***Only one. 2 vol.2 〜総つく〜***



 
 夜9時。

 花沢邸から出てきた牧野を、俺は黙って車に乗せた。

 「―――ありがと。迎えに来てくれて」
 しばらくして、牧野がちょっとき気まずそうに口を開いた。
「それから―――勝手にバイトのこと決めて、ごめんね」
「・・・・・ああ」
「相談すればよかったって思ったんだけど・・・・・類に、急ぎだって言われてあせっちゃって。それに、類の家なら安心だと思ったんだけど」
 牧野の言葉に、俺は肩をすくめた。
「それが間違いなんだって。前にも言っただろ?友達だとは思ってるけど、男としては信用できねえんだって。特にお前に関しては・・・・・。他の男の家に、たとえ仕事でも通い詰めるなんてこと笑って許せるわけねえっつーの」
「ん・・・・・」
「けど・・・・・昼間は俺も言い過ぎた。ごめん」
 そう言うと、牧野がちょっと驚いたように俺のほうを見た。
「なんだよ、その顔」
「だって、西門さんが謝るなんて・・・・・」
「お前な」
 思わず顔を顰めると、それを見て牧野がぷっと吹き出した。
「ごめん、つい・・・・・」
 俺は溜め息をつき―――

 車を路肩に寄せると、そのまま停車した。

 牧野の家にはまだ着いていない。

 隣を見れば、微かに頬を染めた牧野の顔。

 艶やかな黒髪に手を伸ばし、そっと撫でるように引き寄せる。

 触れるだけのキスから、深く、甘い口付けを交わす・・・・・。

 唇を離す頃には牧野の瞳が甘く潤んでいて・・・・・

 「このまま、連れて帰りてえな・・・・・」
 俺の言葉に、牧野がくすりと笑った。
「明日、茶会があるって言ってなかった?」
 その言葉に、がっくりと肩を落とす。
「ったく・・・・・。お前は、あきらとパーティーだっけ」
「ん・・・・・。ドレスとかメイクとか、支度しなきゃいけないから昼ごろには迎えに来てくれるって。パーティーって苦手だから、早く終わってくれるといいんだけど」
「断わりゃ良かっただろ」
「だって、美作さんの頼みだもん、断れないよ」
「甘いよな、お前は」
 溜め息をつくと、牧野が苦笑する。
「西門さんも、そうでしょ?だからね、美作さんも花沢類もわかってて甘えてるんだと思うよ?西門さんに」
「性質がわりいな、あいつらは」
「友達だから、だよ。あたしにとっても2人は大切な友達だよ。だから、心配しないで」
「そう言われちゃあ、何も言えねえだろ。しょうがねえから今回だけは我慢してやるよ。ただし・・・・・わかってるだろうな、つくしちゃん」
 じっと見つめて言えば、牧野の頬が赤く染まる。
「な、何?」
「あいつらには・・・・・触れさせるなよ」
 そう耳元で囁いて。
 牧野が何か言う前に、その唇を塞ぐ。

 早く自分だけのものにできれば。

 その思いが俺の胸を焦がす。

 恋人であっても、自分だけのものじゃないという気がして切なさが募る。

 離れがたくて。

 このままさらってしまうことができたらいいのにと、俺がいつも思っていることなどこいつは気付いていないんだろう・・・・・。


 翌日の茶会は、気乗りはしなかったもののサボるわけにも、手を抜くわけにもいかず。

 何とか集中力をかき合わせて時間が過ぎていくのを待った。

 ようやく茶会が終わった頃にはすっかり日も暮れていて。

 俺は母親の小言が始まる前に家を飛び出し、車を走らせたのだった。


 パーティーの会場は都内の高級ホテルの最上階にあるホールだった。
 もちろん招待客しか入れなかったしパートナー同伴が原則だ。

   どうやってそのパーティーに入り込むか。
 急なことだったから桜子や優紀ちゃんに頼もうにも2人とも連絡がつかないときてる。
 滋は今海外だって話だし、他の女に頼むのはそれこそ後が面倒だ。

 ホテルに着いたものの、どうしようか考えあぐねていると、突然後ろから肩を叩かれた。

 驚いて振り返ると、そこには見知った顔の2人が立っていたのだった・・・・・





  

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