卒業式当日。
朝から、学校の回りはマスコミや野次馬で溢れかえっていた。 俺たち3人は、今まで袖を通すことのなかった制服を着て来ていた。 司は結局仕事でこれなくなったと、朝になって連絡があった。
「で・・・・結局牧野は来ないのか」 あきらの言葉に、俺は肩をすくめた。 「さあな。あいつ、あれから俺の電話にでねえから、話もしてねえよ」 その言葉に、窮屈そうにネクタイを緩めていた類がちらりと俺を見る。 「・・・・・昨日、牧野から電話あったけど」 「は!?」 類の言葉に驚いたのは俺だ。 牧野から電話? 俺からの電話には出ないのに、類には自分からかけるのかよ?
もやもやとした嫉妬心が、心の中に湧き上がる。 類は、いつも牧野の中で特別な位置を占めていると思ってた。 それはたとえ恋人でも侵すことの出来ないもの。 それでも、牧野の恋人は俺なのだから・・・・・・
「何の用で?」 俺の言葉に、類はネクタイを緩めながらゆっくりと口を開いた。 「・・・・・なんか、相談したいことがあるみたいだった。詳しくは聞かなかったけど・・・・・会う時間、あるかって」 「会うって・・・・・牧野と?」 「他に誰がいるんだよ」 類が呆れたように俺を見る。 「プロムなんて、牧野が来ないなら出てもしょうがないし。俺はいつでもいいって言ったら、引越しが終わったら来るって」 「ちょっと待てよ、何だよそれ!」
頭に来た。 引越しが終わったら、類に会いに来るだって? 俺があんなに誘ってもプロムには出ないの一点張りだったくせに・・・・・
「まあまあ、落ち着けよ総二郎」 わなわなと肩を震わせる俺の肩を叩くあきら。 「これが落ち着いてられるか!何で類には会いに来て、俺の誘いは断るんだよ?相談って何だよ?彼氏の俺にも言えないことかよ?」 「総二郎だから、言えないんじゃないの?」 類の言葉に、俺は固まる。 「俺だから・・・・・って、どういうことだよ?」 「だから、まだ俺は何も聞いてないし。知らないよ。だけど、総二郎には言いづらいことでも俺になら話せるってこと、あるんじゃないの?」 「ああ、そりゃああるかもな。お前ら、喧嘩してるし。なおさらお前に相談なんかできねえだろ」 そう言ってあきらも頷く。
俺は暫く、何も言うことができなかった。
―――俺は、牧野にとってなんなんだ?
彼氏になって、俺は牧野にとって特別なんだと思ってた。 俺にとって牧野がそうであるように、牧野にとっても俺は一番大事な存在になれたんじゃないかと。 そう思ってた・・・・・。
だけど、牧野にとっては・・・・・
「―――冗談じゃ、ねえ」 俺の小さな呟きに、あきらと類が、ちらりと視線を向ける。 「なんか言ったか?総二郎」 「・・・・・認めて、たまるかよ」 「何が?」 きょとんとして俺を見る2人を無視し、俺は門に向かって歩き出した。 「おい、どこ行くんだよ?」 あきらの声にも何も答えず、俺はそのまま歩き続けた。 ただひたすら、あいつのいるところを目指して―――
「漸く、動いたな」 「意地っ張りだから、2人とも」 そう言って2人が顔を見合わせ、笑っていたことなど、知る由もなく・・・・・
制服のまま、集まっていたギャラリーの間をすり抜け、通りを全速力で走る。
周りなんか気にしてる余裕はなかった。 ただひたすら、おれは牧野の家を目指して走った・・・・・。
「ねえ、TVは?」 「ああ!忘れてた!ギリギリまで見てたから!」 「もう乗せるとこないよ、どうすんの!?」
ぎゃあぎゃあと大騒ぎしながら引越し作業をしている牧野家。
それでもいつもながらの仲の良さそうな一家に、こんなときでも安堵している自分がいる。 この家族だから、牧野つくしという人間が育ったのだと、今更ながら感心する思いだ。
「あ、あら!西門さんじゃありませんか!」 牧野の母親が俺に気付いて驚きの声を上げる。 その声に気付き、階段を下りてきていた牧野が俺を見た。 「西門さん!?何でここに?卒業式は―――」 「ふけてきた。お前に会って―――どうしても話したかったんだ」
じっと見つめる俺の視線を、牧野は戸惑った瞳で受け止めていた・・・・・。
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