「牧野つくしは、F4を変えた。私たち親はそう思っているんだよ」
そう言って類のお父さんは笑った。
「それもちょっとした変化ではなく、劇的な変化だ。そんなことができる女性は、きっと牧野さん以外にはいないだろう。だったら―――牧野さんとの関係が変わらないことが、4人にとって一番なんじゃないかと思ったんだ。そうすることで仕事に対する姿勢も変わってくるだろう。単なる後継ぎとしてじゃない。1人の大人の男として―――おまえたちにはもっと成長していってほしい。そのために、牧野つくしは必要なんだと、私たちはそう思ったんだ」
「それで・・・・・あたしはこれからどうしたら」
あたしの言葉に、類のお父さんがさらに笑みを深くした。
「牧野さんがこの話に納得してくれるのなら、すぐにでも結婚の話を進めたいと思っているよ」
「え・・・・・」
すぐにって、だって大学は?
「もちろん、大学には行ってもらって構わない。結婚はこちらの都合だ。あなたの生活は希望通りになるよう万全のフォローをさせてもらうよ。形として、結婚というものが必要なんだ」
「形としてって・・・・・」
類の方を見ると、類がちょっと複雑そうな表情であたしを見た。
「―――牧野に、話したいことがある」
ピンと、何かが張り詰めたような気がした。
一気に緊張した空気に、一緒にいた3人もそっと顔を見合わせた。
「俺たちは、外で待ってる」
そう言ったのは道明寺だ。
それに類のお父さんも頷き、全員が部屋を出たのだった。
「類―――」
「ごめん、急に。でも、こうするしかなくて―――」
「どういうこと?」
「俺の父親―――実は、癌なんだ」
その言葉に。
あたしはすぐに言葉を発することはできなかった・・・・・
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「胃癌で、もう手術もできない状態だって言われた。今はまだ元気そうにしてるけど、かなり無理してるんだ。本当は仕事なんてしてられる状態じゃない。だけど、立場上そうもいかなくて・・・・・。今は、母親が代わりにできる部分はやってくれてる状態なんだ」
そうか・・・・・
だから、この場に類のお母さんはいなかったんだ・・・・・
「もちろん、俺が後を継いだとしたってすぐに代わりができるわけじゃない。おれには経験も部下からの信頼もまだないからね。それはやっぱり現場に出ないと取得できないものだと思うんだ」
「じゃあ、仕事するの?」
「と、俺も思ったんだけどね。大学卒業まであと2年だ。その2年は何とか母親と会社の今の重役たちで何とかするって。大学ではしっかり勉強してほしいって、これは母親からの言葉」
「そうだったんだ・・・・・じゃあ、あたしは・・・・・」
「牧野は、俺のそばにいてくれればいい。俺は、牧野がそばにいてくれればどんなことでもできると思ってる。本当は結婚もすぐじゃなくていいって言われたんだ。だけど、父親の体のこともあるし・・・・・早く、安心させたい」
類のお父さんは、とても厳しい人だと聞いていた。
類とは正反対で、子供のころからとても厳しくしつけられたと。
だけどやっぱり親子だから・・・・・・
お互いを思いやる心が、今になってようやく芽生えてきたのだろうか・・・・・・
それならあたしは。
類のためにできることなら、何でもしたい。
それが、今のあたしの気持ちだった・・・・・
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