-rui-
「・・・・・道明寺は、来れるのかな」 帰りの車の中で。 つくしが、窓の外に目をやりながら言うのを聞いて、俺はそっとつくしの肩を抱いた。 「・・・・・絶対来るって、言ってただろ?大丈夫。あいつは、俺たちや・・・・つくしとの約束は破らないよ」 「うん・・・・・そうだね」 そう言いながらも、どことなく元気がない気がする。 「・・・・・つくし。もしかして、今日あきらたちが言ってたこと、気にしてる?」 俺の言葉に、つくしの肩がピクリと震えた。
正直な反応に、俺は息をついた。
今日、あきらたちが俺とつくしがすぐ後ろにきていることに気付かず、話していた内容を気にしてるんだろう。
『司の奴、また縁談断ったって』 『今度はどこの令嬢だよ』 『イタリアの大企業らしいけど、さすがに詳しいことはわからねえよ』 『あいつも・・・・・まだ諦めてねえのかな』 『だろ?F4の中じゃ一番執念深いのは司だぜ。つくしが結婚したって、あいつは諦めねえよ』
「結婚式に来て、何かするとでも?あいつはそんなことしないよ。ちゃんと俺たちのことは認めてくれてるんだ。ただ、あきらたちと同じようにつくしのことを思ってるってだけ」 俺の言葉に、つくしは頷き、少し微笑んで見せた。 「わかってる。そんなこと思ってないよ。あいつが、結婚式をだめにするようなこと、するはずない。それはわかってるんだけど・・・・・ただ、いいのかなって」 「何が?」 「あたしが・・・・・幸せになっても、いいのかなって・・・・・」
俯きがちに囁かれた言葉。 俺は無言でつくしの肩を引き寄せるとつくしの顎に手を添え、つくしが抵抗する間もなくその唇を奪った。
驚いて目を見開くつくし。 それでも俺はその唇を離さず、深い口付けを交わした。
暫くして、長い口付けから開放されたつくしの瞳は潤んでいて・・・・・ それでも、悔しいのかキッと俺を睨みつけるつくし。 「もう・・・・・」 「つくしが、幸せにならないと」 「え・・・・・?」 「あいつらだって、言ってただろ?幸せになれって。つくしにはその権利があるって。もちろん、つくしが俺のものになって悔しくないわけない。だけど、あいつらが望んでるのはつくしの幸せだよ。だから・・・・・ちゃんと、幸せになろう」 つくしの瞳から、ポロリと涙が零れた。 その涙を、指先で掬う。
つくしの不安も、幸せも全部共有したい。 少しでもつくしの気が楽になれば良いと思う。 何でも1人で背負い込んでしまうつくしだから・・・・・。
「ありがと、類・・・・・。あたしは、大丈夫。幸せだよ。類が、こうして傍にいてくれるし、みんなも・・・・。だからね、大丈夫」 つくしが、ふわりと微笑む。 「たぶん、贅沢になっちゃってるんだね。あんまり幸せだから、失うのが怖いのかな・・・・・。道明寺の話を聞いて・・・・・。あいつは、幸せなのかなって、思ったの。あたしが・・・・・あいつの幸せ奪っちゃってるのかなって・・・・・」 「つくしの幸せが、司の幸せでもあるんだよ。それとも・・・・・司と別れて、俺を選んだことを後悔してるの?」 意地悪な質問だ、と自分でも思うけど。 あえて、つくしにぶつけてみる。 つくしは慌てたように首を横に振った。 「そんなこと、ないよ!後悔なんかしてない。あのまま道明寺と付き合ってたら・・・・・・あたしも道明寺もきっと、後悔することになってた気がする、から・・・・・」 「ん。俺もそう思う。だから、きっと司もわかってるよ。そんなふうに、つくしが気にすることも、たぶんわかってる。あいつが縁談を断るのは、まだそういう時期じゃないと思ってるからだと思うよ。つくしのせいじゃない」 俺の言葉につくしは微笑み、俺の肩に寄りかかった。 「・・・・・・結婚式には、久しぶりにF4が揃うね」 「うん」 「楽しみ・・・・・だね」 「うん」 それから俺たちは自然に見つめあい、口付けを交わした・・・・・。
帰宅後、ドレスを採寸を終えてから遅い夕食をとっているとき、司から連絡が入った。
『連絡遅くなって悪かったな。スケジュール、調整できたぜ。式には何とか間に合いそうだ』 司の声に、俺もほっとした。 「そう、良かった。その後は?すぐまた日本を離れるの?」 『いや、少し時間がある。発つのは翌日の朝だから、みんなで飲む時間くらいはあるぜ』 久しぶりに聞く上機嫌な司の声。 俺の様子を見て、つくしもほっとした表情を浮かべていた。 「じゃあ、楽しみにしてるよ」 『ああ、また連絡する。牧野にも、よろしく伝えてくれ。あんまり太るなってな』 「ん。じゃあ」 電話を切ると、つくしが食事の手を休め、身を乗り出した。 「道明寺、大丈夫だって?」 「うん。翌日の朝までは時間取れるから、一緒に飲もうって」 「ほんと?良かった」 嬉しそうなつくしの様子を見て・・・・・ 俺は司の言葉を思い出し、ぷっと吹き出した。 「な、何?」 「司が、あんまり太るなってさ」 「ひっどい!ちゃんと気をつけてるもん!ね?大丈夫でしょ?」 同意を求めるつくしに、笑って見せる。 「うん。きっと、つくしのウェディングドレス姿見たら、びっくりするよ。あいつの顔が、目に浮かぶ」 「あいつの顔?」 「うん」 きっと、悔しがると思うよ。 つくしを、手放したこと・・・・・・
でも俺は、それでもつくしを離したりしないけどね・・・・・。
|