***傍にいて vol.2***



 目が覚めた時、あたしの目に飛び込んで来たのは白い天井だった。
「牧野」
 声の方を見ると、そこには心配そうな顔をしてこっちを見る花沢類がいた。
「花沢、類。ここ・・・・・どこ・・・・・?」
「病院だよ。何があったか、覚えてる?」
 花沢類の言葉に、あたしはゆっくりと首を振った。
 どうして病院なんかにいるんだろう?
 あたしは体を動かそうとして、脇腹の辺りに鋭い痛みを感じて顔をしかめた。
「たっ」
「まだ動いちゃ駄目だよ。傷が開いちゃうから」
「・・・・・傷?」
「・・・・・牧野、刺されたんだよ」
 類の言葉に目を見開く。
「刺された!?誰に!?」
 類がそれに答えようと口を開いた時、病室のドアが開いた。
「お、牧野、気がついたのか」
 顔を出したのは美作さんだった。
「気がついたって!?」
 続いて美作さんを跳ね飛ばしそうな勢いで飛び込んで来たのは西門さんだった。
「牧野・・・・・」
 その顔は青ざめて、目も血走っているように見えた。
「西門さん?どうしたの?そんなに慌てて・・・・・」
「・・・・・牧野」
 首を傾げるあたしに、類が言った。
「牧野を刺した女、覚えてない?」
「そう言われても・・・・・」
 刺されたということも、信じられないくらいなのだ。
「じゃあ、その前のことは?総二郎と会ったこと、覚えてる?」
「西門さんと・・・・・?」
 あたしはゆっくりと西門さんに視線を移し・・・・・
 じっとあたしを見つめたままの西門さんを見て考えた。
 何か、あった気がする。
 なんだったっけ・・・・・?
「総二郎と、女が一緒にいるところを見なかった?」
「あ・・・・・」
 そうだ・・・・・
 西門さんが、女の人と話してた。なんだか聞いちゃいけない話を聞いちゃったみたいで、慌てて隠れたんだ・・・・・
「牧野を刺したのは、その女だよ」
「―――え」
 類の言葉を聞いて・・・・・
 突然、あたしの脳裏に記憶が蘇ってきた。

 沈んだ女の声。
 西門さんのそっけない態度。
 類の笑顔。

 それから・・・・・

 そうだ。車のキーを渡すために類を追いかけて・・・・・
 誰かがぶつかって来た。
 それはあたしの全然知らない人で・・・・・
 知らない?
 ううん、違う。
 彼女だ。
 後ろ姿しか見てなかったからわからなかった。
 あの時、西門さんと一緒にいた・・・・・

 「じゃあ、あの時の人があたしを・・・・・?」
「思い出した?」
 類の言葉に、あたしは頷いた。
「牧野と総二郎が一緒にいるのを見て、誤解して・・・・・ってことらしい」
 そうか、だから・・・・・
 あたしはもう一度、西門さんを見た。
 だから、あんな顔を・・・・・

 「その女はもう捕まったから、もう牧野が襲われることはないよ。ただ、牧野も警察に何か聞かれると思うけど・・・・・大丈夫?退院してからにしてもらおうか」
「え・・・・・」
「覚えてないだろうけど・・・・・丸一日眠ってたんだよ。幸い傷は浅くて済んだけど・・・・・あと2、3日は安静にしてた方がいい」
「丸一日・・・・・そっか。じゃあ、昨日はバイト休んじゃったんだ・・・・・」
「牧野」
 突然、それまで黙っていた西門さんが口を開いた。
「すまなかった・・・・・俺のせいで」
 そう言って頭を下げる西門さん。
「何言ってるの。西門さんのせいじゃないよ。彼女が勝手に勘違いしたんでしょ?そんなの・・・・・しょうがないじゃん」
 あたしは西門さんの顔を見てるのが辛くて、目を反らした。
「牧野・・・・・」
 西門さんが何か言いたげにあたしを見る。
 と、そんな様子を察したのか、類が座っていた椅子から立ち上がった。
「飲み物でも買ってくるよ。あきら、付き合って」
「ああ」
 2人が連れだって出て行ってしまうと、途端に気まずい空気が2人を包む。
「牧野」
「だ、大丈夫だよ、あたしなら。傷も浅いらしいし、何しろ丈夫に出来てるんだから。そんな顔、しないでよ。西門さんのせいだなんて、思ってないから」
「俺のせいだ」
「違うってば!」
 思わず大きな声を出してしまう。
「牧野・・・・・」
「責任なんて、感じなくていいから・・・・・」
 同情なんていらない。
 単なる責任感なんかで側にいて欲しくない。
 そんなの・・・・・
 辛くなるだけだ。

 「そんなに・・・・・嫌か」
「え?」
「俺がお前の側にいるのはそんなに迷惑なことか?」
 まるで怒ってるみたいに不機嫌そうなその表情に、あたしは戸惑った・・・・・。




  

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