*** Summer vacation 2 vol.2 〜総つく〜 ***


 「何やってんだよ、おまえ!!」
 西門さんの声にはっとして我に返る。

 目の前には花沢類。
 そしてその手には、あたしの水着―――

 ―――そうだ!

 あたしは慌てて胸元を隠そうとして―――

 突然、後ろから西門さんの両手があたしの胸に延びてきたのを見て目を丸くする。

 「きゃあ―――――っ!!」

 青空の下、広い海で―――
 あたしの叫び声が響き渡ったのだった・・・・・


 「どうしてくれるんだよ」
 西門さんがバルコニーの手摺にもたれ、類を睨みつける。
 類は相変わらずにこにこと楽しそうに笑っている。
「笑ってんなよ、お前のせいでこうなってんだぞ」
「恥ずかしがってるだけでしょ、牧野は。俺は別にいいけど」
「俺がよくないっつーの!大体、なんでお前がここにいるんだよ!」

 2人のやり取りを、少し離れた場所で手すりにもたれあたしは聞いていた。

 セミヌードを花沢類に見られ、後ろから西門さんに胸をつかまれ―――

 恥ずかしいやら腹が立つやら―――

 とにかく、2人の顔をまともに見ることができなかった。

 「だって、ここ俺んちの別荘だし」
 しれっとそう言う類に、西門さんはますますいきり立って。
「2人で行ってくればって言ったじゃねえか!」
「俺が行かないとは言ってない」
「だからなんで!」
「楽しそうだったから」
 そう言って微笑む類に、西門さんは呆れるばかりで―――
「―――楽しそうって!」
「それに、牧野がいない日本なんてつまらないし。俺も牧野と一緒に旅行したいから」
 その言葉に、西門さんの眉がぴくりとつりあがった。
「てめ―――最初からそのつもりだったのか」
「さあね。でも、楽しければいいじゃん。せっかくここまで来たんだし」
「って、お前が言うな!」
「お腹すいた。何か食べものある?」
 カッカする西門さんを無視し、部屋の中に入っていく類。

 大きな冷蔵庫を開け―――
「う〜ん・・・・・大したものないな。俺、何か買ってくるよ」
 そう言うと、そのまま玄関の方へ行ってしまったのだった・・・・・。

 「―――おい、いつまで拗ねてんだよ」
 西門さんの声に、あたしはちらりと視線をそちらに向けた。
「言っとくけど、あの場ではああするしかなかったんだからな。あれ以上類にお前のあんな姿見せるわけにいかねえんだから」
「それは・・・・・でも、何もあんなやり方じゃなくても・・・・・」
「何も持ってなかったんだからしょうがねえだろ。大体、お前がアホ面してぼーっとしてんのが悪いんだろうが!」
「アホ面って何よ!」
「その面のことだよ!他の男に裸見せてんじゃねえよ!」
「見せたくって見せたんじゃないわよ!」
「少しは隠せっつーの!」
「しょうがないじゃない!びっくりしちゃったんだもん!まさか花沢類がいるなんて思わなくて―――」
 思い出しただけでも、顔から火が出そうだった。

 ぷいと再び西門さんから顔をそらし、真っ赤になったまま海の方を向く。

 そろそろ日が暮れてくるころで、海はオレンジ色に染まりかけていた。

 「―――明日、新しい水着買いに行こう」
 いつの間にか、すぐ後ろに西門さんが立っていた。
「水着・・・・・?」
「あんなの、類の前で着せらんねえ。大体、また紐が取れたら困るだろ」
 後ろから腰に手を回され抱きしめられるような格好になり、西門さんの息遣いを耳元に感じてあたしの胸がどきどきとうるさくなる。
「ここまで来て―――喧嘩はやめようぜ」
 耳元で響く甘い声。
 あたしは小さく頷いた。
「どうせ類のやつはすぐ寝ちまうだろうし―――今夜は、覚悟しとけよ?」
「な―――」
 身を捩ろうとして。
 逆にその体をくるりと振り向かされ、あっという間に唇を奪われてしまう。

 情熱的な、すべてを奪いつくすような口付けに酔い、そのまま体の力が抜けそうになった頃―――

 「おい、そのままそこでやるなよ?」  

 突然甘い雰囲気をぶち壊したその声に。

 あたしたちは弾かれたように体を離し―――

 目の前の人物を見て、目を丸くした。
「あきら!?」
 美作さんはあたしたちを見てにやりと笑うと、こう言ったのだった。
「よお、お2人さん。お招きありがとうな」

 そしてその瞬間。
 不敵に笑う花沢類の顔が、あたしたちの頭の中に浮かんだのだった・・・・・





  

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