***Only one. vol.2 〜総つく〜***



 卒業式当日。

 朝から、学校の回りはマスコミや野次馬で溢れかえっていた。
 
 俺たち3人は、今まで袖を通すことのなかった制服を着て来ていた。
 司は結局仕事でこれなくなったと、朝になって連絡があった。

 「で・・・・結局牧野は来ないのか」
 あきらの言葉に、俺は肩をすくめた。
「さあな。あいつ、あれから俺の電話にでねえから、話もしてねえよ」
 その言葉に、窮屈そうにネクタイを緩めていた類がちらりと俺を見る。
「・・・・・昨日、牧野から電話あったけど」
「は!?」
 類の言葉に驚いたのは俺だ。
 牧野から電話?
 俺からの電話には出ないのに、類には自分からかけるのかよ?

 もやもやとした嫉妬心が、心の中に湧き上がる。
 類は、いつも牧野の中で特別な位置を占めていると思ってた。
 それはたとえ恋人でも侵すことの出来ないもの。
 それでも、牧野の恋人は俺なのだから・・・・・・

 「何の用で?」
 俺の言葉に、類はネクタイを緩めながらゆっくりと口を開いた。
「・・・・・なんか、相談したいことがあるみたいだった。詳しくは聞かなかったけど・・・・・会う時間、あるかって」
「会うって・・・・・牧野と?」
「他に誰がいるんだよ」
 類が呆れたように俺を見る。
「プロムなんて、牧野が来ないなら出てもしょうがないし。俺はいつでもいいって言ったら、引越しが終わったら来るって」
「ちょっと待てよ、何だよそれ!」

 頭に来た。
 引越しが終わったら、類に会いに来るだって?
 俺があんなに誘ってもプロムには出ないの一点張りだったくせに・・・・・

 「まあまあ、落ち着けよ総二郎」
 わなわなと肩を震わせる俺の肩を叩くあきら。
「これが落ち着いてられるか!何で類には会いに来て、俺の誘いは断るんだよ?相談って何だよ?彼氏の俺にも言えないことかよ?」
「総二郎だから、言えないんじゃないの?」
 類の言葉に、俺は固まる。
「俺だから・・・・・って、どういうことだよ?」
「だから、まだ俺は何も聞いてないし。知らないよ。だけど、総二郎には言いづらいことでも俺になら話せるってこと、あるんじゃないの?」
「ああ、そりゃああるかもな。お前ら、喧嘩してるし。なおさらお前に相談なんかできねえだろ」
 そう言ってあきらも頷く。

 俺は暫く、何も言うことができなかった。

 ―――俺は、牧野にとってなんなんだ?

 彼氏になって、俺は牧野にとって特別なんだと思ってた。
 俺にとって牧野がそうであるように、牧野にとっても俺は一番大事な存在になれたんじゃないかと。
 そう思ってた・・・・・。

 だけど、牧野にとっては・・・・・

 「―――冗談じゃ、ねえ」
 俺の小さな呟きに、あきらと類が、ちらりと視線を向ける。
「なんか言ったか?総二郎」
「・・・・・認めて、たまるかよ」
「何が?」
 きょとんとして俺を見る2人を無視し、俺は門に向かって歩き出した。
「おい、どこ行くんだよ?」
 あきらの声にも何も答えず、俺はそのまま歩き続けた。
 ただひたすら、あいつのいるところを目指して―――

 
 「漸く、動いたな」
 「意地っ張りだから、2人とも」
 そう言って2人が顔を見合わせ、笑っていたことなど、知る由もなく・・・・・


 制服のまま、集まっていたギャラリーの間をすり抜け、通りを全速力で走る。

 周りなんか気にしてる余裕はなかった。
 ただひたすら、おれは牧野の家を目指して走った・・・・・。

 
 「ねえ、TVは?」
「ああ!忘れてた!ギリギリまで見てたから!」
「もう乗せるとこないよ、どうすんの!?」

 ぎゃあぎゃあと大騒ぎしながら引越し作業をしている牧野家。

 それでもいつもながらの仲の良さそうな一家に、こんなときでも安堵している自分がいる。
 この家族だから、牧野つくしという人間が育ったのだと、今更ながら感心する思いだ。

 「あ、あら!西門さんじゃありませんか!」
 牧野の母親が俺に気付いて驚きの声を上げる。
  
 その声に気付き、階段を下りてきていた牧野が俺を見た。
「西門さん!?何でここに?卒業式は―――」
「ふけてきた。お前に会って―――どうしても話したかったんだ」

 じっと見つめる俺の視線を、牧野は戸惑った瞳で受け止めていた・・・・・。







  

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