-tsukushi-
「冗談じゃないっつーの!!」 小さな声で叫ぶ。 という矛盾した状況。 せっかく大学にやってきたのに、入れない状況なのだ。
大学の門の周りにはカメラを構えた記者たちや目を三角にした女の子たち・・・・・。
一度そこまで行ったあたしはあっという間に彼らに囲まれ、フラッシュの嵐と怒号、それから訳のわからない質問攻めに会い、一目散に逃げてきたのだ。
『花沢類さんと結婚なさるんですか!?』 『西門総二郎さんと婚約したんじゃなかったんですか!?』 『二股かけてるんですか!?』 『道明寺司さんともまだ続いてるとか』 『誰が本命なんですか!?』
「いったい何だっつーのよ・・・・・」 溜息と共に呟かれた言葉に、後ろから突然答える声が。 「お前、しらねーの?」 驚いて振り向くと、そこには西門さんと美作さんが。 「びっくりした!何でここに?」 あたしの言葉に、西門さんが肩をすくめる。 「騒がしくってかなわねえからふけて来た」 「そこのさてんに2人でいたら、お前がきたのが見えたんだよ」 そう言って美作さんが顎でくい、と路地の奥に見える喫茶店を指した。 「とりあえず来いよ。説明してやっから」 そう言って西門さんに腕を引っ張られ、あたしは2人と一緒に喫茶店へと向かったのだった。
「ほら、見ろよ」 テーブルに着くなり、開いて寄越された写真週刊誌。 そこに写っていたのは、路地裏でキスをするあたしと花沢類の姿で・・・・・。 「―――いつの間に!」 呆気にとられるあたしを、呆れたように見る美作さん。 「まったく、話題にこと欠かないやつだよな。類のやつも最近週刊誌なんかで取り上げられること多くなってきたし総二郎だってそうだ。その2人の相手なんだから狙われて当然。格好のネタだろ」 「ちょっと、2人の相手って何よ。西門さんのは間違いだったんじゃない」 「世間はそう思ってない。世間から見たらどう考えても三角関係としか思えねえだろ」 「そんな―――」 「類からは、何も言ってきてないのか?」 西門さんの言葉に、あたしは首を振った。 「何も。今日はずっと仕事で、約束もしてないし―――」
そのとき、あたしのバッグから携帯の着信音が鳴り響いた。 「類じゃねえの?」 美作さんの言葉に、西門さんも頷く。 あたしは慌ててバッグから携帯を取り出し、耳に当てた。 「もしもし」 『牧野?』 やっぱり類だった。 「類、あの写真―――」 『もう見た?そのことで、話があるんだ。今から来れない?』 「え・・・・・どこに?」 『迎えに行かせる。今どこ?大学?』 「えっと、大学の傍の喫茶店。名前は―――」 「Mint」 隣で西門さんが答える。 「ミントだって」 『―――今の、総二郎?一緒にいるの?』 「あ、うん。美作さんも一緒」 『ふーん・・・・・。とりあえず、今からそこに迎えをやるから、車が来たら乗って』 微かに、低くなる類の声。 西門さんとの写真を撮られてからというもの、妙に西門さんを警戒する類。 その空気を感じたのか、西門さんが隣で苦笑していた。
「類と会うのか?」 電話を切ると、西門さんがそう聞いた。 「うん。話があるって」 「その話って、もしかして―――」 美作さんが、顎に手をやりながら口を開いた。 「なに?」 「今朝聞いた話。類の両親が、今日帰国するって」 その言葉にぎょっとする。 「ええ!?」 「確か、こっちへ戻ってくるとき親を説得するのにだいぶ時間がかかったようなこと言ってたよな」 西門さんの言葉にあたしは青くなる。 「どうしよう、あの週刊誌を見たら―――」 西門さんと美作さんが、顔を見合わせる。 「ま、いずれは分かることだろうしな」 にやりと笑う美作さん。 心配してるというより、楽しんでるという表情だ。 「あ、わりいけど俺、この後デートだから行くわ。じゃあな、がんばれよ、牧野」 そう言って席を立ち、美作さんはさっさと店を出て行ってしまった。
「・・・・・相変わらず忙しい人だね。西門さんはいいの?」 そう言って隣の西門さんを見ると、ちらりと横目であたしを見て、肩をすくめた。 「俺は暇だから。車が来るまで付き合ってやるよ。ま、こんなとこまた写真に撮られでもしたら類に怒られるんだろうけどな」 「類は、西門さんのこと疑ったりしないよ」 あたしの言葉に、西門さんはちょっと笑った。 「だといいけどな。あいつ、お前に関しちゃめちゃくちゃ疑り深くなる傾向にあるからよ」 「そうかなあ。ちょっと拗ねてるだけだと思うけど」 「へえ、あいつが拗ねてるってことはわかるのか。お前も成長したな」 冷やかすような口調に、ちょっとカチンと来るけれど。 そんなふうにからかいながらも、いつも心配してくれてるんだよね、この人は。 「うっさいよ。それより、話ってなんだろう」 「さあな。類のことだ、何か考えがあるんだろ。大丈夫だって。あいつが、お前を苦しめるようなことするはずねえんだから」 そう言って、にっこりと微笑む。 なぜだか、西門さんのこの笑顔を見るとほっとする。 この人の笑顔を見てほっとするなんて、高校生のときだったら考えられなかったことだ。 何か裏があるんじゃないかと思って、2、3歩後ずさるところだけど。 最近は・・・・・ 「西門さん、なんか変わったよね」 あたしの言葉に、西門さんが目を瞬かせる。 「は?俺?」 「うん。なんか、丸くなったって感じ?」 一瞬の間のあと―――
西門さんが破顔して、ぷっと笑った。 「なんだそりゃ」 「だって、高校生のときに比べたら―――」 「あー・・・・・かもな。でもそりゃあ、もしかしたらお前のおかげかもな」 「へ?あたし?」 不思議に思って首を傾げると、西門さんはまた優しい笑みをあたしに向けた。 「お前といると、楽しいよ」 なんだか声まで甘く感じられて、どきどきする。 そんなあたしを楽しそうに見つめて、西門さんはあたしの髪をクシャリと撫でた。 「なんかあったときには力になるから、俺を頼れよな」 優しく、包み込むような空気に、あたしも素直に頷いた。 「ありがとう、西門さん」 そのとき、店の外に黒塗りの車が止まったのが見えた・・・・・。
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