-tsukushi-
「ただいま」 「つくし、おかえり」 「姉ちゃん、おかえり」 久しぶりに実家に戻ると、3人が揃って出迎えてくれた。
結婚式まで後2週間。
もう入籍はしているからすでに牧野つくしではないけれど、それでもやっぱりここへ帰って来るとほっとする。
「準備は進んでるの?」 母の言葉に、あたしは頷いた。 「うん」 「ずっと家にいなかったから実感ないわねえ。もう花沢つくしなのよねえ」 溜め息をつきながら首を傾げる母。 「なあ、今何ヶ月だっけ?ドレス着れるの?」 進があたしのお腹をじっと見つめて聞く。 「もうすぐ6ヶ月だよ。ドレスはちょっと余裕持たせて作ってもらってるから」 「なあ、父さんは何かやっておかなくていいのか?タキシードは借りられたし靴も買った。他に必要なものってあるかな」 父が不安気な様子で聞く。 「別に、それだけあればいいんじゃない?パパが緊張してどうすんのよ」 呆れて言うと、母がまた呆れたように言った。 「そうなのよ〜、まったく自分が結婚するわけでもないのに1ヶ月も前からそわそわと落ち着かないったら」 「だって、つくしの結婚式だろ?一生に一度の大事な日を台無しにするわけにいかないからね」 「パパ・・・・・」 胸が熱くなる。 「それに、あの花沢家との結婚式でもし何か間違って花沢の名に傷をつけるようなことになったらと思うと・・・・・」 「パパ、心配し過ぎ」 青い顔をしている父に苦笑し、あたしは父の前に座った。 「パパは、あたしの傍にいてくれればいいよ。あたしは、それだけで安心するから。後は見守ってて。ママと、進と一緒に・・・・・ね?」 あたしの言葉に、父は緊張した面持ちながらも、こっくりと頷いた。 「わかった・・・・・」
結婚式が迫り、その準備で本格的に忙しくなってきて。 今日はたまたま時間がとれた。 忙中閑有といったところ。 「たまには実家に帰ってくれば?ゆっくりして来なよ」 そう言ってくれたのは類だ。 あたしもそれに甘え、明日の夜まではここにいることになっていた。 家族4人で過ごすのは本当に久しぶり。
毎日バイトに明け暮れて、生活費をきり詰めていた日々。
苦しかったけど充実してた。 あの日々があったから今のあたしがある。
何不自由のない今の生活に不満はないけれど。 だけど、この家での生活はあたしから切り離すことの出来ないものだ。
「道明寺さんも来るの?」 進の問いに頷く。 「うん、当日には間に合うって」 「大丈夫なの?一応婚約までした仲でしょう?マスコミも騒ぐんじゃない?」 心配そうに聞く母。 「マスコミ関係については何とかするから心配ないって。あのF4だからね、いろいろ言われることは覚悟してる。でももう逃げてる場合じゃないし。何があっても、あたしは類についていくだけだから。心配しないで?」 「そう言われたって、やっぱり心配よ。花沢さんがついててくれるんだから、とは思うけどね。これからは・・・・・私たちが助けてあげられることなんてないんだと思ったら、余計に心配だわ」 「ママ・・・・・。ママたちが、元気に暮らしていてくれることが、あたしにとっては何より心の支えになってるんだよ。家族の存在って、あたしにとってはすごく大事なんだから。それに、花沢の家にだっていつでも遊びに来ていいんだから。遠慮しないで来てよ」 あたしの言葉に、3人は顔を見合わせ安心したように微笑んだ。 「そうよね。家族だものね・・・・・」 「じゃあ、赤ちゃんが生まれたらみんなで遊びに行こうよ」 進の言葉に、みんなが頷く。 「そうだな。楽しみだなあ、初孫かあ」 さっきまでの不安げな様子とは打って変わってうきうきと楽しげな父に、苦笑するあたし。
どんな苦難も乗り越えてきたあたしたち家族だから。 きっとこれからどんなことがあってもその絆だけは変わらない。
きっと、ずっといつまでも・・・・・・。
家族で過ごす時間は穏やかに過ぎ、珍しく何のトラブルもなく終えることが出来たのだった。
「じゃ、結婚式の準備がんばってね」 アパートの下まで見送りにでてくれた3人に、あたしは笑って頷く。 「うん。当日、遅刻はしなでね」 「ああ、大丈夫」 父の笑顔にあたしは安心して、その場を後にしようとして・・・・・
「つくし!」 突然後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、そこには車に乗った西門さんの姿が。 「西門さん!」 「迎えに来た。乗れよ」 そう言って、母が後ろで見惚れるような笑顔を向けたのだった・・・・・。
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