-tsukushi-
西門さんと美作さんが帰り、あたしと類はリビングへ向かった。 「貧血起こしたこと、雪乃さんには伝えてあるから」 「あ、うん・・・・・。ごめんね、心配かけて」 あたしが言うと、類はちょっとあたしを見て微笑んだ。 「ほんと、目が離せなくて困る」 「ご、ごめん・・・・・」 「良いよ、いつものことでしょ。もっといろいろ話して欲しいけど・・・・俺も忙しくてなかなか時間もないのが現実だし。だから、あきらや総二郎に先に話してることがあってもやきもちも妬けない」 ちょっと寂しそうに。でもなんとなく楽しそうに話す類。 なんだか不思議な感じだった。 「教授のこと・・・・・こっちでもいい方法考えてみるよ。俺たちの式のこともあるし・・・・・もしかしたらうまくいくかもしれない」 「ほんと?」 「ん。だから、つくしはあまり深く考えず、自分の体のことちゃんと大事にして」 そう言って微笑んでくれる類に、あたしはほっと胸をなでおろした。 「うん・・・・・。ありがとう、類」
いつもちゃんと真剣に向き合ってくれる類だから、一緒にいられる。 だから、この人と一緒になりたいと思ったんだ・・・・・。
「類・・・・・」 「ん?」 「ごめん・・・・・。これからはちゃんと、何でも話すね」 あたしの言葉に、黙って微笑んでくれる類。 自然に繋がれた手から、類の優しさが伝ってくるようだった・・・・・。
「うまくいくかもしれないって?類がそう言ったのか?」 翌日、大学のカフェテリアで。 類はまた仕事で午後から、西門さんも午後の講義からの出席だった。 あたしは美作さんと2人、ランチをとっていた。 「うん。もう少し考えがまとまってから話すって」 「へえ・・・・。あいつ、ああ見えて策士なところあるからな。類がそう言うんならうまくいくかもな」 「策士?そうかなあ」 「ああ。ぼんやりしてるように見えて、結構考えてるっていうか・・・・・。特に、お前が絡むときはな」 美作さんがにやりと笑ってこちらを見るのに、思わず赤くなる。 「な、なによ、それ」 「あいつは、もともと他人には興味のない奴だったから。それがつくしと関わるようになってから変わった。つくしのことを考えるようになって・・・・・自然とつくしと関わる人間のことも考えるようになった。つくしと関わる前のあいつとは、別人だもんな」 楽しそうにくすくすと笑う美作さん。 「他人に興味ない・・・・・って、確かに類はそれが分かりやすかったけど、美作さんも西門さんも・・・・・それに道明寺も、そうだった気がするけど」 なんとなく、昔を思い出す。 高校生だったころのF4。 4人でつるんでるように見えて、実は個人主義だった4人。 神経を尖らせて、喧嘩―――というよりは一方的に暴力を振るってた道明寺。 他人に無関心で、干渉されることを拒否していた類。 複数の女性と遊びながらも、誰にも心を開くことなくポーカーフェイスに徹していた西門さん。 10以上も年上の女性としか付き合わず、仲間のことや家族のことを気遣いながらも、線を引かれればそこから先には決して踏み込もうとしなかった美作さん。
4人とも・・・・・あのころとは何かが変わった。
「かもな。だとすれば、それを変えたのは・・・・・つくし、お前だよ」 「お、大袈裟なんだから・・・・・。あたしだって・・・・・4人のおかげで、ずいぶん世界が広がったし、自分でも考え方が変わったかもって思うときあるよ」 「まあ、お前の場合は司が強烈だったしな。いい意味で正反対だった類の影響も大きいだろ。俺はそれを見守ってただけだけどな」 「そんなこと、ないよ」 「気ィ使うなよ」 「そうじゃないよ。美作さんといると、冷静になれるの。周りが見えてくるっていうか・・・・・。美作さんが、人に気を使ってるの見てると、自分のことを客観的に見ることが出来る気がするの。たぶん、美作さんが大人だからなのかもね」 いつもあたしを優しく見守ってくれてる美作さん。 あたしが間違った判断をしたときにも、優しく軌道修正してくれる・・・・・・そんな人だ。
「・・・・・お前らの結婚式、6月だっけ?あと2ヶ月か・・・・・。早いな」 「うん・・・・・」 少し前まで、結婚することによって、2人が離れていってしまう気がして寂しかった。 子供が生まれたら、もっと寂しくなるんじゃないかって・・・・・そんな気がしてた。
でも今は・・・・・ 「楽しみだな」 「うん」 美作さんが微笑み、その笑顔から彼の優しさが伝わってくる。 それが嬉しくて・・・・・
「2人で見詰め合っちゃったりして、花沢さんが見たら殺されそうですよ」 突然横から声をかけられ、驚いてそっちを見る。 「桜子!いたの?」 「私が来たことにも気付かなかったんですか?ラブラブですね」 横目でちらりとあたしを見る桜子。 「ラ、ラブラブって何よ」 「その通りの意味ですよ。まったく、羨ましいったらないですよ。F4全員を虜にしちゃうなんて・・・・どこがそんなにいいんだか」 呆れた口ぶりの桜子に、顔が引き攣る。 「桜子、あんたね・・・・・」 「おい、そんなことよりなんか用事だったんじゃねえのか?」 美作さんの言葉に、桜子がはっとしたように目を見開いた。 「あ、そうでした。先輩、吉野教授が呼んでましたよ」 「え・・・・・教授が?」 「研究室で待ってるって言ってました。最近ほんと、仲いいですよね〜」 にやりといやらしい笑みを浮かべる桜子。 「バカ、そんなんじゃないの!」 そう言いながら席を立つあたしを見て、美作さんも席を立った。 「俺もいく」 「え、でも・・・・・」 「心配すんな。俺は研究室の前で待ってるだけ。話は聞かない」 そう言ってくれる美作さんに、ほっとする。 「・・・・・なんか怪しげ。どうなってるんですか?」 首を傾げる桜子にちょっと手を振る。 「気にしないで。レポートの提出しにいくだけだから」 そう言って美作さんと2人、カフェテリアを後にするあたしの後姿を見ながら・・・・・
「・・・・・レポートなんて、言ってなかったけどなあ・・・・・」 と、1人桜子が呟いていた・・・・・。
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