***傍にいて vol.4***



 side soujirou

 どっと力が抜けた。

 全く・・・・・今まで悩んでた俺はなんだったんだ・・・・・・

 牧野を見ると、きょとんとした表情で俺を見つめている。

 それを見て、また溜息が出る。

 牧野のことが好きだと、自覚したのはいつだったのか。
 今ではそれもはっきりと思い出せない。
 ただ、気付いたら夢中になってた。
 気付けばいつも目であいつを追っていて。
 複数の女と付き合うのも馬鹿らしくなってきた。
 どんなにいい女を抱いてても、思い浮かぶのはあいつの顔だ。そんな状態で、他の女と付き合えるはずがない。
 だけど、自覚すればするほど苦しくなっていった。
 あいつの傍には、いつも類がいて・・・・・2人の間には、見えない強い絆があって、それを断ち切ることなんか出来ないって・・・・・そう思ってたから・・・・・。

 「牧野つくしは、花沢さんを騙してるんですよ」
 そうあの女は言った。
 青白い顔をして、瞬きをしないその目はどこかイッちまってる感じだった。
「花沢さんと寝てるんです。体で、言うこと聞かせてるんです。あんな女、この英徳に通う価値もない女なんですよ」
 その言葉に、俺らしくなくキレた。
 類との関係を・・・・・・認めたくなかったのに、目の前に突きつけられたみたいだった。
「あんたが、牧野の何を知ってる?あいつのことを悪く言うのは許さない」
 じろりと睨みながら言うと、ビクリと明らかに動揺した様子だった。
「どうして庇うんです?あの女・・・・牧野つくしのことを、好きなんですか?」
「・・・・・ああ、そうだよ。俺は、牧野が好きだ」
 どうしてあの女にそんなことを言ってしまったのか・・・・・・
 あの女の、牧野を見下したようなその言い草に、頭に血が上ってしまったのかもしれない。
「どうして・・・・・西門さんは、たくさんの女の人と付き合ってるじゃないですか。牧野つくしもその中の1人ですか?あんな・・・・・ブスで、何の取り得もない女・・・・・西門さんの傍にいる資格なんてありませんよ」
「・・・・・・あんたに、そんなことを言われる覚えはない。他の、どこにでもいる女と一緒にするな。あいつはその辺の女とは違う」
 その言葉に、女の顔色がさっと変わった。
「俺の本命は、1人だけだから」
 その言葉に、真っ青になって震える女。

 まさか・・・・・
 思いつめたあの女が、牧野に危害を加えるなんて、思いもしなくて・・・・・・・

 「牧野が刺された!」
 類から連絡があったときには、目の前が真っ暗になった。
 刺したのがあの女だと、特徴を聞いてすぐに分かった。

 病院で、あいつの血の気の失せた顔を見て・・・・・・
 俺は、自分があの女に言ってしまったことを後悔した。
 俺が、あんなこと言わなければ・・・・・・
 あの女がまともじゃないことは、最初からわかっていたのに・・・・・

 目覚めないあいつを見て、俺が責任をとらなくちゃいけないって思った。
 ずっと傍にいて、あいつを守らなくちゃいけないって・・・・・。

 なのに目覚めた牧野は、頑なにそれを拒みやがる。
 
 類の傍にはいられるのに、俺はダメなのか。
 そう思ったら悔しくって・・・・・
 つい、その思いを吐露してしまった。
 そして、すぐに絶望的な気分になった。
 こんなこと言っても無駄なのに・・・・・
 こいつには類がいる。
 そう思って・・・・・・

 だから、牧野が俺を好きだと言っても、すぐには信じられなかった。

 類とのことが俺の誤解だとわかって、ほっとすると同時に・・・・・牧野の、無防備な状態に頭に来た。

 「毎日あんなとこで会って、2人きりでいれば誰だって誤解すんだろ!もうちょっと警戒心ってもんを持てよ!」
 安心して気が抜けて・・・・・
 それでもふつふつとそんな思いが湧きあがってきた俺は、勢いに任せて牧野を怒鳴った。
「な・・・・・何よ、警戒心って。だって、花沢類だよ?そんなもの必要ないじゃない!」
「お前、馬鹿か?類だって男だろうが!」
「そんなことわかって・・・・・・っ、いた・・・・・・っ」
 がばっと体を起こそうとして、牧野がその痛みに顔を顰め、脇腹を押さえた。
 俺は、はっとして牧野の傍に寄った。
「大丈夫か!?」
「だい・・・・じょぶ・・・・・」
 少し青い顔をしながらも、声を絞り出す牧野。
 俺は、牧野が押さえてる場所に目をやり、ほっと息をついた。
 傷は開いていないようだ・・・・・。
「悪い、つい・・・・・・。横になってろよ。まだ、動かない方がいい」
 俺はそっと、牧野の体をベッドに横たえた。
 牧野も少し落ち着き、こくりと頷いた。
「ん・・・・・ごめんね・・・・・」
「謝るな。今のは俺が悪い。つい、頭に来て・・・・・ずっと、類とのこと誤解してたから・・・・・。まさか・・・・・お前が俺のこと思っててくれてるなんて、思いもしなかった」
 俺の言葉に、牧野の頬が染まる。
 俺は、ベッドの横の椅子に座り、そっと牧野の手を握った。
 牧野は、一瞬ビクリとしたものの、おとなしくそのままになっていた。
「信じても、いいのか・・・・・?お前が、俺のこと好きだって・・・・・・」
 その言葉に、牧野はゆっくりと俺の方を向き・・・・・・
「信じて・・・・・。こんなこと、きっと普通じゃ言えなかった・・・・・ずっと・・・・・あたしじゃダメだって思ってたから・・・・・」
「牧野・・・・・・」
 そっと頬に触れると、牧野の体がピクリと震える。
 俺を見つめる瞳は潤んでいて・・・・・。
 その瞳に誘われるように、そっと唇を重ねたのだった・・・・・






  

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