side
soujirou
どっと力が抜けた。
全く・・・・・今まで悩んでた俺はなんだったんだ・・・・・・
牧野を見ると、きょとんとした表情で俺を見つめている。
それを見て、また溜息が出る。
牧野のことが好きだと、自覚したのはいつだったのか。 今ではそれもはっきりと思い出せない。 ただ、気付いたら夢中になってた。 気付けばいつも目であいつを追っていて。 複数の女と付き合うのも馬鹿らしくなってきた。 どんなにいい女を抱いてても、思い浮かぶのはあいつの顔だ。そんな状態で、他の女と付き合えるはずがない。 だけど、自覚すればするほど苦しくなっていった。 あいつの傍には、いつも類がいて・・・・・2人の間には、見えない強い絆があって、それを断ち切ることなんか出来ないって・・・・・そう思ってたから・・・・・。
「牧野つくしは、花沢さんを騙してるんですよ」 そうあの女は言った。 青白い顔をして、瞬きをしないその目はどこかイッちまってる感じだった。 「花沢さんと寝てるんです。体で、言うこと聞かせてるんです。あんな女、この英徳に通う価値もない女なんですよ」 その言葉に、俺らしくなくキレた。 類との関係を・・・・・・認めたくなかったのに、目の前に突きつけられたみたいだった。 「あんたが、牧野の何を知ってる?あいつのことを悪く言うのは許さない」 じろりと睨みながら言うと、ビクリと明らかに動揺した様子だった。 「どうして庇うんです?あの女・・・・牧野つくしのことを、好きなんですか?」 「・・・・・ああ、そうだよ。俺は、牧野が好きだ」 どうしてあの女にそんなことを言ってしまったのか・・・・・・ あの女の、牧野を見下したようなその言い草に、頭に血が上ってしまったのかもしれない。 「どうして・・・・・西門さんは、たくさんの女の人と付き合ってるじゃないですか。牧野つくしもその中の1人ですか?あんな・・・・・ブスで、何の取り得もない女・・・・・西門さんの傍にいる資格なんてありませんよ」 「・・・・・・あんたに、そんなことを言われる覚えはない。他の、どこにでもいる女と一緒にするな。あいつはその辺の女とは違う」 その言葉に、女の顔色がさっと変わった。 「俺の本命は、1人だけだから」 その言葉に、真っ青になって震える女。
まさか・・・・・ 思いつめたあの女が、牧野に危害を加えるなんて、思いもしなくて・・・・・・・
「牧野が刺された!」 類から連絡があったときには、目の前が真っ暗になった。 刺したのがあの女だと、特徴を聞いてすぐに分かった。
病院で、あいつの血の気の失せた顔を見て・・・・・・ 俺は、自分があの女に言ってしまったことを後悔した。 俺が、あんなこと言わなければ・・・・・・ あの女がまともじゃないことは、最初からわかっていたのに・・・・・
目覚めないあいつを見て、俺が責任をとらなくちゃいけないって思った。 ずっと傍にいて、あいつを守らなくちゃいけないって・・・・・。
なのに目覚めた牧野は、頑なにそれを拒みやがる。 類の傍にはいられるのに、俺はダメなのか。 そう思ったら悔しくって・・・・・ つい、その思いを吐露してしまった。 そして、すぐに絶望的な気分になった。 こんなこと言っても無駄なのに・・・・・ こいつには類がいる。 そう思って・・・・・・
だから、牧野が俺を好きだと言っても、すぐには信じられなかった。
類とのことが俺の誤解だとわかって、ほっとすると同時に・・・・・牧野の、無防備な状態に頭に来た。
「毎日あんなとこで会って、2人きりでいれば誰だって誤解すんだろ!もうちょっと警戒心ってもんを持てよ!」 安心して気が抜けて・・・・・ それでもふつふつとそんな思いが湧きあがってきた俺は、勢いに任せて牧野を怒鳴った。 「な・・・・・何よ、警戒心って。だって、花沢類だよ?そんなもの必要ないじゃない!」 「お前、馬鹿か?類だって男だろうが!」 「そんなことわかって・・・・・・っ、いた・・・・・・っ」 がばっと体を起こそうとして、牧野がその痛みに顔を顰め、脇腹を押さえた。 俺は、はっとして牧野の傍に寄った。 「大丈夫か!?」 「だい・・・・じょぶ・・・・・」 少し青い顔をしながらも、声を絞り出す牧野。 俺は、牧野が押さえてる場所に目をやり、ほっと息をついた。 傷は開いていないようだ・・・・・。 「悪い、つい・・・・・・。横になってろよ。まだ、動かない方がいい」 俺はそっと、牧野の体をベッドに横たえた。 牧野も少し落ち着き、こくりと頷いた。 「ん・・・・・ごめんね・・・・・」 「謝るな。今のは俺が悪い。つい、頭に来て・・・・・ずっと、類とのこと誤解してたから・・・・・。まさか・・・・・お前が俺のこと思っててくれてるなんて、思いもしなかった」 俺の言葉に、牧野の頬が染まる。 俺は、ベッドの横の椅子に座り、そっと牧野の手を握った。 牧野は、一瞬ビクリとしたものの、おとなしくそのままになっていた。 「信じても、いいのか・・・・・?お前が、俺のこと好きだって・・・・・・」 その言葉に、牧野はゆっくりと俺の方を向き・・・・・・ 「信じて・・・・・。こんなこと、きっと普通じゃ言えなかった・・・・・ずっと・・・・・あたしじゃダメだって思ってたから・・・・・」 「牧野・・・・・・」 そっと頬に触れると、牧野の体がピクリと震える。 俺を見つめる瞳は潤んでいて・・・・・。 その瞳に誘われるように、そっと唇を重ねたのだった・・・・・
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