***スキャンダル 2 vol.3***



 -rui-

 始めは道明寺司。
 そして西門総二郎。
 それから花沢類。

 3人の男と浮名を流した女、牧野つくし。

 相当悪い女みたいだな、これじゃ。

 俺は週刊誌の記事を読みながら、苦笑した。

 「類様、牧野様をお連れしました」
 ノックの音と共に田村の声が告げる。
「入って」

 扉が開き、田村と牧野が部屋に入ってきた。
「では、わたしは手配の方に回りますので」
 一礼し、田村が出て行く。
 その姿を戸惑ったように見送って。
「ねえ、手配って?このホテルで、何かあるの?」
 都内の高級ホテル。
 そのスイートルームに俺たちはいた。
 広い部屋できょろきょろと落ち着かない牧野。
 俺は立ち上がると、牧野の前に立った。
「今日、両親がここへ泊まることになってる」
「え・・・・・」
「両親に、牧野を紹介するつもりだよ」 
 俺の言葉に、牧野は目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って。急にそんなこと―――。それにあの、週刊誌の記事。あんなのご両親が見たら、怒るんじゃ・・・・・」
「それが、そうでもないんだ」
「え?」
「とりあえず、座って話そう」
 そう言って、俺は牧野の手を引きソファーに並んで座った。

 「今朝、電話があった」
 牧野の手を握りながら、落ち着いて話す俺を、じっと見ている牧野。
 その瞳は不安に揺れていて、早くその不安を取り除いてやりたかった。
「飛行機の中で、週刊誌を見たって。牧野のことは話してたから・・・・・喜んでたよ、うまくいってるんだって」
「え・・・・・本当に?」
「うん。日本へ帰って来るとき―――両親に言われたことがあったんだ。そんなに好きな相手なら、ものにしてみろって。それが出来たなら、俺を一人前と認めてやるって」
 俺の言葉に、牧野は口をぽかんと開け、呆気にとられていた。
「でも話の流れっていうか、勢いで出てきた言葉だし、俺も忘れてたんだけどね。でも、向こうは覚えてて・・・・・いっそのこと、婚約発表しようって」
「こ、婚約発表!?」
「うん。結婚するのは牧野が大学を卒業してからでいいけど、婚約くらいはしてもいいんじゃないかって。何しろ、目を離すとすぐに変な虫が寄ってくるお嬢さんみたいだからって」
「変な虫って―――」
 牧野の顔が引き攣る。
「牧野が司と付き合ってたことも、総二郎と写真撮られたことも知ってるんだ」
「うひゃ」
「でも、何でだかそれがうちの親にはツボだったらしくて、会ったこともないくせに『あのお嬢さんならいい』なんて言ってたよ」
 軽く笑って言う俺を、呆気に取られ見つめる牧野。
「なんだか、話についていけないんだけど・・・・・それって、喜んでいいこと、だよね?」
 牧野の言葉に、俺は頷いた。
「もちろん。で、これから記者会見だから」
 と言った俺の言葉に、また固まる牧野。

 たっぷり1分経ってから

 「はあ!?」

 と、素っ頓狂な声を上げたのだった。

 
 「ねえ!待ってよ!嘘でしょ?信じらんない!」
 呆気に取られていた牧野を強引にオフホワイトのワンピースに着替えさせ、会場に向かって牧野の手を引き歩いていく俺。
「もう準備は整ってるから。牧野は、俺の隣にいてくれればいいよ」
「そんな!だってあたしまだ、類のご両親にだって会ってないのに―――!」
「だから、そこで会えるから」
「そこでって―――」
「この会場に来てるから。大丈夫。段取りはもう決まってるし」
「決まってるって―――類!ねえ、類ちょっと待って!」
 ぐいっと手を引っ張り返され、俺は足を止めた。
 振り向くと、牧野が困ったように眉間に皺を寄せ、俺を見つめていた。
「急にこんなの―――あたし、着いていけないよ」
「―――同じことだよ」
「え?」
「俺はもう、牧野を離すつもりはない。婚約とか、結婚とか、本当はいつだっていい。でも、相手は牧野以外にはありえない。それだけは絶対に変わらない。だから、もし今婚約しないとしても、いずれはすることになる。今でも、1年後でも、それは変わらない。だったら、早くしちゃった方が後が楽」
「楽って・・・・・そんな考え方―――」
「それに―――ここで、牧野と俺の婚約が決まれば、おれはまたずっと日本にいられる」
「え・・・・・?」
 俺の言葉に、驚き目を見開く牧野。
「それ・・・・・どういうこと?」
「牧野がフランスへ着いてくるならともかく―――日本に残って大学を卒業したいと思っている以上、無理やり連れて行くことはできない。そう言ったら、父親が言ったんだ。『それなら、日本にいて彼女のそばにいればいい』ってね。俺も、父親がそんなこと言うのには驚いたけど・・・・・。どうやら、母親が勧めたらしいんだ。仕事は、日本でも十分できる。今はとにかく、2人を引き離すべきじゃないって。総二郎とのスキャンダルが、功を奏したって感じ?」
「じゃ・・・・・フランスには行かないの?」
「うん。行って欲しかった?」
 俺の言葉に、牧野がぶんぶんと首を振った。
「そんなわけ、ない!類と離れてることが、どんなに辛かったか・・・・・・あんな思い、もうしたくないって、そう思ってた。でも、類には類の仕事があって―――困らせたくなかった。仕事のお手伝いはあたしにはできない。だからせめて、邪魔したくないって―――」
 堰を切ったように、牧野の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「牧野・・・・・」
 ぽろぽろと流れる涙を、俺は指で掬った。
「そんなに泣いたら、化粧が落ちちゃうよ。これから会見なのに」
「だって―――」
「でも、良かった」
「え・・・・・?」
 涙で濡れた瞳が、俺を見上げる。
「牧野は・・・・・俺がいなくても、平気なのかと思った。俺が思うほど、俺のこと思ってるわけじゃないのかって・・・・・」
「そんなわけ、ない。あたしは―――」
「うん、わかってる」
 そっと、牧野を抱き寄せる。
「ちゃんと、思ってくれてるって、わかってる。だけど、不安になってたんだ。もう、俺が牧野から離れるなんて無理だから。こんな風に慌しくはしたくなかったけど・・・・・でも、今聞いて、牧野」
「・・・・・何?」
「俺と・・・・・結婚して欲しい」
 その言葉に、ゆっくりと顔を上げる牧野。
 揺れる瞳に、俺が映っていた。

 「・・・・・返事は・・・・・?」

 「・・・・・はい・・・・・」

 涙で濡れた頬を両手で包み込み、そっと唇を重ねる。

 涙の味がする、触れるだけのキス。

 そっと離すと、牧野は微かに微笑んでいて。

 「―――ちょっとだけ、化粧直す時間、ある?」
 その言葉に、俺も笑って頷いた。
「大丈夫。俺が、直してあげるから」
 そう言って、再び牧野の手を握り、歩き出す。

 今度は、牧野も俺の手を握り返し、一緒に歩き出した。

 ゆっくりと、2人の未来へと続く道を・・・・・。


                             fin.





お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪