-rui-
「切迫流産?」 俺は病室のベッドで眠るつくしの横に座っていた。 つくしは点滴を打たれながら眠っていた。 「しかかったの。今は落ち着いてるわ」 駆けつけてくれた白井先生が言った。 「赤ちゃんは・・・・・」 「大丈夫。問題はないわ。安静にしていれば・・・・・。きっと、結婚式の準備とか・・・・・例の計画のことで疲労が溜まっていたのね。ごめんなさい・・・・・わたしたちのせいだわ」 「いや・・・・。先生のせいじゃありません。きっとつくし自身、気づいてなかったんです。とても楽しみにしてたし・・・・・4人の幸せを願っていたから・・・・・。でも普通の体じゃないんだから、もっと考えてあげなきゃいけなかった。俺が、気付いてたら・・・・・・」 「類」 あきらと総二郎が、病室に入ってきた。 「司は、もうN.Y.に発ったよ。つくしの傍にいたいって言ってたけど・・・・・仕事もあるし、あいつがここにいても結局変わらないからな。西田さんに引っ張っていってもらった」 そう言ってあきらがつくしの傍に来た。 総二郎もつくしの顔を覗き込む。 「気を張ってたんだな、ずっと。もっと、気を使ってやらなきゃいけなかった」 総二郎の言葉に、白井先生が微かに笑みを浮かべて言った。 「あなたたちは充分つくしさんのことを気遣ってあげていたわ。きっと、彼女自身の体質にも原因があるんだと思うわ。さっき、担当の医師と話したの。つくしさんの主治医として、わたしももっと早くに気付いてなければいけなかったわ。今回は大事に至らずに済んだけれど・・・・・今後は少し安静にしていないと・・・・・。それで、類さんにはお知らせしておきたいことがあるんだけど」 白井先生が、意味ありげに俺たちを見渡す。 総二郎とあきらは顔を見合わせ、 「俺たちが聞いたらまずいこと?」 とあきら。総二郎も不本意そうに肩を竦める。 「つくしに関する事なら、俺たちも知っておきたい。これでもつくしの恋人のつもりだし?」 「恋人って・・・・・」 俺が顔を顰めると、2人してにやりと笑う。 「愛人なんて厭らしい言い方おかしいだろ?俺たちはオープンな関係なんだし」 「・・・・・言ってれば。で、先生。それは、悪い知らせ?」 「悪い知らせではないわ。いい知らせかどうかは・・・・・・ただ、つくしさんはもう少しあなたには内緒にしておきたいって言っていたの。驚かせたいんだって・・・・・もちろんあなた達にもね。ただ、こういう事態になってしまった以上、少なくとも夫である類さんには知っておいてもらった方が良いと思うのよ」 その言葉に、俺はちらりと2人の顔を見てから、口を開いた。 「それなら・・・・・彼らが知っていても問題ないと思います。つくしにとって、彼らは家族みたいな存在なので」 俺の言葉に、白井先生は頷き・・・・・ゆっくりと話し始めた。
「お腹の中の子だけど・・・・・実は、双子なのよ」 白井先生の言葉に、俺たちは呆気にとられ・・・・・顔を見合わせた。 「検診のとき、一緒に来てもエコーのときになると出て行ってもらってたでしょう?」 「ええ。でもそれは、男女の区別を知られたくないからって・・・・・。そうか・・・・・だから、まだそんなのわからない時期から・・・・・」 「類は勘が良いから気付いちゃうかもしれないって言って、絶対に見せないって言ってたよな・・・・・」 あきらの言葉に、総二郎も頷いた。 「双子の場合、母体から送られる養分も1人の時よりも少なくなってしまうから、貧血も起こりやすくなるし妊娠中毒にも陥りやすくなるの。もちろんつくしさん自身気をつけていたと思うけれど・・・・・。これからは、周りの人も気をつけてあげないと。つくしさんにはこんなに素敵なだんな様と・・・・・恋人がいるんだから、これからは心配ないかしらね」 白井先生の笑顔に、俺たちも微笑み、しっかりと頷いたのだった・・・・・。
「何だ、ばれちゃったの?」 病院のベッドで目覚めたつくし。 俺の話に、がっかりしたように溜息をついた。 朝になり、つくしが目覚めたのを見届けると、あきらと総二郎は一旦帰って行った。 「みんな心配したんだよ。そういう状態だって知ってたら、もう少し気をつけたのに」 そう言っておでこを弾くと、つくしはちょっと顔を竦め、決まり悪そうに首をすぼめた。 「ごめん・・・・・。あたしも、こんなことになるなんて・・・・・ちょっと、なめてたんだね。白井先生にも気をつけるように言われてたのに・・・・・」 「ん・・・・・。とりあえず1週間入院らしいから」 「え・・・・1週間?入院?」 「当たり前でしょ。切迫流産しかかったんだよ?」 「だって・・・・・」 それでも文句言いたげなつくしに苦笑する。 「今日1日ここにいて、急変がなければ、明日白井先生のところに転院させてくれるってさ」 その言葉に、ぱっと顔を輝かせるつくし。 「ほんと?」 「ほんと。だから、おとなしくしててよ」 「ん・・・・・。心配かけて、ごめんなさい」 つくしの髪を、クシャリと撫でる。 「無事でよかった・・・・・。つくしも・・・・・この子達もね」 そうしてお腹をそっと撫でれば、つくしもいとおしそうにお腹に触れる。 「もっと・・・・・しっかりしなくちゃ。お母さんになるんだもんね・・・・・」 そう言ってふわりと微笑んだつくしの顔は、それでももう母親の表情になっているような気がした・・・・・・。
生まれてくる子が双子だということを知らせると、俺の両親は大喜びで『じゃあ2人分の育児用品が必要ね!類、あなたも育児参加しなきゃダメよ!』と母親が興奮したように電話口で言ったかと思えば、その横で父親が『ベビー服が倍必要になるな!ミルクは足りるのか!?』などと気の早いことを言っていた。 仕事の都合で今日はもうフランスへ発ってしまう両親。 既に空港に着いていたのだが、『少し寄る時間はないのか』と言って、運転手を困らせているのが聞こえ、苦笑した。 つくしの両親も駆けつけ、病室で万歳三唱をしたりして、看護婦に注意されるなんていう一幕もあり・・・・・。相変わらずつくしの回りは賑やかだった。
それでもとりあえずは安静に。 無事に出産の日を迎えるまでは、つくしが無茶をしないよう見守るのが、俺の役目となった・・・・・。
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