***Sweet Angel vol.33***




 -rui-

 「・・・・・道明寺は、来れるのかな」
 帰りの車の中で。
 つくしが、窓の外に目をやりながら言うのを聞いて、俺はそっとつくしの肩を抱いた。
「・・・・・絶対来るって、言ってただろ?大丈夫。あいつは、俺たちや・・・・つくしとの約束は破らないよ」
「うん・・・・・そうだね」
 そう言いながらも、どことなく元気がない気がする。
「・・・・・つくし。もしかして、今日あきらたちが言ってたこと、気にしてる?」
 俺の言葉に、つくしの肩がピクリと震えた。

 正直な反応に、俺は息をついた。

 今日、あきらたちが俺とつくしがすぐ後ろにきていることに気付かず、話していた内容を気にしてるんだろう。

 『司の奴、また縁談断ったって』
 『今度はどこの令嬢だよ』
 『イタリアの大企業らしいけど、さすがに詳しいことはわからねえよ』
 『あいつも・・・・・まだ諦めてねえのかな』
 『だろ?F4の中じゃ一番執念深いのは司だぜ。つくしが結婚したって、あいつは諦めねえよ』


 「結婚式に来て、何かするとでも?あいつはそんなことしないよ。ちゃんと俺たちのことは認めてくれてるんだ。ただ、あきらたちと同じようにつくしのことを思ってるってだけ」
 俺の言葉に、つくしは頷き、少し微笑んで見せた。
「わかってる。そんなこと思ってないよ。あいつが、結婚式をだめにするようなこと、するはずない。それはわかってるんだけど・・・・・ただ、いいのかなって」
「何が?」
「あたしが・・・・・幸せになっても、いいのかなって・・・・・」

 俯きがちに囁かれた言葉。
 俺は無言でつくしの肩を引き寄せるとつくしの顎に手を添え、つくしが抵抗する間もなくその唇を奪った。

 驚いて目を見開くつくし。
 それでも俺はその唇を離さず、深い口付けを交わした。

 暫くして、長い口付けから開放されたつくしの瞳は潤んでいて・・・・・
 それでも、悔しいのかキッと俺を睨みつけるつくし。
「もう・・・・・」
「つくしが、幸せにならないと」
「え・・・・・?」
「あいつらだって、言ってただろ?幸せになれって。つくしにはその権利があるって。もちろん、つくしが俺のものになって悔しくないわけない。だけど、あいつらが望んでるのはつくしの幸せだよ。だから・・・・・ちゃんと、幸せになろう」
 つくしの瞳から、ポロリと涙が零れた。
 その涙を、指先で掬う。

 つくしの不安も、幸せも全部共有したい。
 少しでもつくしの気が楽になれば良いと思う。
 何でも1人で背負い込んでしまうつくしだから・・・・・。

 「ありがと、類・・・・・。あたしは、大丈夫。幸せだよ。類が、こうして傍にいてくれるし、みんなも・・・・。だからね、大丈夫」
 つくしが、ふわりと微笑む。
「たぶん、贅沢になっちゃってるんだね。あんまり幸せだから、失うのが怖いのかな・・・・・。道明寺の話を聞いて・・・・・。あいつは、幸せなのかなって、思ったの。あたしが・・・・・あいつの幸せ奪っちゃってるのかなって・・・・・」
「つくしの幸せが、司の幸せでもあるんだよ。それとも・・・・・司と別れて、俺を選んだことを後悔してるの?」
 意地悪な質問だ、と自分でも思うけど。
 あえて、つくしにぶつけてみる。
 つくしは慌てたように首を横に振った。
「そんなこと、ないよ!後悔なんかしてない。あのまま道明寺と付き合ってたら・・・・・・あたしも道明寺もきっと、後悔することになってた気がする、から・・・・・」
「ん。俺もそう思う。だから、きっと司もわかってるよ。そんなふうに、つくしが気にすることも、たぶんわかってる。あいつが縁談を断るのは、まだそういう時期じゃないと思ってるからだと思うよ。つくしのせいじゃない」
 俺の言葉につくしは微笑み、俺の肩に寄りかかった。
「・・・・・・結婚式には、久しぶりにF4が揃うね」
「うん」
「楽しみ・・・・・だね」
「うん」
 それから俺たちは自然に見つめあい、口付けを交わした・・・・・。


 帰宅後、ドレスを採寸を終えてから遅い夕食をとっているとき、司から連絡が入った。

 『連絡遅くなって悪かったな。スケジュール、調整できたぜ。式には何とか間に合いそうだ』
 司の声に、俺もほっとした。
「そう、良かった。その後は?すぐまた日本を離れるの?」
『いや、少し時間がある。発つのは翌日の朝だから、みんなで飲む時間くらいはあるぜ』
 久しぶりに聞く上機嫌な司の声。
 俺の様子を見て、つくしもほっとした表情を浮かべていた。
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
『ああ、また連絡する。牧野にも、よろしく伝えてくれ。あんまり太るなってな』
「ん。じゃあ」
 電話を切ると、つくしが食事の手を休め、身を乗り出した。
「道明寺、大丈夫だって?」
「うん。翌日の朝までは時間取れるから、一緒に飲もうって」
「ほんと?良かった」
 嬉しそうなつくしの様子を見て・・・・・
 俺は司の言葉を思い出し、ぷっと吹き出した。
「な、何?」
「司が、あんまり太るなってさ」
「ひっどい!ちゃんと気をつけてるもん!ね?大丈夫でしょ?」
 同意を求めるつくしに、笑って見せる。
「うん。きっと、つくしのウェディングドレス姿見たら、びっくりするよ。あいつの顔が、目に浮かぶ」
「あいつの顔?」
「うん」
 
 きっと、悔しがると思うよ。
 つくしを、手放したこと・・・・・・

 でも俺は、それでもつくしを離したりしないけどね・・・・・。









  

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