-akira-
「だいぶ大きくなってきたな、そのお腹」 7月に入り、つくしの体調も最近は安定してきていた。 切迫流産しかけてから、大事をとって早めに大学を休学することになったつくし。 最近は散歩にも出かけられるようになっていたが、やっぱりあまり無理はさせたくないのでダンスなんかのレッスンは休ませることにし、その代わり週に2、3回は花沢の家に俺たちが通うようになっていた。
類の部屋のソファーで、類と並んでゆったりと座るつくし。 そのお腹は見た目にはっきりと分かるほど大きくなってきていた。
そのお腹を優しく撫でながら・・・・・ 「うん。すごく元気なの。ぽんぽん蹴っ飛ばしたりしてね」 「そりゃ、お前の子だからな。すげえやんちゃなのが生まれそうだな」 俺の言葉に、類もくすくすと笑う。 「なによー、それ」 ぷくっと頬を膨らませるつくし。 類がそんなつくしをいとおしそうに見つめる。 「元気な方が良い。つくしに似てる子が良いな」 「あ、それ良いな。女の子だったらマイフェアレディーみたいにするか」 と、途端に類が顔を顰める。 「それ、あきらの相手にするってこと?絶対やだよ」 「なーんでだよ。良いじゃん、大事にするぜ?」 「だーめ。女の子が生まれたら、出入り禁止にするよ」 「げ、きびしーなそれ」 俺が顔を顰めると、つくしが楽しそうに笑う。 「総二郎もおんなじ様なこと言いそうだけどなー」 その俺の言葉に類が口を開きかけたとき、類の携帯が着信を告げた。 「―――はい。あー・・・・ちょっと待って。書斎に資料があるから、かけなおす」 そう言って一度電話を切ると、類は立ち上がった。 「ごめん、田村から。ちょっと書斎に行って来る」 「うん」 類が出て行き、つくしと2人になる。 「・・・・・退屈でしょうがないって顔してるな」 「だって・・・・・」 「でも、我慢強くなったじゃん。ちゃんと家でおとなしくしてるんだもんな」 「何よ、子供あやすみたいに言わないで。あたしだって・・・・・これから母親になるんだもん。自分の子供、守れなかったら親って言えない」 その言葉が、どことなく自分を責めているような気がした。 「・・・・・切迫流産しかかったのは、お前のせいじゃない。そのことは深く考えるな。今は安定してるんだし・・・・・お腹の子も無事だったんだから」 つくしが、俺を見て微笑む。 「ありがと、美作さん」 「別に。お前は、笑ってるのが1番だからな」 その言葉に、頬を染める。 こういうところはいつまでも変わらない。 「子供、お前は男と女どっちが良い?」 その言葉に、つくしはちょっと首を傾げる。 「あたしはどっちでもいいけど・・・・。でも、最初は男の子がいいかな。あたしが長女だったから・・・・お兄ちゃんっていうの羨ましかったりしたし。類に似た男の子って絶対かわいいと思うもん」 「ふーん・・・・・で、お前にぞっこんな息子になるのか?」 「何それ、ぞっこん?」 「類に似たら、好きになるのはお前しかいないって気がする。なんかライバルが増えるみたいでやな感じだな」 半分本気でそう言って溜息をつく俺を、きょとんと眺めるつくし。 かと思うと、急にじろりと横目で俺を睨んでくる。 「なんだよ?」 「だって、美作さんだって、女の子がいいって言ってたくせに」 「は?」 「マイフェアレディーだって。きっと女の子が生まれたらあたしのことなんか相手にしてくれなくなっちゃうんでしょ」 そう言って頬を膨らませるつくし。 俺は驚いて言葉も出ない。 暫くまじまじとつくしを見つめていると、その視線に耐えられなくなったのか決まり悪そうに頬を染め、俺の方を見て口を開いた。 「なによ」 「いや・・・・・お前、ひょっとして妬いてんの?」 「へ・・・・・」 「俺に相手して欲しいと思ってるわけ?」 その言葉に目を見開き、カーッと顔を赤らめる。 「あ、いや・・・・・そうじゃなくて、ね・・・・・・」 落ち着きなく視線を彷徨わせながらも、その顔はどんどん赤くなって・・・・・
俺は堪らず立ち上がると、つくしの隣に行ってその体を抱きしめた。 「わっ、ちょっと、美作さん!」 「お前、かわいすぎ!」 「な・・・・・!」 慌てて俺から離れようとするつくしの体を、俺はさらに力をこめて抱きしめ、その額にキスを落とした。
結婚したって、子供が出来たって、やっぱり俺はつくしが好きだと。
そのめいいっぱいの想いをのせて。
そのまま俺は幸せを噛み締めるようにつくしを抱きしめていると・・・・・
『ガツンッ』
おもいっきり頭を殴られ、俺はソファーから転げ落ちた。 「いってえーっ」 「てめえは何やってんだよっ!」 その声に顔を上げると、総二郎が鬼の形相で俺を睨みつけていた。 「西門さん!いつ来たの?」 「たった今だよ!お前も、何やってんだよ?」 「な、何って、だって、美作さんが・・・・・」 「何騒いでるの?」 扉を開けて、類が入ってきた。 途端に、つくしが慌てる。 「る、類」 「何でもねえよ」 類の機嫌を損ねる前に話を逸らそうとしたけれど・・・・・ 「こいつら、ここで抱き合ってたんだよ」 総二郎の声に、類の顔色が変わった・・・・・。
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