***Sweet Angel vol.45***




 -soujirou-

 「あっつい〜〜〜」
 だるそうにつくしが手で顔を仰ぐ。

 8月。
 真夏の太陽が肌をじりじりと焼いていた。
 俺はつくしの手を取り日陰のベンチまで連れて行く。
「だから言っただろ?いくら散歩っつったって、こんな日中に来なくたって。夕方にすりゃあいいのに」
「だって・・・・・。家にじっとしてるのに飽きちゃって。せっかく西門さん来てくれたんだし、たまにはギラギラした太陽の下に出るのもいいかな〜なんて」
「アホか・・・・・。夜にはまたみんなで花火大会見に外出るってのに、何でわざわざ・・・・・」
「・・・・・最近、西門さん忙しそうだし・・・・・。今月に入ってから、ゆっくりうちに来れるの初めてじゃない?家でのんびりもいいけど・・・・・たまには2人で出かけるのもいいかなって思ったんだけど・・・・・やっぱりこう熱いと、そんな気分にもなれないかな」
 少しがっかりしたような、申し訳なさそうなつくしの表情。
 
 他の誰でもない、俺のことを考えてくれたんだって知ってうれしくなる。

 俺ってこんなに単純だったか?
「いや・・・・・俺は嬉しいけど。そういうふうにつくしが思ってくれたってことが。つくしの体に負担にならなきゃ、どんな場所だっていいよ、俺は」
 そう言って笑うと、つくしも嬉しそうに微笑み俺を見上げる。
「そのうちまた、みんなで旅行とか出来たらいいな・・・・・・。忙しいだろうけど」
「ああ、そうだな。卒業する前だったら、何とかできるんじゃないか?もちろん双子ちゃん連れて」
 そっとつくしのお腹に手を添える。
「俺とあきらで、世話してやろっか。その間にお前と類は新婚旅行気分味わえば」
 つくしの切迫流産騒動があってから、結局類との旅行は流れてしまった。
 『仕方がない』と言えばそれまでだけど、類が大学を卒業したらそれこそゆっくり旅行なんてする暇はないだろうし、その前に何とか機会を作ってやりたいと思ってた。
「みんなで、新婚旅行?」
 つくしがおかしそうにくすくす笑う。
「それもいいだろ?俺達らしくて」
「うん。そうかもね」
 寄り添ってベンチに座る俺たちを見て、通り過ぎていく老婦人が『楽しみねー』と微笑む。
 軽く会釈を返しながら・・・・・
「夫婦に見えたかな」
「だろ」
 くすくすと笑いあう。
「そういえば・・・・・結婚式のときのあれって、まだ見れないの?」
 つくしの言葉に、俺は溜息をついた。
「そうなんだよ、俺もまだ見てねえ。司のとこで止まったままだ。あのやろう、いくら忙しいからって・・・・・」
「・・・・類が、たまに思い出したようにあの時のことを言うの。あたしが何か隠してるって」
「はは、さすが」
「笑い事じゃないよ。西門さんたちはいいけどさ、あたしは逃げ場がないんだから、早く言っちゃいたいのに」
「わかったよ。司の奴をせっついてみるから」
 そう言ってつくしの頭を撫でると、ちょっと顔を顰める。
 こうやって子供扱いされるのを嫌うつくし。
 だけどそんなふうに拗ねる様子がやっぱり可愛いと思って顔が綻ぶのを止められないから困ったもんだ。
「花火、楽しみだな」
 俺の言葉に、つくしは満面の笑みを浮かべる。
「うん」


 「やっぱりここが1番よく見えるな」
 あきらが夜空を見上げる。
 ここは道明寺邸の屋上だ。
 いつものメンバーが集まり、屋上で花火が上がるのを待っていた。
「道明寺がこの場にいないのってなんか不思議」
 つくしが持って来たカウチソファーにゆったりと座っていた。
「そうだね。司の家なのに」
 飲み物をグラスに注ぎ、つくしに渡す類。
 優紀ちゃんと滋がつくしの傍に来てはお腹をなでている。
「すごい、本当に大きくなってきたね。楽しみ〜」
「双子ちゃんていろいろ大変そう。いろいろ手伝いにいくからね、困ったことがあったら遠慮しないで教えてよ?」
「ん、ありがと優紀」

 「桜子、彼氏できたって?」
 飲み物をてにぶらぶらしている桜子に声をかけると、桜子がぶっと飲み物を噴出した。
「ゴホッ・・・・・誰に聞いたんですか!」
「あきらだよ。お前が男とホテルから出てくるとこ見たってさ。安っぽいラブホテルなんか使うなよな」
「だって、彼普通のサラリーマンだからお金持ってないんですもの」
「サラリーマン?お前が?」
「いけませんか?・・・・・わたしのこと、全部知っても好きって言ってくれたの・・・・・・彼が初めてなんです」
 桜子の頬が、微かに染まる。
 高校生のころから見てきたけれど、こんな表情をする桜子を見たのは初めてだった。
「そりゃ、貴重だな。大事にしろよ」
「・・・・・余計なお世話です。言われなくても・・・・・離しませんから」
 そう言って俺に背を向け、つくしのところへ行って話の輪に入る桜子。
 その様子を見てると、あきらが傍にやってくる。
「あいつも変わったな」
 俺の言葉に、あきらがにやりと笑った。
「つくしを見て、自分も子供を産んでみたいと思ったんだと。あいつ、ガキの頃に散々嫌な思いして・・・・・だから、ずっと子供は産みたくないって、そう思ってたって。昔の自分に似てる子が生まれて、その子が苛められるのを見たくないって。ずっとそう思ってて・・・・だけど、幸せそうなつくしを見てるうちにそれは違う気がしてきたって。その彼氏が、つくしにちょっと似てるんだってさ」
「へえ・・・・・。そりゃあ1度会ってみてえな」
 それを聞いてあきらがくすくす笑う。
「たぶん、あいつは嫌がるよ。俺らに会ったら彼氏がびびるだろうってさ」
 
 つくしの方を見れば、女4人子供の名前談義なんかで盛り上がっている。
 その横では、相変わらずつくしを見守っている類がいて。

 あと2ヵ月後には、この見慣れたメンバーにかわいい新入りが2人増えるのかと思うと、それでまた楽しみが増えそうだった・・・・・。








  

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