*総つくっぽい要素を含みますので、抵抗のある方は読まれないほうが良いと思います。当作品に対するクレームなどは一切受け付けておりませんのでご了承ください。 -tsukushi-
「西門さんが来てくれるなんて思わなかった」 あたしが言うと、ハンドルを握りながら西門さんがちらりとあたしを見た。 「そうか?」 「類が、迎えを寄越すとは言ってたけど・・・・・」 「ちょっと、時間あるか?」 「え?これから?」 「ああ。お前に、一緒に行って欲しいところがあんだ」 「いいけど・・・・・」 西門さんの言葉に、
あたしは首を傾げた。
そういえば、西門さんとこうして2人でドライブするのも久しぶりだ。 ここのところ、結婚式の準備が忙しくてお茶のお稽古もお休みしてたから・・・・・。
いつも、助手席に座らされる。 そこは特別な席だと思うから、遠慮したこともあったけれど・・・・・。
『お前は、特別だからいいんだよ』
『お前以外の女はこの車の助手席には乗せないって決めてる。だから、そこに乗れ』
ちょっとえらそうに。 でもあたしに対する思いが伝わってくる言葉。
ずっとあたしのためにとっておいてくれると言ったその席は、いつの間にかあたしの安心出来る場所になってた。 隣には、いつも微かにお香の香りを漂わせた西門さん。 乱暴な言い方をしても、優しさがちゃんと伝わってくる。 いつの間にか、あたしにとってかけがえのない存在になってた・・・・・。
「ここは・・・・・」 車を降りると、そこは夜の闇が広がっていて。 微かに聞こえる波の音と、潮の香り。
「覚えてるか?」 西門さんの声に、あたしは頷く。 「あの時・・・・・西門さんが連れてきてくれた海、だよね」 「正解。ほら、行こう」 そう言って差し出された手を、少し戸惑いながらも掴む。 あたしの手を握り、木々の間をすり抜けるように歩いていく西門さん。 相変わらずの暗闇を、どうしてか器用に歩くんだよね。
暫くすると、眼前に月明かりに照らされた海が現われた。
「・・・・・きれい」 あたしの言葉に、西門さんはふっと笑い、あたしの手を握りなおした。 「あの時も同じこと言ったな」 「だって、本当にきれいなんだもん。あの時は、ちょっと怖かったけど・・・・・」 「ああ、震えてたもんな、お前」 「あ、あれは、寒かったし・・・・・」 「・・・・・あの時、お前はまだバイト付けの毎日だったよな。せっかく司との話もつけたってのにGW中もずっとバイト。あのファミレス・・・・俺が通ってた本当のわけ、知ってるか?」 「え・・・・・エネルギー補給って言ってなかった?」 「ま、間違いじゃねえけどな。お前に、会いに行ってたんだ。お前に会うと元気がでる・・・・・そう言っただろ?あれは俺の本心。お前の顔見て、エネルギー補給してた」 「そ、そうなの?」 恥ずかしくなって顔を赤くするあたしを見て、西門さんが呆れるように苦笑した。 「あのな、俺があんなファミレスに行く理由なんて、お前がいるってこと以外にあるわけねえだろ?類はすぐに気付いたぜ」 「ほんと?」 「ああ。だから、ずっと不機嫌だったろうが。類は、お前のことになるとわかりやすく感情が表に出るやつだから。それを見てるのも面白かったけど・・・・・。だけど、切なかった。お前に会うたび、類と2人でいるところを見るたび、俺は自分の気持ちを再確認させられた。お前のことが好きだって。諦められないって」 「西門さん・・・・・」 「ここに来たのも・・・・・お前と一緒にこの海を見たかったからだ。2人だけの時間が欲しかった。お前の幸せを願ってるのに、お前を類から奪ってやりたいと思ってた。すげえ矛盾してたよ」 くすくすと笑う西門さん。 ほんの少し、切なさの滲む顔で。 「あの日・・・・・車の中で眠っちまったお前に、俺、キスしたんだぜ」 「ええ!?嘘!!」 驚くあたしを見て、にやりと笑う。 「ほんと。お前が悪いんだぜ。俺の隣で眠りこけたりするから。さすがに、あの状況で何もしないでいられるほど俺も紳士じゃなかったよ」
―――あの状況・・・・・。言われてみれば、助手席で堂々と眠っちゃってたあたし。文句なんか言えるはずもない・・・・・。
「すげえ切なかったけど・・・・・。でも、あの日のことも、それからお前と過ごした今までのことも全部、俺にとっては無駄じゃなかったと思ってる。お前が俺の思いをちゃんと受け止めてくれたことで、俺も迷いがなくなった。今は、お前の子が生まれるのがすげえ楽しみだよ。それが俺との子じゃなくても、そんなの関係ないって、心から思える。ずっとお前の傍にいて、ずっとお前を守っていけたらそれでいい。それが、俺の幸せそのものだよ」 「西門さん・・・・・」 言葉に、出来ない。 嬉しくて、切なくて、涙が出てきた。
西門さんの繊細な指が、頬を伝う涙を救う。 目の前の海と、白く光る月だけが、あたしたちを見ていた。
2人だけの時間。 今だけは・・・・・他のものは、何も見えなかった。
西門さんの端正な顔が近づき、唇が重なる。
優しく、ほんのり潮の香りがするキス。
あたしは、この人に守られてたんだ。
いつも、傍にいてくれた。
きっと、これからも・・・・・
もし離れることがあっても、信じられる。
心は、いつもここにあるって・・・・・・。
「・・・・・結婚する前に、連れて来たかったんだ。ここで・・・・・お前と俺の、結婚式、したくて」 その言葉に、あたしは目を丸くする。 「結婚式?」 「そ。ごっこ遊びみたいなもんだけど・・・・・」 そう言って西門さんは楽しそうに笑い、あたしの目を見つめた。 「俺は・・・・・お前のこと生涯愛することを誓うよ」 「西・・・・・門さん・・・・・・」 「泣くな。お前は、いつでも笑ってろ。そうしてくれれば、俺も笑っていられるから」
ぎゅっと抱きしめられて・・・・・
あたしはここにいるひと時、心に誓った。 ―――ずっと、好きだよ・・・・・。
|