-tsukushi-
「僕たちの結婚式と、合同でやってはどうかと思うんです」 吉野教授と白井先生を花沢邸に招いて。
類は、2人を前にしてそう切り出した。 「合同?」 「ええ。お2組の式は・・・・・まだ決まってないんですよね?」 類の問いに、2人は顔を見合わせた。 「ええ。内密に進めようと思うと、なかなか・・・・・。向こうは妊婦さんですし、あまり遅くなってはと思ってたんですけど・・・・・」 白井先生が心配そうに言う。 「僕たちの式は、6月に行う予定です。会場はかなりの広さがありますし、昨日担当者に相談したところ、何とかなるんじゃないかという結論まで持っていくことが出来ました」 淡々と話す類に、教授は戸惑いを隠せないように、口を開いた。 「し、しかし、そちらのご両親や親族の方たちは納得されてるんですか?花沢といえば、世界に知られる大企業だ。その花沢家と合同挙式だなんて・・・・・」 教授の言葉に、あたしと類は顔を見合わせた。 「だからこそ、隠れ蓑になると思うんです。それに、その披露宴にはマスコミも来る予定です。お2組の結婚をそこで大々的に発表してしまえば、もう後で取り消すことは難しいでしょう。そしてお2組の結婚を花沢で全面的にバックアップすると伝えれば、親族の方たちも納得せざるを得ない。ちょっと強引な手ですが、2組だけで進められるよりは確実だと思います」 穏やかに、いつもと変わらぬ表情と口調で話し続ける類。 教授と白井先生は、半ば呆気に取られて見ている。 「こちらの親族については、心配いりません。もう両親には了解を取ってますし、その程度のことでしたら僕の判断でやっていいとのことでしたので」 にっこりと微笑む類に、完全に飲まれている状態の2人。
途中、会社からの電話で類が退席すると、2人は同時に溜息をついたのだった。
「なんだか・・・・・とても簡単に説明されたけど、すごく大変なことをしているような気がするわ」 白井先生の言葉に、教授も頷く。 「さすがに、世界の花沢ともなると僕たちの理解の域を超えてるよ。もちろん僕たちにとっては願ってもない話だけど・・・・・本当に大丈夫なのかい?」 「はい。軽はずみな約束はしない人です。もちろん決行のその日まで内密に進めますけど・・・・・どうか、あたしたちを信じて任せてください。美幸さんにも、無事に赤ちゃんを産んで欲しいと思ってますし・・・・・幸せに、なって欲しいんです」 「つくしさん・・・・・・ありがとう、本当に。なんと言ったらいいのか・・・・・」 「白井先生にも、吉野教授にもお世話になってますから。お2人のお力になれれば嬉しいです」 そう言って笑うと、白井先生と教授も、漸く笑顔を見せてくれた。 「ありがとう、牧野さん。いや・・・・・花沢さんと呼んだほうがいいのかな」 「まだ、牧野でいいですよ」 そう言ったのは、電話を終えて戻ってきた類だった。 「僕たちはまだ学生ですし、在学中は勉強中心になりますから」 類があたしを見て微笑むのに、あたしも笑みを返す。 「つくしさんは、いつから休学するの?最近貧血の方は大丈夫かしら」 医師らしい白井先生の言葉に、あたしは頷いた。 「最近は、食事にも気をつけるようにしてるので、大丈夫です。休学は・・・・・本当はギリギリまで通いたかったんですけど、夏休みに入ってしまうので、それにあわせて休学しようかと」 「ああ、そうね。予定日が10月だから、夏休み開けてすぐになっちゃうものね。ちょうど夏休みは安定期に入るし、楽しんでね」 優しく微笑む白井先生はとてもきれいで・・・・・・ それを横で優しく見守っている吉野教授もとても幸せそうだった。
―――うまくいくといいな・・・・・
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