「すっごいきれい!!」
白い砂浜と、どこまでも続く透明な海。
そしてそれを見下ろすコテージに、あたしと西門さんは来ていた。
ここはグアムにある花沢家の別荘で、目の前はプライベートビーチになっていた。
「もったいねえよなあ。ここ、ほとんど使ってねえんだぜあいつ」
窓際でその景色に見とれていたあたしの横で、西門さんが言った。
「ほんと。でも、いいのかなあ、あたしたちだけで使っちゃって・・・・・」
「当然。お前を拉致したんだから、そのくらいはしてもらわねえと」
「拉致って・・・・・」
まだ夏休みに入る前、花沢類に飛び込んできた縁談の話。
その縁談を断るために、あたしを無理やり小さな無人島に連れて行き一晩2人で過ごすという強硬手段に出た花沢類。
おかげで縁談を断ることはできたけれど、その時の西門さんの怒りようときたら、今思い出しても冷や汗が出てくるほどで・・・・・。
ここに招待してくれたのは、その時のお詫びとお礼、ということだった。
「ねえ、せっかく来たんだから泳ごうよ」
早速水着を出していると、西門さんが呆れたように苦笑した。
「お前は相変わらずだな。日焼け止め、忘れんなよ」
「うん、わかってる・・・・・・あれ?これ―――」
「どうした?」
バッグの中を探っていたあたしの手が止まり、固まっているのを見て西門さんが首を傾げる。
バッグの中にあったはずの、あたしの水着。
自分で用意したのは、確か黒のセパレートタイプの水着だったはず。
だけど今あたしの手に触れているのは、黒とは程遠いショッキングピンクの布で―――
「なんだこれ、水着?」
いつの間にかあたしのそばに来ていた西門さんがあたしの手からそれをさっと奪い取る。
「あ、ちょっと!」
「おい―――おまえ、マジでこれ着るの?」
そう言って広げられたそれは、ショッキングピンクの三角ビキニ。
もちろん、あたしがそんなもの選ぶはずがない。
思い当たるのは―――
「やられた・・・・・桜子だ」
そうだ。
日本を発つ前日。
滋さんと一緒にうちに遊びに来た桜子が、何やらあたしのバッグのそばで怪しい動きをしていた。
あたしは翌日の準備で忙しくってそんなこと気にする余裕もなかったけど・・・・・。
すり替えられたとすれば、あのときしかない。
「どうしよう、水着これしか入ってない」
西門さんを見上げると、にやにやとおかしそうに笑う。
「いいじゃん、それ着れば。どうせ俺ら以外にここには来ないんだし」
完全に面白がってる。
「もう・・・・・」
それでも、あたしだってここまで来て海を眺めてるだけ、なんて柄じゃないし。
仕方なく、あたしはその水着に着替えることにし―――
頼りないくらい少ない布地のそれを着て、西門さんの前に立ったのだった。
一瞬、目を丸くしてあたしの頭からつま先まで見つめる西門さん。
「―――へえ」
「な、なによ」
「もっとまな板だった気がするけど―――意外とスタイルいいんじゃん。ひょっとして成長した?俺のおかげで」
にやりと不敵な笑み。
あたしは思いっきり真っ赤になって西門さんを睨みつけた。
「変なこと言わないでよ」
「変じゃねえよ。お前、まさかとは思うけど2人で旅行に来て、ただ泳ぎに来ただけ、とは思ってねえだろうな」
そう言ってあたしににじり寄る西門さん。
あたしは思わず後ずさる。
「な、何言ってんの」
「・・・・・俺たちも、もう付き合って半年だぜ?半年も、この俺様が我慢できたのなんてお前が初だ。そろそろ、その先に進んでもいいと思うけど?」
「その先って―――」
いくらあたしが鈍いからって、さすがに西門さんの言っている意味はわかる。
さらに下がろうとしたあたしの手首をつかみ、そのまま唇に触れるだけのキスをする。
にっこりと満面の笑みを浮かべて。
「夜が楽しみだな。つくしちゃん」
その言葉に。
あたしの体温が確実に1度は上がったのだった・・・・・。
何はともあれ、まずは目の前の海。
こんなきれいな海、泳がなくっちゃ勿体ない!
あたしは砂浜を一気に走りぬけ、そのまま海に飛び込んだ。
「気持ちイイ!!西門さん、早く!!」
悠々と砂浜を歩いてくる西門さんに手を振る。
「お前、はしゃぎすぎ。子供みてえ」
そう言いながらも優しく笑う西門さん。
その笑顔も、なんだかいつもより魅力的に見えるから不思議だ。
海の中で西門さんとじゃれあいながら波しぶきを上げ、泳いだり潜ったり。
あたしも、かなりテンションあがってたと思う。
その緊急事態に気づいたのは、西門さんだった。
「おい!」
目を丸くしてあたしを見つめてる西門さん。
「え?」
「お前、水着は?」
その言葉に、あたしは自分の姿を見下ろし―――
着けていたはずの、水着のブラが外れていることに気付く。
「きゃあっ、なんで?」
慌てて胸を押さえてきょろきょろすると、浜辺に近いほうの波間でゆらゆらと揺れているショッキングピンクが目に入る。
紐で結ぶタイプだったので、夢中で泳いでる時に外れてしまったらしい。
「やだ、もう」
慌ててそっちへ向かうあたし。
「おい、俺が取ってやるから―――」
「いい!西門さんはそこにいて!」
恥ずかしくて胸を押さえながら必死でそこまで行き―――
ようやくそれに追いつき、手を伸ばそうとした時だった。
一足早く、それを拾い上げる手が。
「―――すげ、いいもん見た」
そう言ってこっちを見てにっこりと微笑んだのは―――
「花沢類!」
胸を隠すのも忘れ、呆然と立ち尽くすあたし。
「おい!」
西門さんが、ばしゃばしゃと水音を立てながらこちらへ向かって来ていた・・・・・
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