-rui-
式が始まる。
つくしがやってくるのを待つ俺が立っている場所。 その前方の両側に、聖歌隊が控えている。 階段状になった舞台に並んだ聖歌隊の後ろ側に少し目を凝らす。 俺の位置からは何も見えないが、微かに人のいる気配が感じられた。
参列者の中の、後ろのほうに控えている数人の様子をちらりと見る。
なぜ自分たちがこの式に呼ばれたのか。 この2ヶ月の間に自然に関わりを持ったように演出したのだが、それでもまさか結婚式に呼ばれるとは思っていなかったのだろう。 こじつけるように理由はつけたものの、期間が短かったのでやはり不自然さが多少残るのは仕方がなかった。
ふと見ると、いつの間にか総二郎、あきら、司の3人が参列していた。 俺と目が合うと、にやりと笑う。 その笑みがいつもと同じようでいて、何かを含んでいるようにも見え・・・・・
漸くここまでこぎつけたのにも関わらず、まだまだ俺の心配は続きそうな予感がした・・・・・。
そのとき、静かにパイプオルガンの音が鳴り始めた。
参列者が一斉に、後ろの扉へと目を向ける。
微かにきしむ音を響かせながら、ゆっくりと扉が開いた。
純白のウェディングドレスに身を包んだつくしが、父親とともに現われる。
美しいその姿に、俺は目を奪われた。
静かに、ゆっくりと父親とともに歩いてくるつくし。
参列者の拍手の中、ゆっくりと近づいてくる。
まるで、夢の中のようだった。
やがて、俺の前に立ったつくし。
「類くん・・・・・。つくしを、頼みます」 涙を目に溜めた父親にそう言われ、俺はしっかりと頷いた。 「お約束します。必ず・・・・・つくしさんを幸せにします」 父親は頷き、そのまま家族とともに参列する。
つくしがヴェール越しに俺を見て、ちらりと聖歌隊の後ろのほうへ視線をやったのがわかった。 「大丈夫。予定通りだよ」 小声でそう言う俺の言葉に、つくしがほっと息をついた。
そして、神父の前で愛を誓う・・・・・・。
聖歌隊が賛美歌を歌い・・・・・・ その歌が終わるころ、聖歌隊が前列から1人、また1人と協会の両側へと移動を始め・・・・・ やがて、その後ろにいた人物たちの姿が見え始めた。
ウェディングドレスを着た花嫁と、白いタキシードを着た花婿の組み合わせが2組、俺たちと同じように向かい合い、見詰め合っていた。
ガタンと大きな音を立て、後ろのほうで慌て始める人物たち。
「こ、これは!一体どうして美幸が!」 今野美幸の父親だろう、人物の声。 俺は後ろを向き、口を開いた。 「お静かに。勝手なことをして、申し訳ありません。本日は、私たちとともに2組の友人たちの結婚式も一緒に行わせていただきます。この2組のカップルは私たちの大切な友人です。心の底から愛し合い、永久の愛を誓い合ったこの4人を、どうか暖かい拍手でお迎えください」 俺の言葉に、拍手が沸き起こる。 もちろん白井医師以外の3人の両親たちはそれどころではなく、パニック状態だ。 「合同の結婚式を挙げることになったいきさつは後ほどご説明いたします。こうして同じ日に同じ場所で式を挙げることになったのも何かの縁ですから、これからは公私とも通じてお互い盛り立てていけることを願っています」 そう言って微笑んで見せると、夫婦で顔を見合わせ、まだ戸惑いつつも静かになる。 今説明しても、すぐには理解できず混乱しているだろう。 ただ、花沢が関わっているという至極当然で単純な事実は理解できるだろうから。
後は披露宴の席で、俺の両親が2組のカップルを支援していくと告げ、そして司がそれに加わり盛り上げる。 世界の道明寺と花沢が支援するとなれば、認めざるをえないだろう・・・・・という目論見だった。 もしそれでも反対ということになっても、立場のある人物たちだ、その場で騒ぎ立てたりすることはないだろう。 そのときは後で説得する席を設ける予定だった。 と言っても、2組とも今日既に入籍を済ませている。 そして今野美幸のお腹には既に6ヶ月になる子供がいるのだ。 道明寺楓のような鉄の女でもない限り、それ以上反対するとは思えなかった。
3組のカップルが指輪の交換をし、誓いのキスをする。
そしてまたパイプオルガンがなり始め、俺たちは腕を組みながら退場を始める・・・・・。
教会の外に移動していた参列者から、ライスシャワーが注がれる。
「おめでとうつくし!!」 「おめでとう!幸せにね!」 「幸せになれよ!!」
歓声の中教会の外に出た牧野が、頭上高く思い切りブーケを投げ上げる。
たくさんの手がそれを追いかける中、ブーケはまるで最初からそこへ行くと決まっていたかのように、優紀ちゃんの腕の中へぽすんと落ちて行った。
「優紀!彼と幸せにね!」 つくしの言葉に頬を染め、彼氏と顔を見合わせ微笑み合う。 そんな親友の姿を、つくしは嬉しそうに見つめ、また俺の腕を取った・・・・・。
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