***Only one. vol.3 〜総つく〜***



 「類に、何の相談がある?」
 牧野を近くの公園まで連れ出し、おれはそう聞いた。
「え・・・・・」
「電話、したんだろう?類に」
「ああ・・・・・うん。でも、それは・・・・・」
「何で俺じゃねえんだよ?」
 俺の言葉に、牧野が目を丸くする。
「は?」
「何で相談するのが、俺じゃなくって類なわけ?お前の彼氏は俺だろうが」
 怒りをどうにか抑えるので精一杯だった。
 
 何で俺じゃなくって類?

 どうしてもそれを聞かずにはいられなかった。

 「俺には言えないことでも、類だったら言えるわけ?」
 その俺を、戸惑ったような表情で見上げる牧野。
「ちょっと待ってよ、何でそんな話になるの」
「お前が俺に何もいわねえからだろ?それとも、今更心変わりしたとか言うのかよ?」
 その言葉に、牧野がむっと顔を顰める。
「だから、何でそういうことになるのよ?花沢類はそんなんじゃないって、西門さんは分かってくれてると思ってたけど」
「買いかぶるなよ。俺だって普通の男だよ。自分の彼女が自分以外の男と仲良くしてりゃあやっかみたくもなる」
「・・・・・じゃあ、自分はどうなのよ?」
「は?俺?」
 突然話を振られ、俺は首を傾げる。
 牧野はむっとした表情のまま、俺を睨みつけていた。
「何の話だよ?」
 俺の言葉に、牧野はぷいと横を向いてしまう。
「おい、ちゃんと話せよ。何のことだ」
「・・・・・こないだ、優紀といるとこ、見た」
「は・・・・・?いつ?」
「2週間くらい前・・・・・。バイトの帰りに、2人で駅前にいたでしょ」
 牧野の言葉に、俺はしばし記憶をたどった。

 2週間前・・・・・そういえば、あきらと飲んだ帰りに偶然優紀ちゃんと会ったことが・・・・・

 「そんなこと、気にしてたのか?」
 俺の言葉に、牧野がキッと顔を上げる。
「そんなことって!西門さんにとっては他の女の子と会うのはそんなことかもしれないけど、あたしにとっては―――!」
「妬いてたんだ?」
 その言葉に、牧野の頬が染まる。
「べっ、別にそういうわけじゃ・・・・・」
「じゃ、どういうわけ?」
「だから、それは・・・・・」
 悔しそうに唇を噛み、俺を睨みつける牧野。
 俺はなんだか嬉しくなって、頬が緩むのを感じていた。
「・・・・・優紀ちゃんとは偶然会っただけ。あの後すぐに別れたよ」
 そっと牧野の髪を撫でる。
「ずっと気にしてたのか?言えばよかったのに」
「・・・・・言えないよ」
「なんで?」
「だって・・・・・優紀と西門さんのことは、知ってるもん。あたしと付き合う前のことだけど・・・・・でも、もしかしたら優紀はまだ西門さんのこと好きかもしれないって思ったことあったし、西門さんだってもしかしたらって・・・・・」
 俯きながら、そう話す牧野がかわいくて。
 俺は牧野の頬にそっと唇を寄せた。
「―――バカなやつ」
「な、何よ、だって―――」
「優紀ちゃんとお前は違う」
「違うって・・・・・」
「優紀ちゃんにはいろいろ感謝してるよ。でも、彼女に恋愛感情を持ったことは一度もない。それは誓って言える」
 俺の言葉に、牧野がゆっくりと顔を上げる。
「・・・・・ほんとに?」
「ああ。大体・・・・・お前と付き合ってて、その親友に手ぇ出すほど俺も馬鹿じゃない」
「親友じゃなかったら、手ぇ出すの?」
「アホ」
「な・・・・・何よ、馬鹿とかアホとか、ずいぶん―――!」

 牧野の唇を塞ぐ。

 何度も啄ばむようなキスをして・・・・・。

「・・・・・俺が好きなのは、お前だけ。他の女なんか、目に入らない」
 そっと耳元で囁けば、頬を真っ赤に染め上げながらも、俺を睨みつける強気な女。
「・・・・・嘘ばっかり」
「マジだって。それより・・・・・誤魔化さねえで、そろそろ俺の質問にも答えろよ」
「え?」
「類に・・・・・何の用があった?」
 逃げられないように、牧野の腰をぐいと引き寄せる。
「それは―――」
 気まずそうに視線をそらせる牧野。
 でも、逃がしてなんかやらない。
「それは?」
「・・・・・髪を、切ってもらおうと思ったの」
「・・・・・は?」
 牧野の言葉に、目を丸くする。
「だって・・・・・最近美容院にも行ってないから伸びすぎちゃって・・・・・。せっかくドレス着ても、これじゃみっともなくて・・・・・だから、花沢類に・・・・・」

 思ってもみなかった話に、言葉がすぐには出てこなかった。

 ―――じゃあ、俺のために・・・・・?

 「だったら、ちゃんと言えよ。プロムにも、出るつもりで・・・・・?」
 恥ずかしそうに、頬を染めながら頷く牧野。
「あたし、ダンスなんて踊れないし、ドレスも似合わないし、きっと浮いちゃうから・・・・・やめようと思ったのも本当なの。でも・・・・・美作さんが、西門さんが他の女を誘ってもいいのかって・・・・・」
「・・・・・お前だって、そうすればって・・・・・」
「本気なわけ、ないでしょ。そんなの・・・・・嫌に決まってる・・・・・あたし以外の人となんて、行って欲しくない」
「・・・・・ほんと、バカなやつ」
 そう言って、ふわりと抱きしめる。
 優しく抱かなきゃ、折れてしまいそうなほど細い体。
 俺は牧野の髪に、そっと口付けた。
「俺が、お前以外の女誘うなんてありえない。こんなに惚れてんのに・・・・・。少しは信用しろよ」
「・・・・・自信、なくて・・・・・。西門さんの隣にいても、吊り合うようになりたかった。見た目だけ取り繕ったってしょうがないってわかってるけど・・・・・。でも、プロムのときだけでも何とかならないかなって・・・・・類に相談したの・・・・・そしたら、髪切るくらいなら、やってあげるって」
「それが、間違いなんだよ」
「だって」
「類に・・・・・他の男に髪なんか触らせるな」

 そっと体を離し、牧野の瞳を見つめる。

 「お前は、そのままでいい。俺は、どんな格好でもお前なら何でもいいんだ。取り繕う必要なんかない。ただ俺の隣にいてくれれば・・・・・」
「西門さん・・・・・」
「俺がどんなに不安だったか・・・・・。これからは、もう容赦しねえから・・・・・覚悟しとけよ?」

 そうしてまた、牧野の柔らかい唇を塞ぐ。

 もう他のことなんて考えられないように、熱く、深く・・・・・。

 
 その後、ドレスに着替えさせた牧野をエスコートして。

 作戦成功と、満面の笑みで迎えた親友たちに制裁を加えたのは、言うまでもない・・・・・。


                             fin.





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