***Sweet Angel vol.41***




 -tsukushi-

 どうなるかとドキドキしていた合同結婚式。

 まずは第一関門突破という感じで、舞台は披露宴へと移った。

 4人の親たちの反応は様々で、事情を知らされていた白井先生のお母さんは娘の花嫁姿に感動することしきり、涙を流して喜んでいた。
 美幸さんの相手の男性の両親も、最初こそ驚いてうろたえていたものの、息子の結婚に反対する気はないようで、嬉しそうに2人の姿を見つめていた。
 問題は、やはり吉野教授と美幸さんの両親、そして美幸さんの祖父である学部長だった。
 
 披露宴の会場へ移動するまでも『話をさせろ』と式場のスタッフなどに迫ったりしていたらしいけれど、そこは田村さんが出て行き、披露宴が終わるまでは、と説得してくれたようだった。

 そして披露宴では類の両親から2組のカップルの紹介と、美幸さんの妊娠の発表。
 それから道明寺からも今後も支援していくとの言葉もかけられ、会場は祝福のムードで溢れた。
 こうなると、大勢の来賓を前に反対するわけにも行かず・・・・・
 特に英徳大の学部長という立場があればなおのこと、道明寺が支援すると言われれば、先のことも考えこの婚姻を許さないわけにはいかなかった。
 というよりも、手を上げて喜ぶまでしなくても、学部長がこの結婚を喜んでいるのがその表情からも見て取れた。
 それは道明寺との繋がりが強固になって嬉しいということよりも、かわいい孫の妊娠を、心から喜んでいるようにも見えた・・・・・。

 一番納得いかなかったのは吉野教授の両親だろう。
 けれど渋い顔をしながらも黙って息子の晴れ晴れした姿を見ていた2人は、最後には白井先生に頭を下げ、笑顔を見せていたのだった・・・・・。

 
 『吉野教授が、以前結婚の約束までしていたのに別れることになった彼女の話、聞いただろ?』
 式の後、西門さんが言っていた。
『あの彼女さ、教授と別れた後はずいぶん落ち込んで一時期は精神科の病院に通うくらい追い込まれてた時期があったらしいんだ』
『自殺未遂の事件まで起こして・・・・その彼女を救ったのは当時彼女がバイトしてた店の店長で、今はその店長と結婚して幸せに暮らしているらしい』
『でも、あの家に反対されたせいで、危うく命を落とすところだったんだ。そこまで1人の女性を追い込んだこと・・・・・おそらく息子さんは、それを知ったら自分を責めるだろうし、あなたたちを許さないと思いますよって言ったんだ』
 西門さんの話を聞いて、吉野教授の両親は言葉もなく青い顔をしていたという。
 もしも今回の結婚を邪魔したら、どうなるか・・・・・
 きっと時期学部長などと悠長なことは言っていられない事態になっただろうということを、幸せそうな吉野教授を見ていて悟ったに違いない。

 最後には、4人がお互いの親と固い握手を交わし、披露宴は幕を閉じたのだった・・・・・。


 長い披露宴が終わり、夜の10時をまわるころ、あたしと類はみんなの待つクラブへと向かった。
 面倒くさい、形式ばったものはひと段落し、この後は仲間たちとの集まりだ。
「つくし、大丈夫?」
 類が、心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「うん、大丈夫だよ。類こそ疲れてない?」
「疲れてはいるけど、俺は平気。適当に気ィ抜いてたから」
「あれで?」
 花沢物産の跡継ぎとして、見事な程堂々としていた類。惚れ直す、というのはまさにこのことだろうと思うくらい、あたしはずっと類に見惚れっぱなしだった。
 あれで気を抜いていたというのだから、やっぱりどこか違う・・・・と思ってしまった。
「それよりも、あんまり顔色がよくないみたいに見えるから。本当に平気?」
「平気だよ。暗いから、そう見えるだけじゃない?疲れてはいるけど・・・・・でも、ほっとしてる。今日の計画、うまくいって・・・・・」
「ああ、そうだね。たぶん、これで問題ないと思うけど・・・・・もし何か問題があるようなら、司も協力してくれるって言ってたし」
「うん。道明寺にも感謝しなくちゃね」
 そう言って笑うと、類はちょっと意味ありげな視線をあたしに向けた。
「・・・・感謝、だけにしといてね」
「え・・・・・」
「なんか、今日はずっと気になってたんだけど・・・・・また隠し事してない?」
 類の言葉に、どきりとする。
 それをごまかすように前を向いて、口を開く。
「別に、何もないよ、隠し事なんて」
「・・・・・ごまかせると思ってる?」
「え・・・・・」
「またどうせあいつらのことなんだろうけど・・・・・隠し通せるわけないって、わかってるでしょ?」
「・・・・・すぐに分かるからって・・・・・」
「え?」
 類が、ちょっと目を見開く。
「類には、すぐに分かっちゃうだろうけど、でもそんなに長く隠しておくつもりもないから、ちょっと待っててくれって、伝えろって・・・・・」
 あたしは、西門さんたちに言われたことを、そのまま類に伝えた。
 そう、絶対類にはわかっちゃうんだもの・・・・・
 あたしの言葉に、類が軽く溜息をついた。
「そう言われたら、これ以上追求できない。まったく、あいつら・・・・・せっかくけじめつけさせたのに、これじゃあ2人で会うのをただ容認したようなもんじゃん」
 拗ねたようにそう言うのが、ちょっとかわいくて。
 思わず吹き出してしまうと、途端にじろりと睨まれる。
 そしてすぐにふわりと抱きしめられて。
「結婚したからって安心できないのはわかってる・・・・・けど、絶対この位置を譲るつもりはないから、覚えておいてよ」
 甘く耳元で囁かれて。
 返事をする間もなく、唇を塞がれる。
 そうして目的地に到着するまで―――
 あたしは、甘く暖かなその幸せを、噛み締めていた・・・・・。


 「あ、来た来た!お疲れ様でーす!」
 クラブに入ると、桜子があたしたちを見つけて手を振る。
 おなじみのメンバーが集まったいつもの場所。
 もちろん今日は貸切だった。
「よ、うまく行ったな」
 美作さんが微笑む。
「アフターフォローも問題なし!ま、俺たちに任せといたらこんなことくらい軽いよな」
 西門さんも楽しそうに笑う。
「クソ忙しいのに面倒くさいことやらせやがって・・・・・。でもまあ、ちょっとは楽しめたぜ」
 そう言って道明寺もにやりと笑う。

 あたしは類と手を繋ぎ、みんなの元へ行こうとしたが―――

 突然、下腹部に鈍い痛みを感じ、立ち止まる。

 「つくし?」
 類が立ち止まり、あたしを見る。
「ごめん、何でも―――」
 そう言いかけた時―――

 猛烈な痛みを下腹部に感じ、あたしはその場に倒れた―――。







  

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