-rui-
「・・・・おそいな」 なかなか戻ってこない牧野。 いくら走れないからといって、もう20分は経ってるのに・・・・・
なんとなく胸騒ぎがして、俺は車から出た。
「類じゃねえか」 その声に振り向くと、ちょうど門から出てきた総二郎が目に入った。 「総二郎」 「もう役所行って来たのか?」 「いや。これから・・・・・。牧野がレポート出してから行きたいって言うから・・・・・」 「へえ」 「けど、なかなか戻ってこなくて・・・・・ちょっと様子見てくる」 そう言って俺は総二郎の横を通り過ぎようとしたが・・・・・ 「おい、ちょっと待てって。だったら俺も一緒に探してやるよ。どこに行ったかわかるのか?」 「確か・・・・・早乙女教授とか言ってた気がするけど」 「早乙女?ああ、あの若い教授か。だったらいるとこわかるから行こうぜ」
そう言って総二郎が先に立って歩き出す。 俺はその後について歩き出したのだった・・・・・。
「牧野さん?彼女ならさっき僕にレポート渡しに来て、すぐに行ってしまったけど・・・・・」 メガネをかけた、まじめそうな早乙女教授は俺たちにそう言った。 「・・・・・どのくらい前ですか?それ」 俺が聞くと、教授はちょっと考えるような素振りを見せ・・・・・ 「15分くらい前だったと思うよ。急いでいたみたいで、あっという間にいなくなってしまったけど」 「・・・・・そうですか。どうも・・・・・」
「どういうことだ?15分も前に別れたって・・・・あいつ、何してるんだ。まさか、この中で迷子になったってこともねえだろう?」 「わからない。けど・・・・・なんだか、いやな予感がする」 「いやな予感って、なんだよ」 「だから、わからないよ。とにかく、牧野を探さないと」 「・・・・・わかった。あきらにも連絡しとくわ」 そう言って総二郎は携帯を取り出した。
「先輩?いいえ、今日は見てませんけど・・・・・」 途中、カフェテリアにいた三条に聞いても、首を傾げるだけだった。 「類、牧野いたか?」 「あきら・・・・・。いや、まだ・・・・・」 「そうか・・・・・・」 そう言ってあきらは顎に手を当て、考え込んだ。 「あきら・・・・・?」 「ああ、いや・・・・・これは、関係ないと思うんだけど・・・・・・」 「何が?気になることでもあるの?」 俺の言葉に、あきらは難しい顔で俺を見た。 「あいつ・・・・・北條だよ。類は仕事で今週ずっと大学に来れない日が多かったから知らなかったかもしれないけど、あれから、毎日大学に出てきてる」 「そうなんだ。けど・・・・・それが何か?」 「確かに、あいつに牧野との婚姻届を出すよう仕向けたのはあの女たちだけど・・・・・。実際婚姻届けを出しに行ったのは北條だ。あいつはそこまで牧野に入れ込んでた。そんなやつが、そう簡単に牧野を諦めると思うか?」 「・・・・・どういうこと?」 「北條の、牧野を見る目は異常だぜ。あいつが出てきてからずっと、気になってたんだ。牧野といると、必ずどこからか視線を感じてそっちを見ると北條がいる」 「それ、俺も気付いてたぜ」 いつの間にか、総二郎が傍に来ていた。 「牧野は気付いてなかったみたいだけどな。北條には、俺も気をつけてたつもりなんだけど・・・・・今日はまだ見てねえな」 「わたし、見ましたよ」 そう言ったのは、三条だ。 「マジか?」 総二郎の言葉に頷く。 「ええ。朝、1度見たきりですけど、確かにあの人でしたよ。あんな気味の悪い人、見間違えたりしませんから」 「・・・・・お前の言い方って、フォローのしようもねえよな」 あきらが呆れたように苦笑した。 総二郎が、表情を硬くして言った。 「なあ、とにかく探そうぜ。類じゃねえけど・・・・・すげえ嫌な予感がしてきたわ。牧野は今、普通の体じゃねえ。何かあってからじゃ遅いぜ」 「だな」 「俺、向こうの校舎探してくる」 「私も探します」 そう言って三条も頷き、俺たちはそれぞれ別れて牧野を探し始めたのだった・・・・・。
-tsukushi-
「北條君・・・・・。悪いけど、あたしあなたとは結婚できないよ」 「そんなことはないよ。一緒にいれば、きっと牧野さんだって僕のことを好きになってくれるはずだよ」 北條君の口元に、薄気味の悪い笑みが浮かぶ。 こんなひょろっとした男に、普段なら負けない自信がある。 だけど今は・・・・・
あたしは、そっと下腹部に触れた。
「・・・・・こんなことしたって、あたしは北條君のものにはならないよ。人の心は、力づくでは変わらないの。あたしが好きなのは・・・・・花沢類なんだよ」 「・・・・・それでも、いつまでもその気持ちが変わらないとは言い切れないんじゃない?確か、花沢さんと付き合う前はあの道明寺財閥の道明寺司と婚約してたんだよね?それに・・・・・美作あきらや西門総二郎とも、単なる友達っていう関係じゃないんでしょ?」 いやらしい笑みを浮かべ、あたしを見つめる北條くん。 「・・・・・だったら、なんだって言うの?あたしたちの関係を、あなたにとやかく言われる覚えは無い。言っておくけど、たとえ無理やりあたしと花沢類を別れさせたとしたって、あたしはあんたのこと好きになったりしないよ」 その言葉に、北条君の顔が醜く歪む。 「・・・・・君は、僕のことをわかってない・・・・・・!君にふさわしいのは、僕なのに・・・・・!」 突然、北条君があたしに飛び掛ってきた。 「いや!」 狭い資料室で、あたしは避ける間もなく北條くんに肩を掴まれ、そのまま膨大な資料が詰め込まれているスツールへと押し付けられた。 「イタッ!」 スツールに肩をぶつけ、その痛みに顔を顰める。 ぶつかった衝撃で、詰め込まれていた資料がばさばさと落ちて来て、顔や体に当たる。 だけど、そんなものまるで見えていないかのように、北條くんはあたしの顔をその見開いた瞳で見つめていたのだった・・・・・
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