***Only one. 2 vol.1 〜総つく〜***



   *このお話は「Only one.」の続きになります。  最初からお読みになりたい方はこちらからどうぞ♪


 「は?今なんつった?」
 あきらの言葉に、俺は思わずそう聞き返した。
「だから、明日1日牧野を貸してくれって言ってんの」
「なんだよそれ、どういうことだ」
「その顔こええから止めろ。パーティーがあるんだよ。親父の代わりに出席することになってるんだけど、パートナーがいねえんだ。だから牧野に―――」
「何で牧野なんだよ?」
「だって俺今彼女いねえし。どうでもいい女にこんなこと頼めねえだろ?勘違いして結婚する気にでもなられたらたまんねえし」
 肩をすくめるあきらを、それでも俺はじろりと睨みつける。
 何だかんだ言ってまだ牧野に思いを残してるあきら。
 牧野も、あきらには気を許しているところがあるし。
 そんなあきらと牧野を2人きりにするのは危険な気がして仕方ない。
 何とか俺も着いていけないかと考えをめぐらしていると―――
「お前、自分の用事を忘れてるだろ」
 とあきらに言われ、はたと考える。  

 ―――明日?明日は・・・・・

 「・・・・・そうか、茶会が・・・・・」
 ようやく思い出して言えば、あきらがにやりと笑う。
「諦めるんだな。もう牧野には了解もらってるし。きっちりエスコートさせてもらうから安心してお前は仕事しろよ」
 にやりと不敵な笑みを浮かべるあきらに。
 それがすべて計算されていたことだと瞬時に理解する。
「お前!だから前日の今日になって―――!」
「そりゃそうだろ。もっと前に言ってたらお前のことだ、何とかして邪魔してただろうが」
 しれっと言うその態度に頭に来てわなわなと体を震わせる。
「俺は絶対ゆるさねえぞ!」
「だーかーら、もう牧野には了解もらってるし、ドレスなんかもオーダー済みなんだよ。今更中止になんかできねえって」
 そう言って立ち上がり、さっさとカフェテリアをあとにしようとするあきら。
「おい、待てよ!」
「明日は昼ごろには牧野迎えに行く予定だから。よろしく言っといてくれよ」
 ひらひらと手を振り、言ってしまうあきら。
 俺は怒りの矛先を向ける先を失い、その場に呆然と立ち尽くしていると―――

 「あれ、西門さん、そんなとこで立ってどうしたの?」
 カフェテリアに入ってきた牧野が俺に気付いて歩いてくる。
「牧野、お前・・・・・あきらとパーティーに行くって」
「え?ああ、あれ・・・・・」
 なんでもないことのように頷く牧野に、またカチンと来る。
「ああ、あれじゃねえだろ?何で勝手にそんなこと引き受けたりするんだよ?」
「だって・・・・・美作さんが、もう西門さんには了解もらってるからって言ってたから」
 その言葉に、開いた口が塞がらない。
 再び、怒りがふつふつと蘇る。
「あんのやろ・・・・・」
「だから・・・・西門さんは知ってるんだと思ってたんだけど・・・・・・もしかして知らなかった?」
「まったくな。あきらのやろう、まんまと俺をはめやがって」
「えっと・・・・・それで、今日の放課後のことなんだけど」
 怒りに体を震わせる俺に、牧野が言いづらそうに口を開く。
「2人で、食事に行こうって言ってたけど」
「ああ、今日はバイトないって言ってただろ?」
「それがね・・・・・急にバイトが入っちゃって」
 牧野の言葉に、俺は思い切り顔を顰める。
「なんだよそれ、断れねえの?」
 毎日バイトに明け暮れる牧野は、土日ももちろんバイトで。
 だから、週1回の休みは俺にとっても貴重な日なのに。
「ごめん。実は、花沢類に頼まれて・・・・・」
「はあ?類?どういうことだよ、それ?」
「花沢類の家の家政婦さんが、急に1人辞めちゃって・・・・・。新しい家政婦さんを雇わなくちゃいけないんだけど、いろいろ雇うのに条件が厳しいらしくて、決まるまでに時間がかかりそうなんだって。だから、決まるまでの臨時で来てくれないかって・・・・・」
「おい・・・・・ちょっとまてよ。それはつまり、類の家でバイトするってことか?」
「うん。たぶん、2週間くらいで決まるだろうから、その間だけって言われたの」
「その間だけって・・・・・お前、それを簡単に承諾しちまったのか?」
「だって時給1500円くれるって言うし、2週間だけなら他のバイトも辞めずに済むからいいかなって」
「いいかなって!」

 頭にきた。
 何でこいつはこうお人好しで鈍いんだろう。
 大体、類が牧野をバイトに雇うなんて、牧野を自分の傍に置いておきたいからに決まってるんだ。

 「何怒ってるの?花沢類の家なら心配ないでしょ?」
 きょとんと首を傾げながらそう言う牧野に、俺は頭を抱える。
「類の家だから心配なんだろうが!いいか、俺は絶対認めねえぞ!あいつの家でバイトだなんて!」
 声を荒げる俺に、牧野はむっと顔を顰めた。
「何で西門さんにそんなこと言われなきゃならないわけ?大体、もうやるって言っちゃったもん。いまさら断れないよ」
「俺が断る!」
「やめてよ、勝手にそんなこと!」

 「何2人で大きな声出してんの?」

 突然類の声がわって入り、俺たちはそっちを見る。
「類!お前ふざけんなよ!」 「何のこと?」
「バイトだよ!何で牧野がお前の家の家政婦しなきゃいけないんだよ!」
「ああ、そのこと」
 類が眠たそうに1つ欠伸をすると、肩をすくめた。
「だって、本当に困ってたから。それに牧野なら安心だし、牧野だってやる気だから別にいいでしょ」
「何が―――」
「とにかく、もう時間だから。牧野、行こう」
 そう言って、類がさっさと牧野の手を引いていく。

 俺は呆気にとられ―――

 気付けば、2人の姿はカフェテリアから消えていたのだった・・・・・





  

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