-rui-
落ち着きなく視線を彷徨わせるつくしに、俺は不安を募らせる。 つくしが俺に隠し事をしているのかと思ったら、とてもじゃないが落ち着いてはいられない。
「つくし・・・・・ちゃんと話して」 俺の言葉に、つくしは溜息をつき・・・・・・ ぽつぽつと、話し始めた。
「怪しまれるようなことじゃ、ないの」 「じゃ、何で隠すんだよ?」 と、総二郎。 「教授に・・・・・まだ話さないでほしいって言われて・・・・・」 「まだ?まだってどういうことだよ?」 あきらが怪訝な顔をする。 「だから・・・・・それを言わないでくれって言われてるから困ってるんでしょ」 困ったようにそう言うつくしに、俺たちは顔を見合わせる。
つくしとその教授が、どんな話をしているのかはわからない。 ただ、それを言わないで欲しいと頼まれて、つくしが俺たちに黙ってたことだけはわかるし、きっとその教授を信頼しているつくしにとって、それを言ってしまうのは教授を裏切ることになってしまう。 そう思って困っているのだろうということもわかった。 だけど、やっぱりこのまま放っておくことはできなかった。
「つくし。俺たちを、信用できない?」 俺の言葉に、つくしは俺の顔を見る。 「俺たちだって、つくしがそう言うならその話は誰にもしないよ」 「類・・・・・」 「つくしの気持ちはわかるけど・・・・・でもやっぱり隠し事はして欲しくない。言ったでしょ?俺たちは牧野の一部。どんなことでも、話して」 「俺たちにお前が話したってことも、その教授にはいわねえよ」 そう総二郎が言えば、あきらも横で頷く。 「大体、俺らがその教授と関わることもないだろうしな」 そのあきらの言葉に、つくしは迷いながらも仕方ないといったように口を開いたのだった・・・・・。
「白井先生の、婚約者なのよ、吉野教授は」 その言葉に、俺たちは暫く固まっていた。 白井先生は、つくしの主治医の産婦人科医だ。その婚約者が、吉野教授ということなのか・・・・・。 一番先に口を開いたのは、総二郎だった。 「マジで!?俺、まったくしらねえぞ」 「だから・・・・・まだ内緒なんだって」 「何で?秘密にしておかなくちゃいけない理由でもあんのかよ」 あきらが至極もっともなことを言う。 「それがね・・・・・白井先生のお母様にはもうご挨拶もしてるし、結婚の許しももらってるらしいんだけど・・・・・」 「問題は、吉野教授の方?」 俺の言葉に、つくしは頷いた。 「吉野教授の家は、すごく厳しいらしくてお父様もお母様も大学教授で、お爺様はあの大学の学部長でもあった人なんだって。それで・・・・・実は3年前にも一度、吉野教授はある女性とお付き合いしてて、結婚の約束までしてたらしいの。でも、家族中の反対にあって・・・・・・結局、その女性の方が諦めて、吉野教授の元を去ってしまったんですって。吉野教授も諦めざるをえなくって・・・・・それで、1年前に出会ったのが白井先生。同じことを繰り返したくないと思った吉野教授は、全てのことをやってしまってから、ご両親に報告しようと思ってるらしいの」 「全てのことってのは、つまり、結婚してからってことか?」 総二郎が聞く。 「うん。入籍も済ませて・・・・・で、結婚式の日取りが決まったら、それにご両親を招待して、告白しようと思ってるって」 つくしの言葉に、あきらが眉を顰めた。 「それ、うまく行くのか?そこで教授の両親が切れたりしたら・・・・・」 「親戚も、学校関係者も全て招待してやってしまえば、まさかそんな大勢を目の前に反対も出来ないだろうって思ってるみたい」 「けど・・・・・白井先生だって立派な医者だぜ?亡くなったけど、彼女の父親はかなり権威のある産婦人科医だったって話だ。教授の結婚相手として、特に問題ないような気がするけどな」 総二郎の話しに、つくしも頷いた。 「うん、あたしもそう思ってそう言ったんだけど・・・・・」 「他にも何か問題があるの?」 俺の言葉に、つくしが少し困ったような顔をした。 「うん・・・・・。実はね、今の学部長の孫娘との縁談の話が持ち上がってるらしくって・・・・・・」 「ああ、そういやそんな話聞いた気がするな」 そう言ってあきらが手を打った。 「吉野教授のご両親はそれにすごい乗り気らしいの。今、吉野教授は学部長に気に入られてるから、このままいけば次期学部長決定だって・・・・・」 「なるほどね、狙うは息子の次期学部長の座・・・・・・か。それならなおさら難しいな。下手したら、この大学を追い出されることにもなりかねない」 あきらが難しい顔で言う。 「だよな。もう少し、ちゃんと計画練った方が良いんじゃねえの?学部長のほうから手を回すとか・・・・・」 「うん。そっちもいろいろ考えてはいるみたいなんだけど・・・・・実はもう1つ問題があってね」 「まだあんのかよ?」 あきらがうんざりしたように言う。 「その学部長の孫娘っていうのが、今23歳の女性らしいんだけど・・・・・。彼女にも、実は結婚したい男性がいてね」 「マジで?で・・・・・」 「その男性の子を・・・・・妊娠してるらしいの」 つくしの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。 つくしと親しげだったという吉野教授。 どんな話をしているかの詳細はわからないが・・・・・
俺の子を妊娠しているつくしと、同じく妊娠しているという自分の縁談の相手と重ねているのかもしれない・・・・・。 そして、いずれ自分の子を産むことになるであろう白井先生とも・・・・・・
「計画としては、両家の家族には最後まで学部長の孫と吉野教授がうまくいっているように見せかけて、式当日、お互いの本当の相手との結婚を強引に認めさせてしまおう・・・・・ってことみたい」 「それ・・・・・うまくいくのか・・・・・?」 そのあきらの言葉に、俺たち3人は同様に頷いたのだった・・・・・。
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