***Sweet Angel vol.17***




 -tsukushi-

 「北條くん・・・・・お願い、やめて・・・・・」
 肩に食い込む手のその痛みを堪えながら、あたしは必死に言葉を紡いだ。
「ね・・・・・あたしの話を、聞いて・・・・・。こんなことしちゃ、ダメだよ・・・・・」
「・・・・・君の話・・・・・?」
「そうよ。ちゃんと、話し合おうよ・・・・・」
 何とかして、この人を説得しなくちゃ。
 そう思ってあたしは必死に考えていた。

 力づくでここを振り切るのは無理。
 お腹の子のこともあるし、どうにか平和的に解決しなくちゃ・・・・・・。
 きっと今頃、あたしがなかなか戻らないことを類も不審に思い始めてる・・・・・・。

 だけど北條君は、そんなあたしの心を見透かすように、その青白い顔に気味の悪い笑みを浮かべた。
「そんなことして、僕を説得しようと思っても無駄だよ。知ってるんだよ・・・・君が、花沢類の子供を身篭ってるってこと」
 その言葉にあたしは驚き、無意識に下腹部を手で押さえた。
「どうして・・・・・・」
 このことは、まだ公にはしていない。
 正式に入籍を済ませてから発表しようと考えていたからだ。
 結果的に公表するのは変わらないとしても、やはり入籍する前とした後とでは世間体が違う。
「君のことなら何でも知ってるよ。君の家族のことも・・・・・弟のことも知ってる。君のお父さんは、花沢物産にお勤めなんだってね。もしこの結婚がダメになったら・・・・・きっと君の家族も困ることになるんだろうね・・・・・」
「・・・・・あたしは、家族のために結婚したわけじゃない。花沢類が好きだから・・・・・彼の傍にいたいと思ったから、だから結婚するの。北條君にだって、きっとそういう風に思える人が現われるはずだよ」
「僕には君だけだ」
「違うよ」
 あたしは北條君の言葉に首を振った。
「北條君は、あたしのことなら何でも知ってるって言ったけど、それは調べてわかることだけ。あたしの心の中のこととか、類の心の中のこととか・・・・・西門さんや美作さんの気持ちとか、そういうものは何もわかってない。あたしたちが出会ってから今までの間に、どんな思いで過ごしてきたか・・・・・・どうして道明寺と別れたのかとか、どうしてあたしが類を好きになったのかとか、どうして西門さんと美作さんがあたしにとって特別なのか・・・・・・それは、いくら調べたってわからないことだよ。あたしや、あたしの仲間のこと・・・・・その人の近くにいなきゃ、わからない。その人の近くにいて、話をして、触れ合って・・・・・・お互いのことを思いやって、初めてわかることなの。自分の殻に閉じこもって、高いところから見てるだけじゃ、決してその人の本当のことは分からないんだよ」
「何を・・・・・えらそうに!」
 北條君の目がカッと見開かれ、その手が肩から首へと移動した。

 骨ばった指が、あたしの首に食い込んでくる。

「くっ・・・・・・・!」
「僕は・・・・・君と結婚するんだ・・・・・・君は・・・・・僕のものなんだ・・・・・・」
 そう呟きながら、北條君の手に徐々に力が加わる。

 ―――く・・・・・るし・・・・・・類・・・・・・・!

 息が出来なくなって、意識が飛びそうになったとき・・・・・・・


 “バキッ!!”

 扉が蹴破られる音が、朦朧となる意識の中で聞こえた。
 北條君がはっとして、その手が緩む。

 「牧野!!」
 類の声が、聞こえた。
「北條!てめえ!!」
 西門さんの声も・・・・・
「その手を離せ!!」
 美作さん・・・・・

 ―――ああ、皆、来てくれたんだ・・・・・
 
 みんなの存在を確認したその瞬間・・・・・

 あたしは、その場に崩れ落ちた・・・・・。


 -rui-

 「牧野!!」
 扉を蹴破った瞬間、牧野が北條に首を絞められている姿が目に入り、頭に血が上る。

 総二郎とあきらが北條に飛び掛り、牧野から引き離す。

 牧野が、その場に崩れ落ちる。
「牧野!!」
 床に頭を打ち付けそうになり、寸でのところで抱きかかえる。
「牧野!しっかり!」
 ぐったりと気を失っている牧野。
 頬を軽く叩いても、反応がない。
「類!牧野は!?」
 北條を総二郎が押さえつけ、あきらが牧野のほうに駆け寄ってくる。
「気を失ってるだけだと思うけど・・・・・」
「とにかく、病院に連れて行けよ」
 総二郎の声に俺は頷き、牧野を抱え上げた。
「こいつのことは、俺らに任せて、早く行け」
「分かった」
 そう言って資料室を出て、車へと急ぐ。
 途中、三条にあって声をかけられたが、答える余裕もない。
 目を閉じたままの牧野が心配で仕方なかった。

 牧野の中には、俺と牧野の大切な命がある。
 もしお腹の子に何かあったら・・・・・・・
 牧野に何かあったら・・・・・!

 俺の心臓が、嫌な音を立てて震えていた・・・・・。









  

お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪