-akira-
「じゃ、行って来るね」 そう言って笑うと、つくしは吉野教授の待つ研究室へと消えた。
俺は行ったとおり、その研究室の前で壁にもたれてつくしが出てくるのを待つ。
学科が違うので、俺は吉野教授という人物のことをほとんど知らない。 なので、今回の件もつくしの言ってる話が本当なのかどうか・・・・・ つくしを疑っているわけじゃなく、つくしにそこまで自分のことを話す教授のことをそのまま信じていいものかどうか、俺はまだ判断しかねていた・・・・・。
「あきら!」 呼ばれて振り返ると、総二郎がこちらへ向かって歩いてくるところだった。 「よぉ、今来たのか?」 「ああ、桜子に聞いて・・・・・。あいつ、怪しんでたぜ」 総二郎の言葉に、俺は苦笑した。 「ああ、知ってる。けどあいつにはまだ話すわけにいかねえだろ。仕方ねえよ」 「まあな。で、つくしは中か?」 「ああ、さっき入って行ったばっかりだからまだ出てこねえと思うぜ」 「そっか・・・・・」 そう言って総二郎は、俺の隣で壁にもたれた。 暫く無言で、研究室の扉を見つめる。
「・・・・・なあ、どう思う?」 総二郎が、その扉を見つめたまま口を開いた。 「何が?」 「吉野教授のことだよ。つくしは信用してるみたいだし、あの白井先生の婚約者だ。悪い人じゃないとは思うけど・・・・・」 「ああ。けど、つくしの信頼してる人間だ。俺たちは、つくしを信じるしかねえよ。もちろん、つくしが裏切られたりしたら・・・・そんときゃ容赦ねえけどな」 「ああ」 俺たちの役目は、つくしを守ること。 あいつを傷つける奴は、許さない・・・・・。
暫くすると、研究室からつくしが出てきた。 「あれ、西門さん来てたの?」 「ああ。で・・・・・教授は何だって?」 総二郎の言葉に、つくしはちらりと後ろを振り返り、それから小声で言った。 「・・・・・後で、話す。もう午後の講義始まるでしょ?」 その言葉に俺たちはちらりと顔を見合わせ――― 「・・・・・分かった。後でな」 そう言って俺は頷き、総二郎も同じように頷いたのだった・・・・・。
「会ってほしいって言われたの、見合いの相手に」 講義が全て終わり、3人で外のカフェに行く。 「って・・・・・例の、学部長の孫娘?」 総二郎の言葉に、つくしは頷く。 「彼女に、あたしのことを話したんだって。妊娠してることも・・・・。そうしたら、ぜひ会ってみたいって言ってたんだって」 「へえ。で?会うのか?」 俺の言葉に、つくしは頷いた。 「うん。断る理由もないし・・・・・。 それに、あたしも会ってみたいと思ってたし」 「いつ?」 「明日」 「明日!そりゃまた急だな」 総二郎が目を丸くする。 「それ・・・・・どこで会うんだ?俺たちが一緒にいるとまずいよな」 俺の言葉に、つくしは首を傾げる。 「うーん・・・・・誰にも話してないとは言ってるけど、でも、美作さんたちなら・・・・・あたしが信用してる人だって言えば、わかってくれるかもしれない。でも、明日は1人で行くよ。場所はホテルで会うことになってるの。教授も来ないし、2人だけで会うことになってるから、あたしが他の人を連れて行ったら向こうも警戒するでしょ」 牧野の話に、俺たちは顔を見合わせた。 「まあ、相手が女なら危ないこともないだろうけど・・・・・。気をつけろよ?何かあったらすぐに連絡しろ」 心配して俺が言うのに、つくしはちょっと笑った。 「大丈夫だよ。向こうも妊婦さんだよ。危ないことなんか何もないよ」 「だといいけどな」 そう言って、総二郎も心配そうにつくしを見つめた。
トラブルを引き寄せる女。 だけど本人にその自覚がないから、困るんだ。 俺たちがちゃんと守ってやらなきゃ・・・・・ そんな気にさせられる・・・・・。
「どうする?」 つくしを花沢邸まで送り届けた後、車の中で総二郎と話した。 「明日か?もちろん行くだろ」 総二郎が当たり前のように言う。 「ああ。けど、気付かれたら・・・・・」 「気付かれないようにするさ。それに・・・・・教授の話が全部本当だと信じるなら、学部長の孫娘のこともちゃんと見ておいた方がいいだろ。教授の縁談の話は、本人たち以外のいろんな思惑が絡み合ってる。用心するに越したことはない」 総二郎の言葉に、俺も頷いた。
吉野教授の縁談。 それによって損をするもの、得をするものも出てくる。 でもそんなことは俺たちにとって重要じゃない。 重要なのは、それに巻き込まれて牧野が傷つかないようにすること。 牧野を守ること・・・・・・ 俺たちの役目は、それだけだ・・・・・
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