***Sweet Angel vol.35***




 *総つくっぽい要素を含みますので、抵抗のある方は読まれないほうが良いと思います。当作品に対するクレームなどは一切受け付けておりませんのでご了承ください。
 -tsukushi-

 「西門さんが来てくれるなんて思わなかった」
 あたしが言うと、ハンドルを握りながら西門さんがちらりとあたしを見た。
「そうか?」
「類が、迎えを寄越すとは言ってたけど・・・・・」
「ちょっと、時間あるか?」
「え?これから?」
「ああ。お前に、一緒に行って欲しいところがあんだ」
「いいけど・・・・・」
 西門さんの言葉に、 あたしは首を傾げた。

 そういえば、西門さんとこうして2人でドライブするのも久しぶりだ。
 ここのところ、結婚式の準備が忙しくてお茶のお稽古もお休みしてたから・・・・・。

 いつも、助手席に座らされる。
 そこは特別な席だと思うから、遠慮したこともあったけれど・・・・・。

 『お前は、特別だからいいんだよ』

 『お前以外の女はこの車の助手席には乗せないって決めてる。だから、そこに乗れ』

 ちょっとえらそうに。
 でもあたしに対する思いが伝わってくる言葉。

 ずっとあたしのためにとっておいてくれると言ったその席は、いつの間にかあたしの安心出来る場所になってた。
 隣には、いつも微かにお香の香りを漂わせた西門さん。
 乱暴な言い方をしても、優しさがちゃんと伝わってくる。
 いつの間にか、あたしにとってかけがえのない存在になってた・・・・・。


 「ここは・・・・・」
 車を降りると、そこは夜の闇が広がっていて。
 微かに聞こえる波の音と、潮の香り。

 「覚えてるか?」
 西門さんの声に、あたしは頷く。
「あの時・・・・・西門さんが連れてきてくれた海、だよね」
「正解。ほら、行こう」
 そう言って差し出された手を、少し戸惑いながらも掴む。
 あたしの手を握り、木々の間をすり抜けるように歩いていく西門さん。
 相変わらずの暗闇を、どうしてか器用に歩くんだよね。

 暫くすると、眼前に月明かりに照らされた海が現われた。

 「・・・・・きれい」
 あたしの言葉に、西門さんはふっと笑い、あたしの手を握りなおした。
「あの時も同じこと言ったな」
「だって、本当にきれいなんだもん。あの時は、ちょっと怖かったけど・・・・・」
「ああ、震えてたもんな、お前」
「あ、あれは、寒かったし・・・・・」
「・・・・・あの時、お前はまだバイト付けの毎日だったよな。せっかく司との話もつけたってのにGW中もずっとバイト。あのファミレス・・・・俺が通ってた本当のわけ、知ってるか?」
「え・・・・・エネルギー補給って言ってなかった?」
「ま、間違いじゃねえけどな。お前に、会いに行ってたんだ。お前に会うと元気がでる・・・・・そう言っただろ?あれは俺の本心。お前の顔見て、エネルギー補給してた」
「そ、そうなの?」
 恥ずかしくなって顔を赤くするあたしを見て、西門さんが呆れるように苦笑した。
「あのな、俺があんなファミレスに行く理由なんて、お前がいるってこと以外にあるわけねえだろ?類はすぐに気付いたぜ」
「ほんと?」
「ああ。だから、ずっと不機嫌だったろうが。類は、お前のことになるとわかりやすく感情が表に出るやつだから。それを見てるのも面白かったけど・・・・・。だけど、切なかった。お前に会うたび、類と2人でいるところを見るたび、俺は自分の気持ちを再確認させられた。お前のことが好きだって。諦められないって」
「西門さん・・・・・」
「ここに来たのも・・・・・お前と一緒にこの海を見たかったからだ。2人だけの時間が欲しかった。お前の幸せを願ってるのに、お前を類から奪ってやりたいと思ってた。すげえ矛盾してたよ」
 くすくすと笑う西門さん。
 ほんの少し、切なさの滲む顔で。
「あの日・・・・・車の中で眠っちまったお前に、俺、キスしたんだぜ」
「ええ!?嘘!!」
 驚くあたしを見て、にやりと笑う。
「ほんと。お前が悪いんだぜ。俺の隣で眠りこけたりするから。さすがに、あの状況で何もしないでいられるほど俺も紳士じゃなかったよ」

 ―――あの状況・・・・・。言われてみれば、助手席で堂々と眠っちゃってたあたし。文句なんか言えるはずもない・・・・・。

 「すげえ切なかったけど・・・・・。でも、あの日のことも、それからお前と過ごした今までのことも全部、俺にとっては無駄じゃなかったと思ってる。お前が俺の思いをちゃんと受け止めてくれたことで、俺も迷いがなくなった。今は、お前の子が生まれるのがすげえ楽しみだよ。それが俺との子じゃなくても、そんなの関係ないって、心から思える。ずっとお前の傍にいて、ずっとお前を守っていけたらそれでいい。それが、俺の幸せそのものだよ」
「西門さん・・・・・」
 言葉に、出来ない。
 嬉しくて、切なくて、涙が出てきた。

 西門さんの繊細な指が、頬を伝う涙を救う。
 
 目の前の海と、白く光る月だけが、あたしたちを見ていた。

 2人だけの時間。
 今だけは・・・・・他のものは、何も見えなかった。

 西門さんの端正な顔が近づき、唇が重なる。

 優しく、ほんのり潮の香りがするキス。

 あたしは、この人に守られてたんだ。

 いつも、傍にいてくれた。

 きっと、これからも・・・・・

 もし離れることがあっても、信じられる。

 心は、いつもここにあるって・・・・・・。

 
 「・・・・・結婚する前に、連れて来たかったんだ。ここで・・・・・お前と俺の、結婚式、したくて」
 その言葉に、あたしは目を丸くする。
「結婚式?」
「そ。ごっこ遊びみたいなもんだけど・・・・・」
 そう言って西門さんは楽しそうに笑い、あたしの目を見つめた。
「俺は・・・・・お前のこと生涯愛することを誓うよ」
「西・・・・・門さん・・・・・・」
「泣くな。お前は、いつでも笑ってろ。そうしてくれれば、俺も笑っていられるから」

 ぎゅっと抱きしめられて・・・・・

 あたしはここにいるひと時、心に誓った。
 
 ―――ずっと、好きだよ・・・・・。









  

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