-tsukushi-
「・・・・・なんで2人がいるの?」 目の前の2人を見て、あたしの顔が引き攣る。 「何だよ、そりゃねえだろ、つくしちゃん」 不本意そうに顔を顰める西門さん。 「だよなあ。せっかく俺らが駆けつけたってのに」 美作さんも横目であたしを見る。
そう言われても・・・・・
「・・・・・今日は、優紀に付き合ってもらおうと思ってたのに・・・・・」 「そうそれ。さっき、そこで優紀ちゃんに会ってさ。どうしても外せない用事が出来たからって言ってたぜ。で、俺らがピンチヒッター」 にこやかに言う西門さん。 だけど、なんだかその目が怖い・・・・・。 「水臭いよなあ、つくしちゃんは」 美作さんも相変わらず横目であたしを睨んでる。 「だ、だって・・・・・」 「今日がウェディングドレスを選びに行く日だって、何で俺らに言わなかったわけ?」 「だから、それは、類が・・・・・」 つい、逃げ腰になり後ずさるあたしの手を、2人の手ががしっと掴む。 「その類は今日も仕事。だろ?」 「さ、早速選びに行こうぜ、つくしちゃん」
そうしてあたしは2人に引きづられるようにして、車に乗り込んだのだった・・・・・。
「類に言われたんだろ?俺らには言うなって」 隣で、西門さんがにやりとして言う。 今日は花沢家のリムジンで、指定された店へ向かう。 「優紀ちゃんに聞いてよかったぜ。この機会を見逃す手はねえよなあ」 美作さんも楽しそうに笑う。 さっきまでの不機嫌な顔はどこへやら。 完全に遊ばれてるんだ・・・・・。 「本気で、そんなこと怒るわけねえだろ?大体、類の考えそうなことだし?お前のウェディングドレス姿、自分より先に俺らに見せたくなかったんだろ」 「お前を譲ってやるんだ。このくらいの役得は許されると思うぜ?」 「役得って・・・・・別に、ドレス選ぶだけだよ?本番にだって見せるわけだし・・・・・」 そうあたしが言うと、2人は顔を見合わせて笑った。 「わかってねえなあ、つくしは」 「な、なによ」 「ま、あとのお楽しみってやつ?」 その2人の笑みに・・・・・ なぜかあたしの背筋に、嫌な汗が流れるのだった・・・・・。
「すごい・・・・・」 案内された店内には、数え切れないくらいのウェディングドレスが。 どれも高級ブランドのものばかりで、煌びやかなことこの上ない。 なんだか見ているだけで気後れしてしまって・・・・・ 「この中からなんて・・・・・どうやって選べばいいの・・・・・?」 途方にくれているあたしを見て、西門さんと美作さんが顔を見合わせて笑う。 「な?俺たち連れてきて正解だったろ」 「優紀ちゃんじゃ、お前と一緒に途方にくれておしまいだぜ」 得意満面な2人に、ちょっとカチンと来る。 「・・・・・じゃ、あんたたちならどれを選ぶの?」 そう振ってみると、2人は途端にまじめな顔つきになり、無数に並んだウェディングドレスの列を両端から見はじめる。
その顔つきは真剣そのもので・・・・・・ あたしは何も言うことが出来ず、ただその場に突っ立っていたのだが、それを見ていたスタッフの女性がさりげなく椅子に座るよう勧めてくれたので、あたしは遠慮なく座らせてもらうことにした。
そして待つこと20分。 2人がそれぞれ3着ずつのウェディングドレスを持ち、あたしの前に並べて見せた。 「どうよ?」 「なんだったら全部着る?」 「や・・・・・・てか、これ、あたしに似合う・・・・・?」 持って来てくれたドレスはどれも本当に素敵だった。 純白のドレスやオフホワイトのドレス、ベビーピンクのドレス。 そしてデザインもかわいいものからセクシーなものまでいろいろで、そのどれもがセンスよく、さすが2人のお見立て・・・・といった感じだった。 だけど、これをあたしみたいな人間が着て、果たしていいんだろうか・・・・・・? 「お前な、俺たちを舐めんなよ」 西門さんが呆れたように言う。 「俺たちが、自分の好みだけでこれ選んでると思ったら大間違いだぜ。ちゃんとお前に似合うと思ったものを選んで持ってきてるんだからな」 「え・・・・・そうなの?」 「そ。よし、百聞は一見にしかずだ」 「着てみろよ」 「ええ!?これ全部!?」 「そんな驚くことでもねえだろ」 「たった6着だぜ。着てみて、自分でも鏡見てから決めたほうがいいだろ?」 そう言われれば、そうだ・・・・・。
あたしは試着室に入り、渡されるウェディングドレスを1着ずつ試着していくことにした。 こんなドレスを着るのはもちろん初めてで、1人で着るのは難しい。 スタッフの女性に手伝ってもらい、何とか1着目を着る。
「とても素敵ですわ。どうぞ、お連れの方にお披露目してきてください」 にこやかに言われ、あたしはおずおずと試着室のカーテンを開けた。 椅子に座っていた2人が、あたしの方を見る。 なんとなく気恥ずかしくって、何も言えないまま佇むあたし。
でも、2人ともいつまでたっても何も言ってくれなくて・・・・・ 「ちょっと・・・・・何か言ってよ。ぽかんとしてないでさ」 見ると、2人ともあんぐりと口を開けたまま固まっているのだ。 そして、あたしの言葉にはっとしたように顔を見合わせ・・・・・ 「・・・・・参った・・・・・」 「・・・・・予想以上・・・・・」 そう言って溜息とともに俯いたその顔は、ほのかに赤く染まっていた・・・・・。
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