい。 女の子は母親の声に振り向き、またすぐに戻ろうとする。が、その時―――
「危ない!」 女の子が振り返った瞬間、そこに駐車していた車が急にバックしてきたのだ。 きっと、小さな女の子の姿に気がつかなかったのだろう。
考えている余裕はなかった。 俺はすぐに駆け出し、女の子の体を抱えるとその向こうへ体を躍らせた。 「類!」
間一髪、俺は車を避けることが出来、女の子も無傷だったようで泣きながら母親の元へ走っていく。 「まどか!!」 母親が女の子を抱きしめる。 車に乗っていたらしい父親が運転席からでてきて、俺のほうへ駆けて来る。 「大丈夫ですか!!」 バックして来た車の運転手も、慌てて車を止め、駆け寄ってきた。 「すいません!気がつかなくて・・・・・大丈夫ですか!」 見れば、まだ若い女性で後部座席にはチャイルドシートにやはりこちらも小さな男の子を乗せていた。 「大丈夫です。お子さんは・・・・・」 女の子を抱いた母親も駆け寄ってきた。 「ありがとうございます!」 「おい、まどかは・・・・・」 「大丈夫、なんともないわ。本当に、なんてお礼を言っていいか・・・・・」 涙ぐむ母親に、笑って見せながら首を振り、つくしの方を見て・・・・・・ 「つくし!?」
つくしが、さっきまで立っていた場所でうずくまっていた。
その体の下には、水溜りのような液体が広がっていていたのだった・・・・・
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