-rui-
俺たちの姿を見て、3人は明らかにうろたえていた。
「あ、あたしたちは何も・・・・・」 「何のことだか・・・・・」 「か、帰るわ・・・・」 3人がそろそろと後ずさりし始めたが・・・・・
「話が終わるまで、帰さないわよ」 3人が驚いて振り返る。 そこにいたのは牧野、三条、大河原の3人だった。 三条が3人を睨みつける。 「こんなことするなんて・・・・・あんたたちって最低ね」 「な・・・・何よ、どうしてあんたがそんなこと・・・・・」 「・・・・・そうね。じゃあ先輩本人からならいいわよね」 三条が一歩下がり、牧野を前に出した。 牧野が3人をじっと見つめる。 その視線の強さに、3人が怯む。 「説明して、ちゃんと」 牧野が、静かに言った。 「知らない間に、知らない人と結婚していた。それがどういうことかわかる?どんな言い訳されても、許せない気がするけど・・・・・でも、ちゃんとした理由が聞きたい。どうしてそんなことしたの?」 牧野の言葉に、3人は一様に押し黙った。
そのとき、あきらが口を開いた。 「ここで立ち話もなんだし、部屋に入ってもらおうぜ。北條、部屋借りるぜ」 そう言ってさっさと奥の部屋へ入る。 雑誌やDVDなどが散らかっていたが、TVとDVDプレイヤー以外にはたいした家具もないガランとした部屋だった。
その部屋に全員が入ると、3人の女たちを囲むようにして俺たちは床に座った。
「・・・・・F3から離したかっただけよ」 3人の中の1人、いつも真ん中にいるリーダー格らしい女が言った。 この女が井上洋子。 「大して美人でもないのに・・・・・F3を独占してるなんて許せなかった」 そう言って牧野を睨みつけたのは、気の強そうな背の高い女・・・・・三上咲。 「牧野つくしが・・・・・他の男と結婚してしまえば、F3から離せると思って・・・・・」 おどおどした様子でそう言ったのは気の弱そうな小柄な女・・・・・山本里奈だった。 「で、こいつを選んだってわけ?」 総二郎が北條を顎で指し示す。 「彼が、牧野つくしのこと好きだって知ったから・・・・・・思いついたの。彼女と結婚できると知れば、きっと喜んでやってくれるだろうって」 「結婚できる・・・・・?」 総二郎の目がすっと細められる。 滅多に女に向けられることのない、冷たい視線だ。 「冗談じゃねえ。本人が同意してないのに、何が結婚だ。お前らがやったことは犯罪だぞ」 冷たい物言いに、3人の顔色がさっと青くなる。 「・・・・・牧野がこの北條と結婚して・・・・・それで俺たちが牧野から離れると、本気でそう思ってたのか?」 あきらが、さすがに怒った様子で言った。 「見知らぬ男と結婚していたと知って、牧野がそのまま放っておくとでも?そんなんで泣き寝入りするやつはいねえ」 容赦のないあきらの言葉に三上と山本はぐっとつまったが、井上はきっと牧野を睨みつけ、こう言った。 「それでも・・・・・別の男と結婚していたとなれば、花沢さんだって牧野つくしと結婚できない。すぐに離婚したとしたって離婚歴のある女との結婚なんて家が認めないでしょう?」 食って掛かるようなその言い方に、牧野は顔を顰め、睨みつけた。 「・・・・・離婚歴なんか、作れないよ」 俺が言うと、井上は目を見開いて俺を見た。 「本人の同意のない婚姻は無効にすることが出来るんだ。もちろんいろいろ手続きを踏む必要があるけど、難しいことじゃない。それに・・・・・たとえ何があったって、俺は牧野と別れるつもりはない。こんなことしたって、時間の無駄だよ」 俺の言葉に、井上も力なく項垂れた。 総二郎が、少し語気を弱めて言った。 「馬鹿なことしたな。俺たちから牧野を離そうなんて、無駄なことだぜ。たとえ牧野が離れようとしたって、俺たちが離さない。俺たちと牧野は、ずっと一緒なんだよ」 「・・・・・どうして・・・・・?」 井上が、下を向きながら呟いた。 「牧野つくしなんて・・・・・美人でもないし、お嬢様でもない・・・・・なんでそんな女を・・・・・・どうしてそこまでして・・・・・・」 「そんなこと、関係ないよ」 俺の言葉に、井上が顔を上げた。 「俺にとって、牧野は世界に2人といない大切な人だから。牧野の容姿とか、背景は関係ない。牧野が、牧野であればそれでいい。あんたたちには、きっと一生わからないと思うけど」 「・・・・・確かに容姿だけで言えば君の方がずっと美人だけどね」 そう言ってあきらが微笑んだ。 「だけど、そういう問題じゃないんだよ。牧野に代わる人間なんかいない。君らがどんな手を使っても無駄。俺らにとって、牧野つくしは唯一無二の存在だから・・・・・・」
3人を帰らせた後、俺たちも北條の家を後にし、6人でクラブへと向かった。 「あの3人、そのままでいいんですか?もしまた何かしてきたら・・・・・」 三条が納得できないといった表情で言う。 「そん時はそん時。今度こそ容赦しないさ」 あきらの言葉に、大河原も顔を顰める。 「甘い!相手が女だからって、3人とも甘すぎない?」 「んなことねえよ。少なくとも、俺らが牧野から目を離すことはありえねえし、あの3人に気を許すこともない。そんくらいのことはあいつらもわかったんじゃねえ?」 総二郎がにやりと笑って言うと、2人は顔を見合わせた。 「まあ、それならいいんですけどね・・・・・。先輩が一番心配。気をつけてくださいね」 「なによそれ・・・・・。大丈夫だよ、あたしは」 牧野が頬を膨らませて言うのを見て、あきらたちも笑った。 「言えてるな」 「馬鹿みたいに人がいいとこあるからな。あんまり人に気を許すなよ」 総二郎におでこをつつかれ、顔を顰める。 「った!もう、やめてよ!大丈夫だってば」 怒りながらも頬を赤らめ、ほっとしたような表情の牧野に、俺の頬も緩む。
北條との婚姻を無効に出来れば、今度こそ本当に入籍が出来る・・・・・・。
そう思って、俺たちはほっとしていた。 そう、このときまでは・・・・・
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