「何言ってるの?迷惑とかそういうことじゃなくて、西門さんが責任感じることないって言ってるの」 「だから、俺の責任なんだよ」 「意味わかんないよ。どういうこと?」 「・・・・・彼女との話、全部は聞いてないんだな」 「え・・・・・」 「あの女は、最初からお前のこと疑ってたんだよ。お前も知ってるだろ?牧野つくしがF4をたぶらかしてるって噂」 「うん。でも・・・・・」 「あの女に聞かれた。牧野つくしが好きなのかって。まともに答える気なんかなかった。だけど・・・・・あの女にお前の悪口、あること無いこと言われて、つい、こっちもムキになっちまった」 言いづらそうに目を反らす西門さん。 「なんて言ったの?」 「俺は・・・・・牧野が好きだって」
「―――は?」 今、なんて? 丸一日寝てて、耳までおかしくなってしまったのかと思った。 「なんで・・・・・そんなこと・・・・・」 「あの女に・・・・・お前が類の家の財産を狙って、類を誘惑してるって・・・・・類と寝て、類を操ってるんだって言われて、カッとなっちまった」 「・・・・・いろいろ言われることには慣れてるよ。そりゃ、頭には来るしあたしがその場でそれ聞いたら殴ってたかもしれないけど・・・・・だからって西門さんがムキにならなくても・・・・・」 「違う」 「違うって・・・・・」 「俺が頭に来たのはお前の悪口を言われたからじゃない。お前と類が・・・・・関係あるって言われたからだ」 そう言ってぷいっと顔を背ける西門さん。 その頬には微かに赤みが挿しているようにも見えた。
―――どういう意味?
「もし本当に関係があったとしても、そんな話を聞きたくなかった。だから・・・・・」 「よく・・・・・わからないんだけど・・・・・なんで聞きたくないの?いつも、西門さんだってあたしのことからかうくせに」 「だからそれは!」 「それは?」 あたしが首を傾げると、西門さんはがっくりとうなだれ、大きな溜め息をついた。 「は―――っ、もうやだ。いい加減気付けよ」 「だから、なんのこと?ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ」 「さっき言っただろ?」 「え?」 あたしが聞き返すと、西門さんは顔を上げ、あたしを見つめた。 その顔があまりに真剣で・・・・・あたしの心臓が落ち着かなくなる。 「好きなんだよ」 「・・・・・え?」 「お前が好きなんだ。だから・・・・・類とのこと、わかってても、認めたくねえんだよ」
声が、出てこない。 西門さんの声がどこか遠くから聞こえてるみたいで・・・・・
西門さんが、あたしを好き? まさか・・・・・
しばらく黙ってあたしを見つめていた西門さんが、しびれをきらしたように口を開いた。 「―――いい加減、なんか言ってくんねえ?俺、一応告白してるんだけど」 「え・・・・・と、あの・・・・・嘘でしょう・・・・・?」 「じゃねえよ。こんなこと、お前に嘘言ってどうすんだよ。しかも振られるってわかってて・・・・・ありえねえよ」 「ちょっと待ってよ。なんであたし何も言ってないのに振られることになるの?」 あたしの言葉に、今度は西門さんが目を丸くする。 「だって、そうだろ?お前は類と・・・・・」 「だから!それは違うって言ってるじゃない!」 「付き合って・・・・・ないのか?」 「何度もそう言ってるでしょ」 「・・・・・照れてるだけだと思ってた・・・・・」 「誤解しないでよ」 「じゃ・・・・・なんで俺が傍にいるのを嫌がるわけ?襲われたのは俺のせいなんだから、当たり前のことだろう?」 「それが嫌なの!」 「は?」 あたしは、ゆっくりと息をついた。 「そんなふうに・・・・・責任感で傍にいて欲しくない・・・・・。だってそれなら、あたしの傷が治ったら・・・・また離れちゃうから・・・・・」 西門さんの目が見開かれる。
手が、震える。 うまく言葉が出てこない。 だけど・・・・・・ 今、言わなきゃいけない気がした・・・・・
「あたし、西門さんが好きだよ。ずっと、好きだった・・・・・。でも、西門さんにとってあたしは女の子じゃないと思ってたから・・・・・振られるのが怖くて、言えなかった」 一気に告げたあたしの思い。 言葉にすることなんて、ないと思ってた。 言葉にしてしまったら、壊れてしまいそうで、言えなかった思い・・・・・
暫くして、西門さんがポツリと呟いた。 「・・・・・嘘だろ・・・・・?」 「何で嘘なの?それこそ、あたしがそんな嘘言ったってしょうがないじゃない。この状況で・・・・・」 「だって・・・・・お前、毎日のように類とあの非常階段で会ってただろ?それに、司と別れたのだって・・・・・」 「道明寺と別れたのは、あたしはあいつとは結婚できないと思ったから・・・・・たくさんやりたいことがある。そのどれも、道明寺の家に入ったら出来ないことだって思った。それでも前は、それよりも道明寺に対する思いが強かったからやっていけると思ってた。あいつが本当に好きだったから、その思いだけで十分だって。でも・・・・・離れてるうちに、だんだん変わっちゃったのよ。あたしの思いも・・・・・・道明寺の思いも・・・・・・お互い、もう『好き』って気持ちだけで繋がってることは無理だって思ったの。だから、別れた・・・・・・。類のことは関係ないよ。毎日会ってたのは・・・・・類に、フランス語を教えてもらってたから」 「フランス語?」 「そう。あたし今、フランス語を専攻してて・・・・・結構好きなんだ。でも難しくて・・・・・だから、類に本とか借りて勉強してたの。いずれ、フランス語の翻訳とか、できるようになりたいなって思って・・・・・だから・・・・・」 あたしの話を聞いているうちに、西門さんの表情が困ったような、気の抜けたようなものに変わっていった・・・・・・。
「お前・・・・・・そういうこと、もっと早く言ってくれよ・・・・・・」
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