***Sweet Angel vol.39***




 -tsukushi-

 「つくし、すっごくきれいよ!」
 入ってくるなり優紀が感動したように手を合わせて言う。
「ほんと、別人みたい」
 その隣で桜子が言うのに、あたしは顔を引き攣らせる。
「あんたね・・・・・」
「いいなあ、ウェディングドレス!あたしも早く着た〜い」
 滋さんが羨ましそうに溜息をつく。
「つくし、おめでとう。幸せになってね」
「優紀・・・・・ありがとう」
 苦しいときも、楽しいときもずっと一緒に過ごしてきた友人たち。
 ここまでの道のりを考えれば、何も言わなくてもお互いの思いが伝わってくるようだった。
「先輩が一番先に結婚しちゃうなんて、意外って言うか・・・・・まさかこれ、花沢さんの策略だったりしません?」
「策略って何よ」
「正式に結婚して、子供まで生まれるんですから、もう逃げられないって言うか」
「別にあたし逃げるつもりなんてないし」
「でも隙あらばって狙ってる輩への見せしめにはなるって言うか」
「見せしめって、あんたねえ」
 額に青筋が浮かびそうになったところへ、また扉が開く。
「よ、入るぜ」
 そう言って美作さんが顔を出し、後ろから西門さんもやってきた。
 そしてその後ろから姿を見せたのは・・・・・
「よお、間に合ったな」
「道明寺!!」
 濃いグレーのスーツに身を包んだ道明寺が、2人とともに現われたのだ。


 「例の計画のことだけど、何とかうまく行きそうだ」
 女の子3人が出て行くと、美作さんがそう言った。
「ほんと?良かった」
 ほっと胸をなでおろす。
「お前も、こんなときまで厄介なことに首突っ込みやがって」
 憎まれ口を聞く道明寺に、ちょっとむっとして横目で睨む。
「何よ、しょうがないじゃない」
「ま、こいつの性格だからな。それにしても馬子にも衣装。化けたよなあ」
 ニヤニヤとあたしを見つめる西門さん。
「化けたって、何よ」
「言葉通りだよ。すげえきれい。惚れ直すぜ」
 さらりとそんなことを言われて、思わず赤くなる。
「うん、マジで。今更ながら、類に渡すのは勿体ねえなあ」
 そう言って優しい笑みを浮かべる美作さん。
 道明寺もあたしの姿を見て、目を細めた。
「2人きりだったら連れ去ってたかも知れねえな」
「・・・・・変なこと言わないで。類の隣に並ぶのに、緊張しちゃいそうだよ」
「緊張してろよ。いつ何が起こるかわからねえぜ。いつの間にか隣にいるのが俺だったりするかもよ?」
 西門さんがふざけて言うのに、道明寺がその頭を叩く。
「それは俺のセリフだ。安心しきってるといつの間にか道明寺の屋敷で寝てたなんてことになるぜ」
「こえーな、それ。つくし、類に飽きたら俺んちに来いよ。いつでも部屋空けといてやるから」
「美作さんまで!だから、飽きたりしないってば。3人ともいい加減に―――」
 そう言いかけたとき。
 西門さんも手が、あたしの髪に触れた。
「―――幸せになれるよ、お前と類なら」
 そう言って、そっと額にキスをして、あたしから離れる。
「つらいことがあったら、俺たちを頼れ。どんなことからも、守ってやるから」
 美作さんが、優しく頬にキスをする。
「どこにいても、お前の幸せを願ってるから・・・・・おめでとう」
 最後に、道明寺がもう一方の頬にキス。

 あたしの瞳から、涙が零れる。
「―――ありがとう」
「泣くなよ。これから式だぜ」
 西門さんがくすりと笑う。
「だって・・・・・」
「俺が塗りなおしてやるよ。泣き顔、写せねえだろ?」
 言いながら、美作さんがドレッサーからファンデーションを持って来てあたしの頬をなぞる。
「写す?って、写真?撮影なら、式の後だから・・・・・」
 まだ時間あるし、と首を傾げると、3人が顔を見合わせて笑った。

 なんとなく、嫌な予感がしてあたしは後ずさる。
「おっと、逃げんなよ」
 そう言って道明寺があたしの腕を掴む。
「別に本当に攫おうってんじゃねえから安心しろ」
「じゃ、なに?」
「記念だよ、記念」
 そう言って笑いながら、美作さんが入口の扉を開けた。

 その扉から入ってきた人たちを見て―――

 文字通り、あたしは目を丸くしたのだった・・・・・。


 -rui-
 教会に入り、ぐるりと中を見渡す。
 少し広めの協会。
 3組合同での式ということで、手配させた協会だった。
 参列者の後ろのほうには2組のカップルの親族が少し戸惑ったように座っていた。
 披露宴の会場では花沢家と牧野家の来賓のほか、2組のカップルの関係者も待機していて、この式の様子を大型モニターで見られることになっていた。
 
 綿密に計画してきた今回の合同結婚式。
 今日が本番だ。
 つくしほど思い入れがあったわけじゃないけれど、ここまで来たからにはやっぱり成功させたかった。

 ―――それにしても・・・・・

 式の参列者の中に、総二郎とあきら、それから司がいないことが気になっていた。
 式の前に、当然つくしに会いに行っているのだと思うが・・・・・
 ここまで来て、なんだか妙な胸騒ぎがして落ち着かない。

 ―――つくし・・・・・早く会いたいな・・・・・

 俺は、今はまだ閉じられている協会の扉を見つめた・・・・・。









  

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