「招いたのは俺じゃねえぞ」
勝手にコテージの中のバーラウンジでカクテルなんて作り始めた美作さんに、西門さんが渋い顔で言った。
「だろうな。航空券くれたのは類だし、空港まで一緒だったからな」
しれっと言われ、あたしたちは同時にがくっと肩を落とす。
「空港まで―――って、じゃあそのあとは?類の方が先に来たよな」
西門さんの言葉に、美作さんはにやりと笑った。
「日本土産を渡しにちょっとな」
「相変わらずまめなやつだな」
諦めたように溜め息をつく西門さん。
「ただいま」
玄関の方で声がし、程なく類が部屋に入ってきた。
「類、お前あきらも来るならそう言っとけよ」
西門さんの声に、類はひょいと肩をすくめた。
「言わなかったっけ?てか、そのくらい総二郎なら察してるかと思って」
「察するか!早く帰れよ、おまえたち」
「「やだね」」
2人同時に発せられた言葉に、西門さんは再び大きな溜め息をついたのだった―――。
「あれ、西門さんは―――」
夜になり、4人で外のレストランで食事をした帰り、3人が行ったことがあるというバーに連れてこられた。
その途中、あたしがトイレに立ち戻ってみるとそこには西門さんの姿だけがなかった。
「少し飲みすぎたって、外に出てるよ」
「え・・・・・」
お酒には強いはずなのに・・・・・
少し心配になり、あたしも外に出てみることに。
店の奥に進むとガラス扉があり、そこを出るとバルコニーになっていて海が眺められるようになっていた。
星空の下、グラスを片手に手すりにもたれ、愁いを帯びた表情で海を眺める西門さんは見惚れてしまうほどかっこ良く、いつもよりもセクシーに見えた。
「―――何してるの?」
声をかけると、ゆっくりとあたしの方を見て笑った。
「こうして見ると、海ってきれいなもんだなと思ってよ」
近くに行くと、西門さんがあたしの手を掴み、そっと引いた。
「本当なら2人きりでムード満点の夜を過ごすはずだったのにな」
腰に手を回し、抱き寄せながら耳元に囁く。
「―――でも、みんなと一緒でも楽しいよ?2人の旅行ならまたできるし・・・・・別に海外じゃなくたっていいし」
「―――じゃ、日本に帰ったら行こう」
「え―――どこに?」
「どこでもいい。2人きりになれるとこ。今度は絶対あいつらには邪魔させない」
力強くそう言う西門さんに、思わずあたしは吹き出した。
「笑うなよ」
「だって」
「―――ま、いいか。ここにいるのは2人だけだし。あいつらも飲んでるときは邪魔しないだろ」
そう言ってくるりと前を向かされる。
真正面から、じっと見つめられる。
いつもと違う真剣な瞳に、あたしの胸が大きく高鳴った。
「―――つくし」
突然名前を呼ばれ、戸惑う。
「な、なに?」
「一度しか言わねえから―――ちゃんと聞けよ?」
「う、うん」
「それから、返事はO.K以外は受け付けねえからな」
「は?何言って―――」
「つくし」
もう一度、名前を呼ばれる。
両手が肩に置かれ、その手に力がこもる。
「俺と、結婚してほしい」
吸い込まれそうなほど、きれいな瞳。
その瞳には、あたしだけが映されていて。
こんな時なのにあたしはその瞳に見惚れてしまっていて。
すぐに返事が出来なかった。
「―――つくし?返事は?」
再び返事を聞かれ、あたしははっと我に返る。
「あ―――」
「あ―――じゃねえよ。話、聞いてたか?」
「き、聞いてたよ。あの―――だって、O.K以外は受け付けないんでしょ?」
恥ずかしくって、わざと強気な言い方をしてしまう。
そんなあたしを呆れたように見つめて。
「それでも、お前の口からちゃんと聞きたいの。―――答えてくれよ」
切なげな声。
あたしは、自然に頷いていた。
「あたしで、いいの・・・・・?」
「お前じゃなきゃ、だめだ」
ふわりと、抱きしめられる。
満天の星が、滲んで見えた。
「ずっと、一緒にいよう。来年も、再来年も―――おれのそばにいてくれ」
「―――はい」
自然に唇が重なる。
何度も何度も繰り返しキスをして。
今ここがどこなのかも忘れそうになった時―――
『パンッ!パパンッ!!』
突然爆竹が弾ける音に、あたしたちは仰天して飛びあがった。
「きゃあっ!?」
「なんだ!?」
「おめでとう!!」
扉を開けて立っていたのは、美作さんと花沢類―――。
そして満面の笑みの花沢類が、手にしていた特大のクラッカーのひもを引き―――
『バンッ!!!』
という強烈な音とともに色とりどりの紙吹雪が舞いあがったのだった・・・・・。
「―――ムードだいなし」
がっくりと肩を落とす西門さんを見て。
それでもなんだかうれしくて、あたしは笑っていた。
明日からもきっと賑やかな旅になるんだろうと、半分うんざり、半分わくわくしながら――――
fin.
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