***Sweet Angel vol.24***




 -rui-

 「・・・・・ごちそう様」
 そう言って、つくしが箸を置いた。
 皿には、まだ料理が残っていた。
「つくし?もう終わり?」
 俺の言葉に、つくしは頷く。
「うん・・・・・あんまり食欲なくて」
「つくし様、具合がお悪いんでしたらお医者様をお呼びしますが・・・・・」
 雪乃さんが心配そうにつくしの顔を覗き込む。
 顔色が、あまり良くない気がした。
「あ、大丈夫。ただのつわりだから・・・・・たぶん、後でまたおなか空いちゃうからこのままとって置いてもらえます?」
「はい、かしこまりました」
 そう言って、雪乃さんはつくしの残したものを片付けたのだった。
「・・・・・つくし、大丈夫?無理はしないで、ちゃんときついときは言ってよ?」
 つくしはすぐに無理をするから・・・・・
 つい、こっちも心配になる。
「大丈夫だよ、本当に。ときどき、つわりがきついときがあるだけ。少し治まれば、またお腹が空くの。これって、普通でしょ?こないだの検診でも、心配ないって言われたもの」
 にっこりと微笑むつくし。
 あの先生を完全に信用している牧野。
 精神的にも助けられている部分があるようで、俺も信頼していた。
「大丈夫なら良いけど・・・・・無理だけはしないでね」
 俺の言葉に、つくしはにっこりと頷いたのだった・・・・・。


 翌日。
 俺は午前中の講義だけ受け、その後はまた仕事のため会社に行かなくてはならなかった。
 ここのところそんなことが多く、つくしとずっと一緒にいることが出来ない。
 それが不満ではあるのだけれど、今後の生活のためにも仕方のないところはあって・・・・・

 俺がいない間は、あきらと総二郎の2人が絶えずつくしの傍にいる。
 北條のことがあってから、つくしを1人にすることが出来ない俺たちは、過保護すぎるとつくしに言われるのにも構わずその傍を離れることがなかった・・・・・。


 会社に行き、何件か取引先の役員たちと会って仕事をしていた俺の元に、あきらから電話があったのは午後4時過ぎのことだった。
『類か?今大丈夫か?』
「ああ、ちょうど一段落したとこ。どうかした?」
 電話の向こうで、ちょっと間が空く。
「あきら?」
『あのな、たいしたことじゃねえから落ち着いて聞けよ』
「・・・・・つくしに何かあったの?」
 前もってたいしたことじゃないと念押しされたことが気になる。
『つくしが、貧血を起こしたんだよ』
「倒れたの?」
 一瞬、緊張が走る。
『ああ。午後の講義の最中な。そのとき講義やってた教授が医務室に運んでくれて・・・・・今、ちょうど眠ってるところだよ』
「そう・・・・・。迎えに行ったほうがいい?」
『いや、今日は俺、車で来てるからそのまま送るよ。お前、今日は遅くなんのか?』
「いや・・・・・そういうことなら早めに終わらせて帰る。6時ごろには帰れるようにするよ」
『わかった。じゃあ、それまでは俺らもつくしについてるから』
「ん・・・・・あきら?」
『ああ?』
「なんか・・・・他にも気になることがあるんじゃないの?さっきから、何か引っかかるんだけど」
『いや・・・・・別に』
 そう言って否定するあきら。
 けど、何か変だ。
 いつもと違う気がする。

 「類様、次のお約束が」
 傍に控えていた田村が遠慮がちに言う。
 俺は溜息をつき、田村に目配せして頷いて見せた。
「・・・・・あきら、つくしを頼むよ」
『O.K。じゃ、後でな』
 とにかく仕事を早く終わらせて、早く帰るしかない。
 あきらの歯切れの悪さも気になるし、つくしの体調も気になる。
 本当は、今すぐにでも帰りたいくらいだった・・・・・。


 -akira-
 「・・・・・さすがに気付くか」
 俺は携帯をきり、小さく息をついた。
 隣で静かな寝息を洩らすつくしを見つめる。
 今は呼吸も落ち着いて、穏やかに眠っているつくし・・・・・。

 「あきら!つくしは!?」
 医務室のドアを勢いよくガラッと開けて、総二郎が飛び込んできた。
「総二郎、静かにしろよ」
 俺が顔を顰めると、総二郎ははっとしたように手を口に当てた。
「あ、わり・・・・・。で、どうなんだよ?つくしは」
「今は落ち着いてるよ。単なる貧血だ。暫く休ませたら、車で送っていこうと思ってる」
 俺の言葉に、総二郎はほっと息をついた。
「ああ。じゃあ俺も付き合うよ。しかし・・・・びびらせるよな、こいつは」
「ああ。俺も桜子から聞いたときはびびった」
「で・・・・・類には?」
「さっき知らせたよ。6時ごろには帰れるようにするってさ」
 総二郎が俺の隣に椅子を持って来て座る。
 眠っているつくしの髪をそっと撫でる総二郎。
「・・・・・吉野って教授が、運んでくれたらしい」
 俺の言葉に、総二郎が顔を上げた。
「吉野?ああ、あの人か」
「・・・・・俺がここに来たときには、まだいたんだよ」
「ふうん」
「・・・・・深い意味はないと思うけど・・・・・」
 俺が言いよどむのに、総二郎の眉がピクリと動く。
「・・・・・なんだよ、気になることでも?」
「・・・・・その教授、つくしのブラウスのボタンを、外してた」
 総二郎の目が、驚きに見開かれた。









  

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