***スキャンダル 2 vol.1***



 -rui-

 正直言って、安心できるなんてこと一生ないんじゃないかと、そう思ってる。

 総二郎と牧野のスキャンダルから3ヶ月。
 俺はまたフランスへ行かなくてはならなくなった。
 それは最初からの約束で、3ヶ月間日本で過ごしたら、フランスへ戻るよう言われていたのだ。

 もちろんその前とは状況が違う。
 牧野の気持ちも確認できたし、俺たちはれっきとした恋人同士なのだから。
 だけど・・・・・

 取引先との商談で、相手が来るのを待っていたときにふと手に取った週刊誌。
 総二郎の記事が、載っていた。
 容姿端麗な茶道界の時期家元として、ここのところ週刊誌などで取りざたされることが多くなってきていた。
 記者との対談の中の一幕。

 『今年のお正月は、かわいらしい女性と初詣に行かれたそうですね』
 『大学の友達なんですよ』
 『とても仲むつまじそうに見えましたが』
 『そうですか?でもあの時、別の友人も一緒だったんですけどね』
 『そうなんですか。でもお写真を拝見する限り、ラブラブなカップルそのものという感じでしたよ』
 『それは、2人でいるところをわざわざ写しているからでしょう。彼女は大切な友人ですから』
 『噂によると、ご友人の花沢物産の御曹司と三角関係だとか』
 『まさか。彼も含め、僕たちはいい仲間ですよ」
 『恋愛感情はまったくないと?』
 『・・・・・それはどうかな。俺は全ての女性が恋愛対象だと思ってるから』

 牧野はあくまでも友人と言い切る総二郎に食い下がる記者。
 最後には、結局否定せずに含みを持たせて終わっている。

 総二郎が、牧野に単なる友達以上の感情を持っていることには気付いている。
 牧野のほうはまったく気付いていないが・・・・・
 
 このまま牧野を残してフランスへ戻るのには、やはり不安があった。
 そうは言っても牧野をフランスへ無理やり連れて行くわけにも行かない。
 もちろん牧野が着いてきてくれるというなら俺は喜んで連れて行くけれど・・・・・

 「げっ、これ、あたしのこと?やだ、せっかく最近周りが静かになってきたと思ったのに」
 総二郎の記事が載っているからと、使用人が気を利かせて俺の部屋に置いておいてくれたその雑誌を手に取り、牧野が顔を顰める。
「・・・・・嫌がらせ、されてたんだっけ?」
「ちょっとね。ま、いつものことなんだけどさ。でもこういう記事出ちゃうと、また嫌味言われちゃうなあ」
 げんなりしたように溜息をつく牧野。
「いっそのこと、俺と一緒にフランス行く?」
 俺の言葉に、牧野が驚いて目を見開く。
「フ、フランス?」
「そ。向こうで大学に通えば?」
「そ、そんなこと―――」
「住むところだって気にしなくていいんだよ」
「え・・・・・」
「婚約して、同棲しちゃえばいいよ」
「ちょ―――待ってよ、急になに言ってるの?」
 目を白黒させる牧野に、俺はちょっと息をついた。
「―――牧野は、平気?」
「何が?」
「俺がまたフランスへ行っても。たぶん、また1年は戻って来れない。その間・・・・・会えなくても、牧野は平気?」
 俺の言葉に、牧野は戸惑ったように首を傾げた。
「寂しいよ、それは。でも、それが類のお仕事なんだし・・・・・それに、会えなくても電話で話したり、メールも出来るでしょ?1年なんて、きっとあっという間。そう思えば・・・・・」
「・・・・・俺は、我慢できないよ」
「え・・・・・」
「牧野に会えなくなるのは、もう嫌なんだ。いつでも傍にいたい。手を伸ばせば触れられる距離に―――」
 
 俺は手を伸ばし、牧野の腰を引き寄せるとそのまま勢いに任せて唇を奪った。

 驚いて開きかけた唇の隙間から、舌を滑り込ませ深く口付ける。

 牧野の手が、俺の袖口をきゅっと掴むその仕草にまたそそられ、何度も熱いキスを繰り返した。

 漸く開放したときには、頬を紅潮させ、潤んだ瞳で俺を睨みつけていた。
「・・・・・そういう可愛い顔を、他のやつに見せたくないんだ」
「かわいくなんか、ないし。そんなふうに言ってくれるの、類だけだもん」
「・・・・・だとしても、心配なんだ。1人にしておけない」
 腕の中に閉じ込めると、困ったように俺を見上げる。
「我侭って言われてもいいよ。1年前は、牧野の気持ちが整理できてないなら仕方ないと思って我慢した。でも今は・・・・・もう、我慢する必要、ないよね?」
「・・・・・駄々っ子みたい・・・・・。花沢類って、そんなキャラクターだったっけ?」
「俺も、自分は我慢強い方だって思ってたけどね。牧野と関わるとそれも難しくなる」
 そう言って苦笑する俺を、牧野は不本意そうに見つめたのだった・・・・・。


 翌日。
 まだ自宅で寝ていた俺の元へ、田村が慌てて駆け込んできた。

 「類様!これをご覧ください!」
 そう言って俺に見せたのは、薄っぺらい写真週刊誌で・・・・・
「これ・・・・・何・・・・・?」
 目を擦りつつ、その写真を見た。

 そこに写っていたのは、路地裏で、一目を避けるようにキスをする2人の男女―――

 俺と、牧野だった・・・・・








  

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