-tsukushi-
「やっぱ、ウェディングドレス作るの待ってもらって正解だったな」 大学のカフェテラスで久しぶりに4人集まった時に、美作さんがぽつりと言った。 その言葉にあたしはドキッとしてお腹に手をやった。 「え!そんなにわかる?」 隣にいた類が、あたしのお腹に視線を移す。 「いや、まだそんなに目立たないよ」 その言葉に、西門さんも頷く。 「だよな。今5ヶ月だっけ?」 それにあたしが答える前に、美作さんがまた口を開く。 「もうすぐ6ヶ月だろ?大体それくらいから急に目立って来たりするもんなんだぜ。ドレス作る時には気をつけてもらわないと」 「詳しいね、美作さん」 あたしが言うと、美作さんは苦笑して言った。 「お袋が妊娠してた頃覚えてるからな。妹たちは双子だったから大変そうだったぜ。こればっかりは家政婦に代わってもらうわけにいかないからな」 その言葉になるほどと全員が頷いたのだった・・・・・。
5月も後半に入り、いよいよ結婚式まで1ヶ月を切っていた。 あたしのほうも順調で、花沢家の調理士さんの努力のたまもので、今のところ体型もそれほど変わることなく維持出来ていた。 そして例の計画も、水面下で順調に進んでいるようだった・・・・・。
類も仕事が忙しく、なかなか大学には顔を出せないので、今日のようにF3が揃うのも久しぶりだった。
「もう男か女かわかるのか?」 西門さんの言葉に、あたしは首を傾げた。 「6ヶ月くらいになったらわかるって言われたけど・・・・・。でも、生まれるまでわからなくてもいいかなって」 「けど、どっちかわかったほうが準備もしやすいんじゃね?服とか、名前考えたりとかさ」 「それもそうなんだけどね。名前はいろいろ考えるの楽しいし、服も、どっちでも着れるものでいいかなあって思うの」 「ま、服とかは生まれてからでも買えるしな。俺たちが手伝うよ。それより、お前の服だろ。そろそろおなかを締め付けるような服は着るなよ?マタニティまでいかなくても、もう少しゆったりした服のほうがいい」 美作さんが心配そうにいうのに、あたしは思わず噴出した。 「なんか、美作さんお母さんみたいだよ」 「言ってろよ。心配なんだよ、お前は自分のこととなると無頓着なところあるから。お前がしっかりしてないと、お腹の子だって元気に生まれて来れないぜ」 「うん。わかってる。ありがと」 妊娠してからと言うもの、何かと世話を焼いてくれる人たち。 類はもちろんだけど、美作さんや西門さんもいつもあたしを気遣ってくれる。 過保護になりすぎはよくないからってあたしが言っても、よっぽど心配なのか、ちょっとでも急いだりすると『ゆっくり歩け!』なんて怒られてしまう。
きっと赤ちゃんが生まれたら、2人ともすごくかわいがってくれるんだろうな、なんてちょっと未来のことを想像して楽しくなる。
「で?新婚旅行はどうすんだ?」 西門さんがコーヒーに口を付けながら、類に聞く。 「つくしの体のこともあるし、海外に行くのは子供が少し大きくなるまで無理かなって。夏休みに入ったら、どこか静かで、涼しいところへ行こうかと思ってる」 「まだ決めてねえのか?暢気だなあ。夏休みなんでどこもいっぱいになっちまうぜ」 西門さんの言葉に、類は肩を竦めた。 「だからだよ。あまり人が多いところには行きたくない。できるだけ人のいないような所がいい」 類の答えに、西門さんは溜息をついた。 「お前らしいな。けど、病院にはいつでも連絡取れるようにしとけよ?旅先でつくしに何かあったらことだからな」 「当然、わかってるよ。だからこそ、あんまり遠くには行きたくないんだ」 旅先で、もしあたしの具合が悪くなったりしたら、当然近くの病院に行くことになる。 でも、できれば信頼している先生に・・・・・白井先生に診てほしいから。 その点についてはあたしと類は同意見で、だから旅行と言っても遠出はしないつもりでいた。
「で、今日はドレスの採寸だろ?少し余裕持って作ってもらえよ。詰めるくらいなら当日でも何とかなるだろうけど、きつかった場合は面倒だからな」 「ん、そうする」 あたしが頷くと、美作さんは安心したように微笑み、席を立った。 「じゃ、おれはもう行くわ」 「え、帰っちゃうの?」 あたしが聞くと、美作さんがあたしを見て言った。 「ちょい、仕事があんだ。今週はちょっと忙しくってな。その代わり6月はできるだけ時間を空けるようにしとくから、何か手伝うことがあったら言ってくれよ。じゃあな」 そう言ってさっさと行ってしまう美作さんの背中を見送って・・・・・ なんとなく寂しい気持ちになってしまっていると、類が突然あたしの肩を引き寄せ、チュッと触れるだけのキスをした。 「!?」 「おい、類」 西門さんが、横目で類を睨む。 「寂しそうな顔しちゃって」 「そ、そんなこと」 「してたよ。・・・・・俺がいないときも、そうやって寂しがってくれてるの?」 拗ねたような目で、あたしを軽く睨む類。 なんだかその様子がちょっとだけかわいく思えて、頬が緩む。 「何だよ、笑って」 「だって・・・・・やきもち、妬いてるんだと思って」 あたしの言葉に、類はむっとしたように顔を顰めた。 「そうだよ。悪い?つくしは、俺の奥さんでしょ?」 「ん」 あたしが微笑むのを見て、類は困ったように溜息をついた。 でも、一瞬後にはにやりと笑って 「・・・・・うちに帰ったら、覚えとけよ」 そう言って企んだ顔をするから、今度はこっちが焦ってしまう。 「え・・・・・」 顔を近づけてくる類から逃げるように後ずさっていると、西門さんの咳払いが割って入る。 「・・・・・お前ら、俺がいんの忘れんな。言っとくけど、妬いてんのは類だけじゃねえぞ。今度2人きりになったときを覚えてろよ?つくしちゃん」 そう言ってこちらもまた顔を近づけてくるから・・・・・ 類がむっとしてまたあたしを抱き寄せる。
2人に挟まれて、あたしの背中には冷や汗が伝い・・・・・・
一瞬の後、2人の唇があたしの頬に触れ、ただでさえ注目を集めていたあたしたちに注がれる視線は、さらに熱気を増したのだった・・・・・・。
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