***Sweet Angel vol.38***




 -rui-

 総二郎とあきらに『つくしと2人きりになる時間をくれ』と言われたとき、躊躇しなかったわけじゃない。

 つくしの気持ちは良くわかっているつもりだから・・・・・

 だからなおさら不安があった。

 だけど、2人は俺の親友だし、つくしにとっても大事な存在だ。

 総二郎やあきらにとってのけじめ。

 それで3人の関係が変わるわけじゃないけれど、やっぱりつくしは少し寂しそうで・・・・・。

 帰ってきたときにはとにかく抱きしめてやりたかった。
 俺にはそれしか出来ないし、それが俺の役目だと思ったから・・・・・

 「子供が生まれたら」
 そんな会話をするようになって、俺たちも漸く夫婦らしくなってきた気がしていた。
 
 式の1週間前、俺はつくしに付き添い、白井先生の元を尋ねた。
 例の計画の最終的な打ち合わせと、つくしの検診のためだ。

 「少し、血圧が高いわね。式の準備でいろいろ大変だとは思うけど、無理だけはしないでね」
 白井先生の言葉に、つくしは真剣な表情で頷いた。
「出産にはいろいろな予期せぬトラブルがついてまわったりするものよ。でも、そんなときこそ落ち着いて対処することが大切。お母さんの不安は、赤ちゃんにも移ってしまうから。そして、お母さんを支えるのはお父さんの役目。女性と違って、男性は赤ちゃんが生まれてからじゃないとなかなか実感て湧かないものだけど・・・・・。神経質になり過ぎず、つくしさんを安心させるようにしてくださいね」
 にっこりと微笑む白井先生に、俺は頷いた。
「はい、もちろんそのつもりです。式のときも・・・・・なるべくつくしにはじっとしてもらおうと思ってますから」
 そう言って釘をさす。
 つくしはちょっと不満そうな表情をしていたが・・・・・
 自分だけの体じゃない。
 その自覚が、つくしを少し我慢強くさせているようだった。

 
 帰り道、2人でゆっくりと手を繋ぎながら歩く。
 車の方が速いのだが、歩いても20分ほど。
 できるだけ体を動かしていたいというつくしの要望で、なるべく車を使わず歩くようにしていた。
「問題なさそうで、良かった」
 俺の言葉に、つくしも笑顔で頷く。
「うん。白井先生も元気そうで良かった。いよいよ来週だもんね・・・・・。大丈夫かな」
「大丈夫。今のところ何の問題もないよ。総二郎とあきらが手を回してくれてるし、司も協力してくれるから、きっとうまく行くよ」
「そっか・・・・・。なんだか不思議な感じ」
「そう?」
「うん。あたしたちだけの結婚式じゃないんだよね・・・・・。白井先生たちにも、幸せになってもらいたい。みんなが幸せに・・・・・。そう、なれるよね」
 きゅっと、繋がれた手に力がこもる。
 俺もまた、握り返すようにそっと力をこめた。
「・・・・・大丈夫。つくしがそう願うなら・・・・・きっと叶うよ」
 

 -tsukushi-

 「ずいぶん広いところなのねえ」
 控え室に入ってくるなり、母が目を丸くして言った。
「ちょっと、入ってくるなりそれ?普通、この姿見たら他のこと言わない?」
 ウェディングドレスを身に纏い、あたしは顔を引き攣らせて言った。
「だって、こんな立派な会場初めてで・・・・・娘の姿なんて見慣れてるもの」
「あのねえ・・・・・」
「つくし!」
 そこへ飛び込んできたのは、借り物のタキシードに身を包んだ父と、見慣れない姉の姿に目を丸くしている進だった。
「すっごくきれいだよ!素晴らしい!こんなにきれいになって・・・・・」
 と涙ぐむ父を、母は呆れた目で見ている。
「今から泣いてどうするの、あなた。その服借り物なんですからね。汚さないように注意してよ」
「わ、わかってるよ。ママこそ、もう少し娘のウェディングドレス姿を褒めてやったらどうだい」
 その言葉に、母はまたちらりとあたしの姿を目にいれ・・・・ふいっと目を逸らした。
 その目には、微かに涙が光ってるように見え・・・・・
「ママ・・・・・」
「き、きれいなのは当たり前よ。ママの娘なんですからね。さ・・・・・あんまりここにいると邪魔になるわ。行きましょう」
 そう言って父の手を引っ張っていこうとする母。
「待って、ママ、パパ」
 あたしの声に、2人が足を止め振り返る。
「・・・・・挨拶くらい、ちゃんとさせてよ」
 そう言ったあたしを見て、2人が気まずそうに顔を見合わせる。
「あ、挨拶なんて・・・・・いいわよ別に」
「う、うん、照れくさいしな・・・・・」
「でも、あたしの気が済まないから、やっぱり言わせて。・・・・・ママ」
 母が、顔を上げる。
「あたしを生んで・・・・・育ててくれてありがとう。今までたくさん、心配かけてごめんね」
「つくし・・・・・」
「パパ」
 父が、涙で潤んだ瞳をあたしに向ける。
「いつもあたしを優しく見守ってくれてありがとう。あたしたち家族のために一生懸命働いてくれて・・・・・感謝してます」
「つ、つくし・・・・・」
「花沢つくしになっても、あたしはパパとママの娘だから。これからもずっと・・・・・見守っていてください」
 父の目からは大粒の涙が零れていた。
 母は、目じりに浮かんだ涙を隠すように手で擦ると、わざと大きい声を出して言った。
「馬鹿ね、パパってばそんなに泣いて・・・・・。本番はこれからよ?大体、花沢家に嫁ぐってだけで、つくしに会えなくなるわけじゃないんだから・・・・・ほら、もう行きましょう、進も」
 そう言って父の腕を引っ張るようにして出て行く母。
 進は呆れてぽりぽりと頭をかきながらもその後に続いていこうとして・・・・・
「進」
 あたしの声に、振り返る。
「ん?」
「・・・・・パパとママ、よろしくね」
 その言葉に、にっこりと笑って。
「わかってる。姉ちゃんも・・・・・がんばれよ」
 いつの間にか頼もしくなった進の背中を見送って・・・・・

 暫くして、今度はおなじみのメンバーが現われたのだった。









  

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