***Sweet Angel vol.32***




 -tsukushi-

 「やっぱ、ウェディングドレス作るの待ってもらって正解だったな」
 大学のカフェテラスで久しぶりに4人集まった時に、美作さんがぽつりと言った。
 その言葉にあたしはドキッとしてお腹に手をやった。
「え!そんなにわかる?」
 隣にいた類が、あたしのお腹に視線を移す。
「いや、まだそんなに目立たないよ」
 その言葉に、西門さんも頷く。
「だよな。今5ヶ月だっけ?」
 それにあたしが答える前に、美作さんがまた口を開く。
「もうすぐ6ヶ月だろ?大体それくらいから急に目立って来たりするもんなんだぜ。ドレス作る時には気をつけてもらわないと」
「詳しいね、美作さん」
 あたしが言うと、美作さんは苦笑して言った。
「お袋が妊娠してた頃覚えてるからな。妹たちは双子だったから大変そうだったぜ。こればっかりは家政婦に代わってもらうわけにいかないからな」
 その言葉になるほどと全員が頷いたのだった・・・・・。


 5月も後半に入り、いよいよ結婚式まで1ヶ月を切っていた。
 あたしのほうも順調で、花沢家の調理士さんの努力のたまもので、今のところ体型もそれほど変わることなく維持出来ていた。
 そして例の計画も、水面下で順調に進んでいるようだった・・・・・。

 類も仕事が忙しく、なかなか大学には顔を出せないので、今日のようにF3が揃うのも久しぶりだった。

 「もう男か女かわかるのか?」
 西門さんの言葉に、あたしは首を傾げた。
「6ヶ月くらいになったらわかるって言われたけど・・・・・。でも、生まれるまでわからなくてもいいかなって」
「けど、どっちかわかったほうが準備もしやすいんじゃね?服とか、名前考えたりとかさ」
「それもそうなんだけどね。名前はいろいろ考えるの楽しいし、服も、どっちでも着れるものでいいかなあって思うの」
「ま、服とかは生まれてからでも買えるしな。俺たちが手伝うよ。それより、お前の服だろ。そろそろおなかを締め付けるような服は着るなよ?マタニティまでいかなくても、もう少しゆったりした服のほうがいい」
 美作さんが心配そうにいうのに、あたしは思わず噴出した。
「なんか、美作さんお母さんみたいだよ」
「言ってろよ。心配なんだよ、お前は自分のこととなると無頓着なところあるから。お前がしっかりしてないと、お腹の子だって元気に生まれて来れないぜ」
「うん。わかってる。ありがと」
 妊娠してからと言うもの、何かと世話を焼いてくれる人たち。
 類はもちろんだけど、美作さんや西門さんもいつもあたしを気遣ってくれる。
 過保護になりすぎはよくないからってあたしが言っても、よっぽど心配なのか、ちょっとでも急いだりすると『ゆっくり歩け!』なんて怒られてしまう。

 きっと赤ちゃんが生まれたら、2人ともすごくかわいがってくれるんだろうな、なんてちょっと未来のことを想像して楽しくなる。

 「で?新婚旅行はどうすんだ?」
 西門さんがコーヒーに口を付けながら、類に聞く。
「つくしの体のこともあるし、海外に行くのは子供が少し大きくなるまで無理かなって。夏休みに入ったら、どこか静かで、涼しいところへ行こうかと思ってる」
「まだ決めてねえのか?暢気だなあ。夏休みなんでどこもいっぱいになっちまうぜ」
 西門さんの言葉に、類は肩を竦めた。
「だからだよ。あまり人が多いところには行きたくない。できるだけ人のいないような所がいい」
 類の答えに、西門さんは溜息をついた。
「お前らしいな。けど、病院にはいつでも連絡取れるようにしとけよ?旅先でつくしに何かあったらことだからな」
「当然、わかってるよ。だからこそ、あんまり遠くには行きたくないんだ」
 
 旅先で、もしあたしの具合が悪くなったりしたら、当然近くの病院に行くことになる。
 でも、できれば信頼している先生に・・・・・白井先生に診てほしいから。
 その点についてはあたしと類は同意見で、だから旅行と言っても遠出はしないつもりでいた。

 「で、今日はドレスの採寸だろ?少し余裕持って作ってもらえよ。詰めるくらいなら当日でも何とかなるだろうけど、きつかった場合は面倒だからな」
「ん、そうする」
 あたしが頷くと、美作さんは安心したように微笑み、席を立った。
「じゃ、おれはもう行くわ」
「え、帰っちゃうの?」
 あたしが聞くと、美作さんがあたしを見て言った。
「ちょい、仕事があんだ。今週はちょっと忙しくってな。その代わり6月はできるだけ時間を空けるようにしとくから、何か手伝うことがあったら言ってくれよ。じゃあな」
 そう言ってさっさと行ってしまう美作さんの背中を見送って・・・・・
 なんとなく寂しい気持ちになってしまっていると、類が突然あたしの肩を引き寄せ、チュッと触れるだけのキスをした。
「!?」
「おい、類」
 西門さんが、横目で類を睨む。
「寂しそうな顔しちゃって」
「そ、そんなこと」
「してたよ。・・・・・俺がいないときも、そうやって寂しがってくれてるの?」
 拗ねたような目で、あたしを軽く睨む類。
 なんだかその様子がちょっとだけかわいく思えて、頬が緩む。
「何だよ、笑って」
「だって・・・・・やきもち、妬いてるんだと思って」
 あたしの言葉に、類はむっとしたように顔を顰めた。
「そうだよ。悪い?つくしは、俺の奥さんでしょ?」
「ん」
 あたしが微笑むのを見て、類は困ったように溜息をついた。 でも、一瞬後にはにやりと笑って
「・・・・・うちに帰ったら、覚えとけよ」
 そう言って企んだ顔をするから、今度はこっちが焦ってしまう。
「え・・・・・」
 顔を近づけてくる類から逃げるように後ずさっていると、西門さんの咳払いが割って入る。
「・・・・・お前ら、俺がいんの忘れんな。言っとくけど、妬いてんのは類だけじゃねえぞ。今度2人きりになったときを覚えてろよ?つくしちゃん」
 そう言ってこちらもまた顔を近づけてくるから・・・・・
 類がむっとしてまたあたしを抱き寄せる。

 2人に挟まれて、あたしの背中には冷や汗が伝い・・・・・・

 一瞬の後、2人の唇があたしの頬に触れ、ただでさえ注目を集めていたあたしたちに注がれる視線は、さらに熱気を増したのだった・・・・・・。









  

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