「牧野!」
ホテルの一室であたしを迎えてくれたのは、笑顔の類だった。
部屋に入った途端、駆け寄ってあたしを抱きしめてくれた類。
そのぬくもりに。
漸くあたしはほっとし、同時にとてもこの人に会いたかったんだと、実感してしまった。
「会いたかった」
類の言葉に、涙が出そうになる。
たった1週間。
それでも会えないことが辛かった.....。
「お取り込み中失礼」
突然響いてきたその声に、あたしは驚いて類から離れた。
類以外の人が部屋にいたことに、まったく気づかなかったのだ。
そこにいたのは、背の高いちょっと神経質そうな目鼻立ちの整った初老の男性だった。
「はじめまして、牧野さん。私は花沢卓といいます」
類の、お父さん.....。
「類を足止めしていたのは私だ。類とはじっくり話をしたくてね。かといって仕事を休むわけにもいかない。気がついたら1週間も経っていた。すまなかったね」
類のお父さんに頭を下げられ、あたしのほうが慌ててしまう。
「いえ、そんな」
「4人の男で取り合っているというお嬢さんがどんな人なのか一度会ってみたいと思っていたんだが.....思っていた人物とはだいぶイメージが違うな」
「え・・・・・」
なんとなく、がっかりされたみたいであたしはすぐに言葉が出てこなかった。
「父さん―――」
「ああいや、悪い意味ではない。もっと、男の気を引くような華やかな女性をイメージしていたんだよ。もちろんメディアを通してその姿は知っていたけれど。メディアというものは当てにならないものだからね。だが−−−よかった。君のような人で」
それは、どういう意味だろう?
「類が、その辺のパーティーで見るような遊び好きな女性にのぼせているんだったら、私は君を認めないつもりだった。だが.....そんな心配はいらなかったようだ」
にっこりと微笑む類のお父さん。
そして次に出てきた言葉に、あたしだけではなくあたしの後ろにいた3人も、呆気にとられることになるのだった。
「ぜひ―――類と結婚して、類の子供を産んで欲しい」
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「実は、君たちの親御さんたちとも話をさせてもらったんだよ」
類のお父さんがそう言った。
「俺たちの―――?うちのおふくろとも、ですか?」
道明寺が、信じられないというように顔をしかめる。
「もちろん。お互い、損のないようにするにはどうしたらいいか、ということを話し合わせてもらった。勿論君たちの気持ちは分かっているつもりだった。だが―――類と話すまでは牧野さんの気持ちを知ることは難しかった」
類のお父さんの、穏やかだが厳しい視線があたしに注がれる。
「君が、類たち4人のことをとても大事に思っているということ。同じくらいの愛情で、誰も失いたくないと思っていること、それでいて今の状況にまだ戸惑っていることを聞いたよ」
類を見ると、優しく穏やかな笑みであたしを見つめていた。
「それが真実だとしたら・・・・・君に決断を迫るのはひどく残酷なことだと思った。もちろん必要なことではあるし、どの家もそれを待ち望んではいる。だが、それが果たしていい結果を生むかどうかはまた別の話だ」
そこで一つ息をつくと、類のお父さんは再びその視線をあたしに向けた。
「そこで、私が提案したんだ。1人息子の類が結婚するかしないかというのは我が家にとっても会社にとっても非常に重要な問題だ。そこで、牧野さんさえ納得してくれるなら類と結婚させてくれないかと。ただし、他の3人との関係が壊れるようなことにはならないように配慮すると。そして3人が納得してくれるなら―――後継ぎの問題は他の兄弟に任せることにしようと」
その言葉に。
あたしたちは再び顔を見合わせたのだった・・・・・。
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