***傍にいたい  vol.6 〜総つく〜***



 -soujirou-

 青白い顔の、どこか宙を見つめているようなその女は、俺たち2人を交互に見ていた。

 牧野の手が、俺の腕にそっと触れた。

 その手が微かに震えていて、おれははっとして牧野を見た。

 唇をきゅっと結び、目の前の女を見つめるその瞳は潤み、額には汗が浮かんでいた。

 俺が牧野の手を掴むと、牧野ははっとしたように俺を見上げた。
「大丈夫だから」
 俺はそう言ってちょっと笑って見せると、牧野を背に隠すように女の前に立った。

 「―――なんでここにいる?」
 俺の言葉に、女が微かに笑みを浮かべた。
「―――ここにいたらきっと・・・・・あなたが来てくれるって、思ってました」
「俺が・・・・・?」
 今日俺がここに来ることは、誰にも言ってない。
 大体、俺自身さっき思いついてここに向かったのだから、それを牧野以外の誰かが知っているわけがない。
「あなたに、会いたかった・・・・・・。ずっと、あなたのことだけを思ってた・・・・・」
 瞬きをしない瞳。
 青白い顔に笑みを浮かべ、まるで自分自身に言い聞かせるように呟かれる言葉が、背筋を凍らせるほど冷たく響いた。
「牧野に・・・・・・何をした・・・・・?」
「知ってます・・・・・牧野つくしと付き合ってること・・・・・・。あなたは、騙されてるんです、牧野つくしに・・・・・。早く・・・・・早く気付かせてあげたくて・・・・・」
 女が一歩、俺に近づく。

 俺はそれに合わせて、一歩後ずさった。

 「牧野つくしが生きている限り、その女の呪縛からあなたを解き放ってあげることはできない・・・・・。あなたも、あの花沢類さんも・・・・・・F4は牧野つくしにとりつかれてる・・・・・」
 女の言葉に、俺は息をついた。
「どっちかって言うと、俺はあんたにとりつかれてるって気がするけどな・・・・・。牧野に取り付かれてるんなら大歓迎だ」
 俺の言葉に、女がピクリと反応する。
「早く気付かないと・・・・・手遅れになるわ・・・・・牧野つくしは・・・・・悪魔よ・・・・・!」
 女の言葉に、牧野の体が大きく震える。
「止めろ。それ以上牧野を侮辱することは、この俺がゆるさねえ」
 俺が睨みつけると、女の表情が微かに変わった気がした。
「あなたを救えるのは、このわたしだけ・・・・・・。わたしが牧野つくしをあなたから引き離してあげれば、あなたは自由になれる・・・・・。自由になれば・・・・・あなたはわたしと・・・・・・」

 「ふざけるな!!」

 思わず声を荒げた俺に、女がびくりと体を震わせる。
「西門さん・・・・・」
 俺の腕を不安げに掴む牧野。
「牧野は、俺にとって一番大事な女だ。牧野以上に大切なものなんかねえ。もしも牧野を俺から奪いやがったら・・・・・俺はあんたをゆるさねえ。いいか、俺はあんたと一緒になるつもりなんかこれっぽっちもねえ。牧野に・・・・・俺の女に、二度と近づくな!!」

 女の体が大きく震え、顔色が変わる。

 目を大きく見開き、蒼白になった顔に赤い唇も震えだす。

 「あなたは・・・・・騙されてるのに!!」

 女が、持っていたバッグの中からナイフを取り出した。

 牧野が、はっと息を呑む。
「―――牧野、お前は逃げろ」
「そんなこと、できない!」
「馬鹿!こいつの狙いはお前だ。また刺される前に・・・・・警察に知らせろ」
「いや!あんたこそ馬鹿じゃないの!?もしあんたが刺されたらどうすんのよ?あたしがあんたのこと思い出す前に死んだら、あたし花沢類のとこに行っちゃうかもよ?いいの!?」
「はあ!?お前、何言って―――!」
 思わず俺が牧野のほうに向き直ったその瞬間。

 女が動くのが見えた。

 ナイフを手に、こっちに突っ込んでくる。

 頭で考える前に、体が動いてた。

 足を蹴り上げ、女の手を掠める。
「あ!!」
 女が手を押さえ、ナイフが音を立てて落ちる。

 慌ててそのナイフを拾い上げようと手を伸ばしたとき―――

 牧野が俺を押しのけたかと思うと、そのナイフを蹴り飛ばした―――。
「そう何回も襲われるほど、間抜けじゃないんだから!!」
「牧野つくし!!あんたさえいなければ!!」
 止める間もなく、女が牧野に掴みかかる。
「やめろ!」
 俺は女と牧野の間に割り込み、2人の体を引き離した。

 女の両肩を掴み、その顔を間近に見る。

 女がはっとしたように目を見開き俺を見た。

 「―――これ以上、牧野を傷つけないでくれ―――。俺の・・・・・・大事な女なんだ・・・・・」

 女の瞳が揺れた、その瞬間―――

 わき腹に、刺すような痛みを覚え、俺は息を呑んだ。

 「きゃああっ!!西門さん!!」

 牧野の叫び声。

 女が俺から離れる。

 遠くのほうから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 わき腹に触れると、ぬるりと冷たい感触。

 目の前に持ってきた手についていたのは・・・・・・・

 俺の、血だった・・・・・・






  

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