***ルージュ vol.2***



 「・・・・・お前、もしかして妬いてんの?」
 あきらの言葉に、つくしの頬が赤く染まった。
「べべべ別に!」
 思わずどもってしまったつくしに、あきらが吹き出す。
「わかりやすいなあ、お前は」
 そんなあきらをむっとした顔で睨みつけるつくし。
「何よ、馬鹿にして」
 ぷいっと横を向くつくしを見て、あきらは目を細めた。
「馬鹿だな」
「だから、そんなことわかって―――!」
 カッとなって怒鳴ろうとして―――
 あきらの優しい眼差しに会い、ハッとする。
「俺は、嬉しいのに」
「え・・・・・」
 言われた言葉に戸惑う。
「お前が、それだけ俺のこと思ってくれてるってことだろ?」
「それは・・・・・」
「あんなの、気にすることねえよ。単なる雑誌の撮影なんだから」
「・・・・・わかってる。でも、すごく似合ってた。やっぱり、美作さんにはああいうきれいな人とか、桜子みたいにかわいい子の方が似合うのかなって・・・・・」
 イジケ気味に呟くつくしを相変わらず嬉しそうに見つめるあきら。
「お前は、かわいいよ」
 あきらの言葉に、つくしは真っ赤になる。
「い、いいよ、そんなお世辞・・・・・あたしだって自分のことくらいわかってるもん」
「わかってねえよ。お前は」
 あきらの目は、真剣だった。
「そうやってやきもち妬いたり、俺のこと考えてくれるところが、かわいいって言ってんの」
「え・・・・・」
「あんなモデルなんかより、もちろん桜子よりも・・・・・俺にとってはお前が、最高にかわいい女だよ」

 まっすぐにつくしを見つめるあきらの眼差しが。
 あまりに優しくて、つくしは何も言えなくなってしまった。

 「あ、そうだ。撮影で思い出した。これ・・・・・」
 そう言って、あきらはジャケットのポケットの中から、小さな袋を取り出した。
「お前に似合いそうだったから、買って来た。やるよ」
 差し出されたその袋を受け取るつくし。
「何・・・・・?」
「開けてみろよ」
「うん・・・・・」
 ピンクのかわいらしいその袋をそっと開けてみる。
 中を覗き込んだつくしの瞳が大きく見開かれる。
「口紅・・・・・?」
 中に入っていたのは、銀色の口紅だった。
「その撮影の時、メイクのやつが持ってたんだ。そんときのモデルには似合わないからって使われなかったんだけど・・・・・ちらっと見て、お前に似合いそうだなって思ったんだ」
 袋の中からそれを取り出し、キャップを開けてみる。
 つくしの目に飛び込んで来たのは、今日見た桜草のような、可憐なピンクの口紅だった・・・・・
「かわいい・・・・・けど・・・・・あたしに、似合う?」
 首を傾げるつくしに、あきらは優しく笑った。
「ああ。そう思ったから買って来たんだ。今つけてみれば」
 言われて、戸惑った。かわいいピンク色。とても好きな色だけど、女の子らしい印象のその色は、自分には似合わないような気がしていたのだ・・・・・。
 じっと口紅を見つめていたつくしを不思議そうに見ていたあきらが、ふいにつくしの手から口紅を取った。
「つけてやるよ」
「え」
「ほら、こっち向け」
 あきらの繊細な手が、つくしの顎を捉える。
 間近に迫ったあきらの顔に、どきんと胸が高鳴る。
 あきらの手に握られた口紅が、ゆっくりつくしの唇を滑っていく。

 「・・・・・やっぱり、似合う。ほら」
 そう言って、窓の方へ向けられる顔。
 ガラス窓に写ったつくしの姿。
 唇に乗せられた可憐なピンクは、意外なほどつくしに似合っていた。
 普段よりも女の子らしく見える自分の姿に、つくしの頬が微かに染まる。
「どうよ?俺の目に狂いはねえだろ」
 得意気に見つめるあきら。
「あ・・・・ありがとう。こんな色・・・・・自分で選んだことなかった」
「だろ?いつも思ってたんだ。いつもしてる、地味めな口紅よりも絶対こっちの方が似合うって。あ、けど・・・・・」
「けど?」
 何か言いたげにつくしをじっと見つめるあきら。
 その視線に、つくしの心臓は落ち着かなくなる。
「それは、俺と会うとき限定にしろよ。少なくとも、合コンに行くときにはつけていくな」
 不機嫌に吐き出された言葉に、つくしはきょとんとする。
「ってか、合コンなんて行くなよ。何で俺っていう彼氏がいんのにそんなものに行くんだよ」
 溜息とともに言われ、つくしは目を見開く。
 
 ―――それって、もしかして・・・・・

 「それ・・・・・ヤキモチ・・・・・?」
 つくしの言葉に、あきらの頬が微かに染まった。
「悪いか・・・・・・ってか、今頃気付いたのかよ」
「だって、美作さんがヤキモチなんて・・・・・」
「あのな・・・・・俺だって嫉妬位する。お前、無防備だし・・・・・。心配しすぎで疲れるっつーの」
「あ・・・・・けど、別にあたしが合コン行っても・・・・・・」
 誰も寄って来ないし。
 そう続けようとして、あきらの強い視線に言葉を切る。
「んなことねえよ。お前は、自分のことわかってねえだけだ。俺が・・・・・惚れた女なんだぜ?いい女に決まってんだろ?」
 あきらの言葉に真っ赤になる。
「美作さん・・・・・」
「・・・・・誰にも、渡したくねえよ」
 すっと伸びてきた手に顎を捕らえられ、軽く口付けされる。
 呆気にとられてるつくしを見つめる、柔らかい眼差し。
 店内にいた女の子たちの、黄色い声が聞こえる。
 だけど、あきらにはそんなものは聞こえていないようで・・・・・・
「く、口紅、ついちゃってるよ・・・・・」
 あきらの唇に、ほんのりとピンク色が乗せられ、どこか色っぽかった。
「ん・・・・・。また、つけてやるよ・・・・・あとでな・・・・・」
 そうしてまた、重ねられる唇。

 何度も、何度も・・・・・・

 とれてしまった口紅は、またあきらの手によってつけられる・・・・・・

 あきらと会うとき限定の色。

 柔らかいキスに酔いながら・・・・・・・

 この口紅つけてたら、こうしてずっとキスしてくれるのかな・・・・・・・

 そんなふうに思っているつくしだった・・・・・



                           fin.







  

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