***Promise vol.4 〜総つく〜***



 -soujirou-

 牧野がこっちを振り返るのが見えた。

 何か言いたげな。

 そんな風に見えたのは気のせいだろうか。

 「くそっ」

 自分の車に戻ろうとして、携帯の着信音に気付く。

 一瞬牧野からかと思ったが、それは家からで。

 「はい。―――今いきます」
 思わず溜め息が漏れる。

 仕事をサボるわけにはいかない。

 俺は思いを振りきるように車に向かって歩き出したのだった・・・・・。


 「総二郎さんもそろそろ身を固める時期じゃありません?」
 親戚のうるさがたの叔母が愛想笑いを浮かべて言う。
「はあ」
 適当に誤魔化してしまおうかと、曖昧な相槌を打っていたが―――
「ええ、そろそろいい縁談がないかと思っているところですのよ」
 いつの間にか隣にいた母親が、口を挟んできてぎょっとする。
 寄りにも寄って、この叔母に―――
「まあ!それなら私に任せてくださいな。とってもいいお話があるのよ。早速来週あたり―――」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺は―――」
「あら、ぜひお願いしたいわ。いつまでも学生気分で遊んでいてもらっては困るわ。襲名前に話がまとまれば・・・・・」
「だからそれは―――」
「やあ、話が盛り上がってますな」
 母親と叔母の勢いにのまれそうになったとき、ふらりとやってきて間に入ったのは父親だった。
「あら・・・・家元」
 叔母が、明らかに邪魔者を見るような目で親父を見上げる。
「総二郎、そういえばお前には恋人がいたんじゃないのか?いつだったか、話をしていただろう」
 予想外の助け舟に、俺は一瞬驚いて言葉が出なかったが。
「あ―――はい。実は、今度父さんと母さんに紹介しようかと・・・・・」
「あら、恋人がいらっしゃるの?」
 叔母が、がっかりしたように俺を見る。
「恋人?単なる遊び友達じゃないんですの?あのお嬢さんについてはいろいろ話を聞いてますけれど」
 母親が、鼻で笑うように口の端を上げ、俺と父親を交互に見た。
「・・・・・彼女について、どんな話を知っているのかは知りませんが、俺にとっては大事な女性です。彼女を侮辱するようなことは言わないでください」
 俺の言葉に、母親の顔色がさっと変わる。
「まあまあ、その話はまた今度ということで。総二郎」
 父親に促され、席を外す。

 隣の部屋に入り、戸を閉めると父親がくるりと振り向いた。
「あまり、ことを荒立てるようなことは言うな。親戚を敵に回すと厄介なことになるぞ」
 父親の言葉に、俺は肩をすくめた。
「事を荒立てるつもりはないよ。ただ、母さんは牧野のことを噂だけで判断してるから。あいつのこと、何にもわかってない」
「まあ・・・・・いろいろ調べてはいるようだな。それもお前のためだと本人は思っているんだから、わかってやれ。ところで、その牧野さんとやらだが、いつわたしたちに紹介してくれるんだ?」
 その言葉に、俺は一瞬答えを迷った。
「近いうちに、連れて来ようと思ってるよ。ただ・・・・・牧野に辛い思いはさせたくないんだ。母さんが牧野のことをどう思ってるかは、大体わかってる。あいつを―――傷つけることになるんじゃないかと思って」
「・・・・・・ふむ。そうだな。わたしも実のところその牧野さんというお嬢さんについては何も知らんし・・・・・。だが、会ってみないことには知りようがないし、お互いに距離は縮まらんだろう」
「わかってるよ」
 俺が頭をかくと、父親はふっと楽しそうに笑った。
「お前が、そんな顔をするのを見るのは初めてだな。まあ、焦ることはない。縁談については断るよう母さんに言っておこう。お前が、牧野さんを連れてきてくれる日を楽しみにしてるよ」

 楽しそうに高笑いしながら部屋を出て行く父親。
「ったく・・・・・」
 思わず溜息が漏れる。
 だが、父親のいうことも一理ある。
 とにかく、両親と牧野を一度会わせてみれば―――
 牧野つくしという人間を、わかってもらうには実際に会うのが一番だということは、誰よりも俺が知っている・・・・・。

 それにしても。
 俺は再び深い溜息をついた。

 あきらと牧野は、どこへ行ったんだろう。
 品のいいクリームイエローのアンサンブルスーツに身を包んだ牧野は、一瞬見惚れてしまうほどきれいで。
 俺とデートするときに、あんな格好したことなんて一度もなかったのに。
 何であきらと―――

 まさか、本当にあきらと・・・・・?

 
 -akira-
 家についても、牧野は心ここにあらずで。
 俺は、溜息をついた。
「牧野」
 俺の声に、はっと顔を上げる牧野。
「―――え、何?」
「大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫。ごめん、ちょっとボーっとしちゃって・・・・・」
 無理して笑顔を作る牧野の髪を、そっと撫でる。
「悪いな、すぐに終わらせるようにするから・・・・・。終わったらすぐに総二郎のとこに―――」
 そう言いかけたとき、スーツの胸ポケットに入れていた携帯が着信を告げる。
 慌てて携帯を取り、画面を見ると、そこには見慣れない電話番号が。
 誰だろうと思いながらも、俺はボタンを押す。
「はい。―――はい、わたしですが、どなた―――え!?」
 相手の名前に俺は驚き、目を見開く。
 そんな俺を見て、首を傾げる牧野。
「あ―――はい。いえ、大丈夫です。―――はい―――はい―――わかりました。では、後で―――失礼します」
 電話を終え、息を吐き出す。
「電話、誰から?お仕事?」
「あ、いや・・・・・牧野」
 自然に、笑顔が浮かぶ。
「何?いい知らせ?」
 相変わらずきょとんとしている牧野を軽く抱き寄せ、その頬にキスをする。
「わっ、な、何?美作さん?」
「すげえ、いい知らせ。後で教えてやるから、お前も楽しみにしてな」
 笑いながらウィンクしてそう言う俺を、牧野は不思議そうに見つめていたのだった・・・・・。






  

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